必須医薬品キャンペーン:「私たちの薬を奪わないで!(Hands off our medicine!)」

2013年04月08日掲載

欧州委員会が協議を進める協定でジェネリック薬の供給が大幅制限の恐れ
―途上国の数百万人の命が犠牲に―

途上国の数百万人の人びとは、インド製の安価なジェネリック薬で命をつないでいます。しかし、欧州委員会が現在協議を進める複数の協定には、途上国に向けたジェネリック薬の供給を大幅に制限する条項が含まれています。もしこれらの協定が欧州委員会の望むとおりに締結されれば、ジェネリック薬の製造や販売が大幅に制限され、安価な薬に頼っている途上国の数百万人の命が犠牲になる恐れがあります。

欧州委員会が協議を進める協定から、ジェネリック薬の供給を脅かす条項を取り下げるよう求めるオンライン署名キャンペーンにご参加ください。また、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを通じての呼びかけにもぜひご協力下さい。

「私たちの薬を奪わないで!(Hands off our medicine!)」キャンペーンアップデート
インド政府が「新薬データ保護期間」の除外を正式に発表

インド政府は2011年6月、EUと協議中の自由貿易協定(FTA)の条項から新しいジェネリック薬の登録を妨げる「新薬データ保護期間」を除外することを正式に発表しました。今回のインド政府による発表は、「私たちの薬を奪わないで!(Hands off our medicine!)」キャンペーン推進に向けた世界各地の方々の支援や働きかけにおける重要な勝利です。

しかしその一方で、ジェネリック薬の供給を制限する他の有害な条項は交渉中のFTAに含まれたままです。さらにEUは2011年から、医薬品の供給に制限を加える新たな政策を推進しています。

MSFはEUに対して、インドと交渉中のFTAに含まれるこれらの有害な条項を取り下げるよう、要求しています。引き続き、「私たちの薬を奪わないで!(Hands off our medicine!)」キャンペーンへのご支援をお願いいたします。

活動アップデート

インドに自由貿易協定の早期調印を迫る圧力が高まっている。しかし、同協定には、インドおよび開発途上各国で暮らす人びとの薬の入手を阻む規定が依然として含まれていると……

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キャンペーンの背景と目的

現状 インドはジェネリック薬の主要な供給源【詳細】
ジェネリック薬の供給を脅かす協定 【1】インド・欧州連合(EU) 自由貿易協定(FTA)欧州委員会がインドと交渉を進行中。インド製のジェネリック薬の製造や輸出などを大幅に遅らせ、薬の供給を中断させてしまう複数の条項が含まれています。FTA交渉は10月に最終段階に突入し、年内の締結に向けて交渉が進められています。 【2】模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA) 日本政府により提唱され、現在欧州連合を含む複数国間で協議が進行中。この協定には、ジェネリック薬の供給を脅かす、より厳格な知的所有権の保護規定が含まれています。協議は非公式で進められ、2010年内の早期の交渉妥結を目指しています。 【3】欧州委員会の関税規則 2008年以降、途上国向けに輸出されたジェネリック薬が知的所有権侵害の疑いで輸送経由地の欧州の税関で押収される事態が相次いでいます。欧州委員会はFTAおよびACTAを通じて、他の国々に対しても税関での薬の押収を可能にする規定を導入するよう要求しています。
MSFが欧州委員会 に求めること 新薬データ保護期間を含むジェネリック薬の製造を阻害する条項の取り下げ
ジェネリック薬と知的所有権侵害の物品の混同および、欧州の税関での差し押さえの停止
ジェネリック薬の押収や製造停止、廃棄を可能にする刑事制裁を含む条項の取り下げ

MSFインターナショナル会長のメッセージ(日本語字幕:40秒)

欧州委員会によるジェネリック医薬品の供給制限を食い止めよう(日本語字幕:1分12秒)

キャンペーンの背景と目的(詳細)

インドはジェネリック薬の主要な供給源

インドは2005年以前まで医薬品に特許権を付与していなかったため、インドの製薬会社は他国では特許が付与されている薬の安価なジェネリック版を製造し、エイズ治療薬などの安価なジェネリック薬の主要な供給国となりました。インド製の医薬品は多くの途上国へも輸出され、これらの途上国はエイズ治療に必要な薬の供給先としてインドに依存しています。MSFが16万人に及ぶ患者に治療を提供するエイズ治療プログラムで使用する薬も、80%がインド製です。

インドは世界貿易機関(WTO)の規定に従うため、2005年に特許法を改正し、医薬品に特許権の付与を開始しました。一方で、インドの特許法は製薬会社による過剰な特許権の施行を制限する予防策を盛り込み、真に革新的な医薬品のみに特許を付与することを規定しました。これは、2001年にWTO加盟国が採択したドーハ宣言にある「公衆衛生を保護し、とりわけすべての人の医薬品へのアクセスを促進するWTO加盟国の権利を支援するように『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)』を解釈・実施することは可能であり、またそうあるべきである」という規定に基づいたものです。

欧州委員会が協議を進める協定が、ジェネリック薬の供給に及ぼす影響

ジェネリック薬の製造の妨げ

ジェネリック薬の製造企業は、通常薬の特許が切れる20年が経過すれば、ジェネリック薬の登録の際に必要な薬の安全性を示す臨床試験を再度実施する必要はなく、製造元の会社による臨床データを利用してジェネリック薬の販売許可を規制当局から得ることができます。

しかし、欧州委員会は「インド・EU間FTA」において、薬を開発した製薬会社が所有する薬の臨床データの開示を保護し、第三者が一定期間利用できなくなる新薬データ保護期間を導入するようインドに要求しています。この新薬データ保護期間は、新薬の安全性と有効性を証明する臨床データの不正な商業的使用からの保護を規定する権利であり、規制当局がジェネリック薬の使用許可を与えることを一定期間妨げることを可能にし、製薬会社にとって事実上の市場独占権となります。

もしこの新薬データ保護期間がインドで導入されれば、ジェネリック薬メーカーは薬を登録するために莫大なコストがかかる臨床試験を再度実施しなければならなくなり、これは利益の低いジェネリック薬の製造において実行の見込みはほとんどありません。

医療への影響

もしこの新薬データ保護期間がインドで導入されれば、ジェネリック薬メーカーが新しい薬を登録するには、5年から9年に及ぶ新薬データ保護期間が終了するまで待つか、あるいは莫大なコストのかかる臨床試験を再度実施しなければならなくなります。これにより、新しいジェネリック薬の登録が阻害され、特許と同様の障壁を生み出すばかりでなく、メーカーの製造意欲をそぐ経済的障壁にもなります。もしそうなれば、新しいジェネリック薬の登録および製造が大幅に遅れ、薬を必要とする途上国の患者への供給が止まることになります。とりわけインド製のジェネリック薬で生き延びるエイズ患者が治療に必要な薬を入手できなくなれば、治療を中断せざるを得なくなり、彼らの命が脅かされることになります。

ジェネリック薬の輸出の中断

2008年以降、インドから輸出されたジェネリック薬が輸送経由地の欧州の税関において、知的所有権侵害の疑いで押収される事態が相次いで発生しています。欧州委員会の既存の関税規則では、物品が知的所有権侵害の疑いがある場合に、知的所有権の保有者は税関当局に対して措置を講じるよう申し立てができるとする権利が規定されています。欧州は地理的条件や整った交通インフラのために、医薬品の輸出入における主要な拠点地であり、国境なき医師団(MSF)も医療プログラムで使用する薬の多くを欧州経由で輸入、あるいは保管しています。

このような合法のジェネリック薬が欧州の税関で差し押さえられる事態が続いた場合、ジェネリック薬の製造会社は大幅にコストのかかる他の輸送手段を取らざるをえなくなります。欧州委員会は現在、医薬品の製造国もしくは輸送先の国で特許権が侵害されていなければ、税関で薬を押収することはないとしています。しかし、欧州委員会のこの関税規則は現在でも有効であり、変更されていないままです。

さらに、欧州委員会は「インド・EU間FTA」において特許権および商標権を侵害する疑いのある物品の取締りを強化し、税関での押収を可能にする条項を導入するようインドに要求しています。また、現在協議中の「ACTA」においても、商標権侵害の疑いがある物品は税関で押収できるとする条項が含まれているため、合法のジェネリック薬が商標権侵害の疑いとして税関で押収されることが可能になります。

医療への影響

税関での薬の差し押さえを可能にする条項が「インド・EU間FTA」および「ACTA」に含まれれば、特許権あるいは商標権の侵害と混同されたジェネリック薬の税関での差し押さえがさらに頻繁に発生する事態になります。そうなれば、ジェネリック薬で命をつないでいる途上国の患者への薬の供給が中断し、患者はこれまでの治療を継続できなくなってしまいます。また、MSFの活動においても、必要な薬の供給が中断されてしまうため、薬の不足により患者の治療が継続できなくなり、活動に大きな影響が及びます。

ジェネリック薬の廃棄

今日では、ジェネリック薬メーカーが製造した薬が特許権の侵害にあたると判断された場合、薬の製造企業は薬の製造の差止めを法廷に請求できる権利があります。しかし、実際多くの国では、特許権の保護よりも、人びとの生きる権利を優先するように定めています。例えば、インドのデリー高等裁判所においても、医薬品の場合には特に十分な考慮を必要とし、インドの法律が定める人びとの生きる権利を侵害しないような判断を下すよう定めています。世界貿易機関(WTO)の加盟国が遵守すべき貿易規則の一つ「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」においても、薬の製造差止めではなく、製造元の会社に賠償金を支払う決議を法廷で下すこともできるとする柔軟性が示されています。

しかし、欧州委員会は「ACTA」および「インド・EU間FTA」において、特許権侵害の物品に対する処罰をさらに厳格化し、特許権侵害の疑いがある物品の初期段階での製造の差止め、さらに廃棄を求める条項を含めるよう要求しています。「ACTA」においては、さらに厳格な処罰が盛り込まれており、知的所有権侵害の疑いがある物品の製造停止命令、損害賠償や、刑事制裁などが含まれています。最近に公表された「ACTA」の草案では刑事制裁を受けるのは意図的な商標権の侵害に限るとし、特許権の侵害には適用しないとされていますが、不注意な特許権の侵害に関しては刑事訴訟を受ける可能性があります。これは、「TRIPS協定」で規定される知的所有権の保護基準をはるかに超えた過度の制裁であり、ジェネリック薬の製造販売を抑止するものです。

医療への影響

このような知的所有権の侵害に対する厳格な処罰が規定された場合、知的所有権侵害に対する過度の制裁により、ジェネリック薬の製造・販売が現在よりも抑制されてしまう可能性があります。また、製薬会社の利益を保護するために安全で効果的なジェネリック薬が製造中止になり、既存の薬は廃棄されてしまう事態が発生することになります。もしそうなれば、薬を待ち望む途上国の人びとの元に、必要な薬が行き渡ることができなくなります。

今でもなお、手の届かない価格のために途上国の多数の人びとが必要な薬を入手できない中で、欧州委員会が推し進めるこれらの協定は、世界の保健医療問題への取り組みに明らかに反するものです。これは、世界の医療格差をさらに拡大させ、人びとの命を救うための薬の入手をさらに困難にするものです。

命をつなぐための薬を必要としている数百万の人びとから、薬を入手する手段を奪う条項を取り下げるよう欧州委員会に要求する署名キャンペーンにぜひご参加下さい。

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