レソト:結核・HIV/エイズの二重感染に苦しむ人びと

2010年04月01日掲載

レソト王国のモリジャにあるスコット病院の女性病棟の外では、短い通路いっぱいに咳の音が響いている。この病棟の看護スタッフ以外に、整然と並べられたベッドの間を訪れる人は見当たらない。窓の外には荘厳にそびえ立つ山々と所どころ緑色の野原の美しい景色が見える。この病棟の患者たちは、レソトのHIV感染者の死因第一位となっている結核の重症者である。

57歳のマムフォ・ラツェセは、この病棟に入院している結核とHIVの二重感染者の一人であり、最近治療を求めてやって来た新たな患者の一人である。先月、彼女が初めてスコット病院にやって来たとき、彼女には盗汗、絶え間ない咳、熱、息切れという典型的な結核の症状がみられた。その日のうちに胸部X線写真が撮影され、すぐに肺のすぐ外側の胸腔に結核感染(肺外結核の胸水)があることがわかった。結核感染により肺周辺部に水が過剰に溜まると、深刻な呼吸障害につながる。

「結核には2種類あります。最も多いのは主に肺だけに感染する肺結核です。もう一つは、肺外結核で、肺以外のすべての器官に感染が見つかる可能性があります。肺外結核で最も多いのは、胸腔への感染です。この他にもリンパ節、腹部、脳髄膜、関節や骨への感染があります。通常、肺外結核の方が症状が重く、入院が必要な場合もあります。重症の場合は抗結核療法に9ヵ月から1年かかる場合もあります」と、レソトで国境なき医師団(MSF)の結核プログラムの指揮を執るロラ・トリヴィノ・ドゥラン医師は説明する。

世界の最貧国の1つであるレソトでは、国民190万人のうち半分以上が貧困ライン以下の生活を送っているが、ラツェセもその一人である。結核やHIVの感染率および結核/HIVの二重感染率が高く、レソト人の生存率は非常に低い。レソトのHIV有病率は世界第3位(スワジランド、ボツワナに次ぐ。ただし、レソトはこれら2国よりも貧しい)であり、1年当たりの結核罹患率が10万人中の637件と世界で4番目に高い。気がかりなのは、毎年1万8000人(人口の約1%)が結核や薬剤耐性結核(DR-TB)などのエイズ関連の合併症で命を落としていることである。しかし、最も懸念されるのは、HIVと結核の二重感染率が90%と驚くほど高い点である。

57歳のマムフォ・ラツェセは結核とHIVの二重感染でモリジャにあるスコット病院で治療を受けた。 57歳のマムフォ・ラツェセは結核とHIVの二重感染で
モリジャにあるスコット病院で治療を受けた。

ラツェセにとって、これらは単なる統計ではなく、冷酷で厳しい現実である。2006年にHIV/エイズ関連とみられる合併症によって夫を亡くし、その翌年の2007年には彼女もHIV陽性と診断された。6人いた子どものうち、すでに2人が結核で亡くなっている。2006年、治療計画とその遵守についてアドバイスできるように、資格のない一般の人が研修を受けて育成される「レイ・カウンセラー」も導入されたが、彼らもHIV感染者や結核とHIVの二重感染者であることが多い。

彼女は語る。「夫を亡くしてから苦難続きでした。夫は大黒柱でしたから。でも今は、私は入院中ですし、食糧はほとんどありません。他に頼れる人もいません。家族のことで娘には既に苦労させていますが、さらに負担を掛けてしまいました」

肺外結核の感染が見つかった胸腔に溜まっていた水の圧力を緩和するため、医師は彼女の胸にチューブを挿入して水を抜いている。3日前、最初は機敏さと快活さがあるように見えた彼女だが、今はすっかり衰弱してしまったように見える。しかし、彼女はまだ回復への希望を捨てていない。

彼女は語る。「結核とは何か、それが何を意味するのかは、まだよくわかりません。知っているのは、結核が他の人から空気を介して感染するということだけです。いま私はこんな状態ですが、まだ希望を持っています。今までもっと辛いことを経験してきました。これまでで最も辛く悲しかった出来事は、夫が亡くなり、面倒をみてくれる人を失ったことでした。でも、希望は捨てません」

レソト王国での国境なき医師団(MSF)の 結核プログラム

MSFは、2006年からレソトで活動しており、スコット病院と診療所14ヵ所において、看護師主体のHIV/エイズと結核の統合治療を他に先駆けて行っている。これらの施設の担当区域にはHIV感染者およびエイズ患者3万5000人とARV治療を必要とする1万人の患者がいる。現在、MSFのスタッフは26人おり、スコット病院の管轄区域では41人のカウンセラーが活動している。

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