ホンジュラス:デング熱への警戒を続ける

2010年09月17日掲載

国境なき医師団(MSF)は、ホンジュラスの首都テグシガルパで起きたデング熱流行に緊急に対応している。今回の流行が、どのようなことに関係しているのかをより理解するため、MSFの新興感染症対策技術顧問であるルーシア・ブルムに話を聞いた。

記事を全文読む

中南米におけるデング熱流行の増加は、この疾患を抑制するための資源が不足しているということなのでしょうか?

デング熱との闘いは、包括的な、相関性のある戦略を必要とします。それは、疫学的および昆虫学的な視点からの監視、地域への健康教育、環境衛生の改善、媒介虫駆除(つまり、この疾患を媒介する蚊の駆除)と治療です。ですので問題は、デング熱対策への財源が不足しているということではなく、大半の中南米諸国に、公衆衛生対策による、この疾患への包括的アプローチが存在していないことです。また、対策は継続性に欠けることが多いほか、この疾患と闘うにあたってのすべての側面を網羅するに至っていません。

社会経済的な要因もあります。衛生状態が悪いことや、上下水道の問題などです。たとえば、ホンジュラスでMSFが活動している地域のように、住民が2週間に1回しか水を受け取れず、くみ置きにせざるをえないことがあります。すると、デング熱が発生しやすくなります。なぜならば、この疾病を広めるネッタイシマカは水たまりで発生するからです。また、ごみに水がたまることもあるので、ごみが定期的に収集されない場合は、これも問題となります。

デング熱と闘うために何をすべきなのでしょうか?

デング熱には、日常的に取り組んでいく必要があります。警戒を緩めてはならないのです。報道機関は、症例数が多いこの疾患の大流行に注目する傾向があります。けれども、先ほどお話したように、まずこの疾患を予防し、そして封じ込めるために、私たちが1年を通してできることはたくさんあるのです。

私たちは警戒を緩める傾向があります。1年中存在し続ける他の疾患と違って、デング熱には流行するピークがあります。ピークは通常、雨季で、天候がいつもより暖かい時期と同時で、中南米諸国では1年の後半にあたります。

病気が流行している間、政府当局と住民が、起きていることに関して非難しあう傾向があります。しかし、デング熱の予防には皆に責任があるのです。まず、地域への健康教育を推進するのは現地政府にかかっています。住民に自分の健康を守るために学ぶことを奨励するのです。その一方で、住民は自分たち自身で積極的な予防戦略を作る必要があります。有効なワクチンがない以上、地域社会の参加なくしては、デング熱の根絶は不可能でしょう。

デング熱の感染を止めることはできるでしょうか? 感染を予防する薬かワクチンの研究は進められているのでしょうか?

媒介虫駆除の様子。デング熱を予防する唯一の方法である 媒介虫駆除の様子。デング熱を予防する唯一の方法である

これまでのところ、デング熱を予防する唯一の方法は「媒介虫駆除」、つまり、この疾患を媒介する蚊を退治するということでした。医療レベルにおいては、症例の大半を入院を必要としない外来患者として受け入れ、対症療法を行います。医療スタッフは症状を軽減し合併症を回避できますが、デング熱の病因に基づいた治療はなく、この疾患に特化した抗ウイルス薬は存在していません。

治療が成功し、病後の経過が良好であることは、早期の臨床判断と、患者が十分に水分補給をできていることと密接に関連しています。しかしデング熱が流行し、感染者の割合が高くなると、医療サービスは混雑する傾向にあり、重要な早期の臨床判断が遅れます。これによって、デング出血熱やデングショック症候群といった、より重症例に発展し、死亡率が増すのです。

26年前、世界保健機関(WHO)は、デング熱用ワクチン開発のために委員会を立ち上げました。委員会は、検査施設や研究機関などに参加を促すことを目的としていましたが、ワクチンはいまも市場には出回っていません。

ワクチンがない理由には、いくつかの要因が考えられますが、主な問題はデングウイルスには4つの血清型(血清型1、2、3、4)が存在し、有効であるためには4つすべての血清型を同時に抑制しなければならないからです。

ワクチンは早急に必要です。それは、デング熱が他の諸国に広がって、この病気の流行の発生回数が増え、より重度になるとみられているからです。ワクチンは今後5年以内に利用可能になると予想されています。

なぜこれほど多くのデング熱の症例が、いまホンジュラスで見られるようになったのでしょう?

デング熱による全死者数の70%以上を占めるのは子どもである デング熱による全死者数の70%以上を占めるのは子どもである

蚊が媒介する主要なウイルス性疾患であるデング熱が世界的に発生していることは、途上国における現代社会の問題と密接に関連しています。人口爆発、無計画な都市化、公衆衛生対策の機能低下、そして、プラスチック容器やタイヤが蚊の発生地となって引き起こされる環境汚染などです。また、グローバル化も問題の一端となっています。これまでデング熱が報告されていなかった地域へ感染者が移動することで、媒介虫やウイルスの血清型も移動します。同様に、地球温暖化も、この疾患のまん延の一因となっています。

ホンジュラスの状況は、最近の世界的傾向の一部にすぎません。中南米、アジア、アフリカとオセアニアでは、流行性疾患が増えているのです。従来のデング熱に加えて、より症状の重い、つまりデング出血熱とデングショック症候群が増えています。後の2つは、この疾患の中でも最も恐れられているもので、命にかかわることもあるため病院での治療を必要とします。両方ともMSFの医療活動の中心ですので、テグシガルパにあるサン・フェリペ病院のデング熱用小児病棟で子どもを受け入れています。子どもは最も危険性の高い年齢層で、報告された全死者数の70%以上を占めています。

感染者が出た国での流行の影響はどのようなものでしょうか?

デング熱が国にとって大きな負担となるのは、膨大な入院患者の数と、この病気が続く日数のためです。流行期間中に複数の患者に行われる効果的なケアは、より少ないときに個々に向けられるケアと質的に異なります。多くのデング熱患者をケアするには、器具、訓練を受けた医師と看護師、患者の危険の程度に応じた分類を迅速に行える基準、ベッドや物資、治療および隔離ガイドラインの策定が必要です。「隔離」とは、血液や他の体液を取り扱ううえで通常行っている予防措置だけでなく、蚊帳の使用も指しています。もしネッタイシマカ属の蚊が病棟内にいて、ウイルス血症(このウイルスが発熱期間に血中を循環している状態)の患者を刺せば、この蚊がデング熱の感染を媒介し、この流行性疾患がまん延する一因となります。

この疾患により、通常は考慮されないけれど、実質上、経済的影響を伴う間接的な負担が発生します。たとえば、感染患者は回復するまでに平均して10日間療養する必要があるので、その間は労働力が奪われます(この疾患が、「骨折熱」と現地で呼ばれていることにもうなずけます)。また、流行によって病院は混雑し、医療体制にも通常の範囲を超える負荷がかかるので、運営・管理に混乱が生じ、他の病気にかかった患者に影響が出ます。

先ほど述べたように、この疾患と闘うためには包括的な戦略の策定が不可欠です。きちんと説明し、医療サービスや早期の臨床管理を受けられれば、だれもデング熱で亡くならないですむでしょう。

関連情報