シリア:保健医療体制が崩壊――増え続ける医療ニーズ

2013年10月10日掲載

やけどでMSF病院に搬送されてきた少女

内戦が続くシリアの情勢は、混迷の度を増しています。内戦前は高い水準にあった保健医療体制が崩壊し、大勢の人びとが適切な医療を受けられない状態となっています。

紛争で負傷した人に加え、糖尿病・がん・高血圧などの慢性疾患患者、燃料の品質悪化に伴うやけどの事故、母子保健・産科医療、心理ケア、予防接種などMSFだけでは対応しきれないほど医療ニーズが高まっています。

一方、援助活動には危険も伴います。戦闘地域では、医療施設や医療スタッフが攻撃の標的となります。爆撃されたり、戦闘に巻き込まれたりするケースも想定されます。MSFはシリア内戦のすべての当事者に、人びとが必要な医療を受けられる環境と、MSFをはじめとした人道援助団体が安全に活動できる環境を保障することを求めます。

イドリブ県  アレッポ県  ラッカ県  ハサカ県  遠隔地

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重度のやけど患者が増加――イドリブ県

やけどで手の機能が損なわれてしまう人も少なくない

MSFは2012年6月、同地域にシリア国内で最初のMSF病院を設置した。個人住宅を改装した負傷者対象の外科施設だった。また、県北西部の山地で養鶏場を仮設病院に改装して運営。外来診療所も2ヵ所設置した。治安が改善すれば、避難者や都市部から離れた地域の人びとを対象とした移動診療も行う予定だ。

2013年8月には、周辺地域で戦闘が著しく激化し、2週間にわたって、ほぼ常態的に多数傷病者の対応に追われた。現在は、治安状況が幾分落ち着いたとみられ、全般的な医療活動の提供を再開している。

一方、トルコ国境付近では、複数の避難キャンプが設置されている。滞在者数とキャンプ数は現在も増加を続け、推計8万人がMSF病院周辺の半径10km余りの範囲に広がる14ヵ所のキャンプに滞在している。戦闘の前線が移動したことで、負傷者は全体の15%ほどに減少。一方、広範囲熱傷の患者数が、2013年1~8月の期間で月平均30人へと増加した。

熱傷の主な原因は、非常に質の悪い燃油だ。調理用ストーブで使用したり、自宅で製油したりして事故が発生している。広範囲熱傷の治療には、麻酔や包帯のほか、植皮手術や理学療法が必要になることもある。

9月には新しい避難キャンプにテント500張を配給し、外来診療施設も設置。医薬品の寄贈とスタッフの研修を行った。ただ、この新キャンプへ行くことは非常に難しく、MSFは外来診療施設の運営には携わっていない。

避難キャンプを支援――アレッポ県

アレッポのMSF病院での手術 アレッポのMSF病院での手術

北部の都市圏外で病院1ヵ所、アレッポ市郊外でも病院1ヵ所を運営している。また、2013年5月には、地域の膨大な医療ニーズに応じるため、新たに病院を開設。移動診療も行っている。医療施設に輸血用血液を供給する血液銀行の運営は、2013年3月にシリア人医師たちに引き継いだ。

一方、避難キャンプ4ヵ所を支援。これまでにテント450張と衛生キット1000組を配給した。また、最大のキャンプでは、外来診療施設の設置に向け、薬剤と医療機器を寄贈。現地のシリア人医師1名の訓練も行った。ただ、周辺地域は治安がかなり悪く、県内外の移動には制約が多い。

外来診療で慢性疾患の対応へ――ラッカ県

やけどでMSF病院に搬送されてきた少女

トルコと国境を接するタル・アブヤド郡に、他地域から4万人が一斉に避難してきたため、地域人口が急増。避難者は、学校、医療施設の廃屋、個人の住宅などに滞在している。

保健医療体制は大部分の機能を失っている。わずかに機能している医療施設や病院も、物資・人員の確保やコールドチェーン(低温輸送システム)の維持が難しい状況だ。

予防接種拡大計画の実践も限定的で、大勢の子どもたちが定期予防接種を受けられていない。そのため、はしかなど命を落とすこともある病気が流行している。さらに、人口が過密で衛生環境が悪化しているため、気道感染症、消化器疾患、下痢などの感染リスクが高まっている。

こうした状況を受け、2013年4月に1次診療所を設置。7月には郡内の中心街に小児病院を開設した。複数の団体が、外科および救急産科医療を提供している。

9月下旬には、人びとの避難先23ヵ所で、清掃キットの配布を再開。慢性疾患にも対応できる国立病院内に外来診療部門を立ち上げる方向で最終調整を行っている。

定期予防接種を再開するため、地域と連携し、2年間閉鎖されていた診療所5ヵ所を再建。1週間で735人の子どもが予防接種を受けた。

国境再開で医療ニーズ増加――ハサカ県

イラクと国境を接する同県は、シリアの産油・穀物栽培地帯の中心地。クルド人の割合が高く、2013年7月半ば以降、クルド人戦闘員とジハーディスト(聖戦主義者)が衝突を繰り返している。

MSFは、手術施設に改修した建物で治療を開始。また、8月15日の国境再開を受け、診療所を開設した。イラクへの出国を待つ人びとを援助している。

近隣2ヵ国から医療ネットワークを支援――遠隔地

また、近隣2ヵ国の統括拠点からシリア国内の医療ネットワークを支援するプログラムを展開している。対象地域は治安上の理由でMSFが現地に入れない。しかし、医療ニーズは高く、病院や診療所は最低限の必須医療物資の調達にも苦労している。

支援している病院28ヵ所と医療施設・診療所56ヵ所に、医療物資や技術を提供し、助言を行っている。明確な要望がある場合は、毛布、衛生キット、その他の必需品などの救援物資も送付している。

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