「道路に死体が折り重なっていた」——危険と隣り合わせの"世界最年少の国"に生きる人びと

2018年05月10日掲載

約11万5000人の避難者が暮らすベンティウ国連文民保護区
約11万5000人の避難者が暮らすベンティウ国連文民保護区

「今でもあの臭いを思い出します」30代半ばのクアニさん(仮名)はあの日のことをこう振り返る。堂々として穏やかな様子だが、心の痛みを見てとれる。

2011年に独立したばかりの「世界で最も新しい国」南スーダンが内戦に突入したのは2013年12月。紛争は瞬く間に波及し、民間人は避難を余儀なくされた。

激戦地となったユニティ州レール(2014年1月撮影)
激戦地となったユニティ州レール(2014年1月撮影)

国外に逃れた難民は240万人。これはシリア、アフガニスタンの難民危機に次ぐ世界第3位の規模だ。
国内でも200万人が避難生活を送り、20万人余りは国連南スーダン派遣団(UNMISS)が6ヵ所に設置した文民保護区へ身を寄せている。

「町中の道路に死体が折り重なっていました」

妻のアケッチさん(左)とクアニさん
妻のアケッチさん(左)とクアニさん

クアニさんは、世界最大規模の文民保護区であるベンティウで暮らす。2013年、妻と9人の子どもとともに紛争を逃れてきた。「以前は素晴らしい暮らしをしていました」と振り返る。「35頭の牛、野菜や花に溢れた庭……」。少し間を置く。当時の感覚が蘇ってくるかのようだ。「……今でもあの臭いを思い出します」

至る所に戦争の爪痕が残るベンティウの町
至る所に戦争の爪痕が残るベンティウの町

避難した日のことは鮮明に覚えている。自宅付近は砲撃とパニックに包まれた。「町中の道路に死体が折り重なっていました。子ども全員を集め、キャンプのある場所まで一緒に走りました」

薄暗く、暑いテントで生活するクアニさん
薄暗く暑いテントで寝起きするクアニさん

クアニさんも他の避難者たちも、紛争は一時的なもので、すぐに帰宅できると思っていた。国連基地に避難したことは過去にもあったが、数日から数週間で自宅に帰れた。しかし、今回は違う。避難者の数は瞬く間に膨れ上がり、現在は約11万5000人が暮らす。

上空から見たベンティウ文民保護区
上空から見たベンティウ保護区

ベンティウ保護区の周囲には塹壕や有刺鉄線のフェンスが立ちはだかり、巨大な土手と国連の監視塔が取り囲む。上から見ると四角い箱のようで、背後に広がる鮮やかな緑や乾いた大地とは不似合いだ。

生活排水が注ぎこむドブと有刺鉄線。保護区ではありふれた光景だ
生活排水が注ぎこむドブと有刺鉄線。保護区ではありふれた光景だ

「ひどい環境です」とクアニさんは言う。トタン板、植物の茎、泥、ビニールシートで造られた簡素なテントが密集するキャンプは、雨期に入ると地面がぬかるんで泥だらけになる。

テントが密集するベンティウ保護区
テントが密集するベンティウ保護区

「物を差し出さなければ、その場で殺されます」

国連PKO部隊が駐在していても、保護区の内外で暴力が横行している。日没後はテントや市場が略奪され、武装強盗に襲われる。保護区内や周辺の森に銃撃音が響くこともある。何が起きるか分からない状況で、気の休まる時がない。

夜、ベンティウ保護区のMSF病院と宿舎を見張る警備員
夜、ベンティウ保護区のMSF病院と宿舎を見張る警備員

クアニさんは不安を漏らす。「夜は眠れません。警戒心が解けないんです。泥棒は、何の役にも立たない有刺鉄線を越えてきます。カラシニコフやナイフ、やりで武装して、持ち物をどっさり盗んでいくんですよ。言われた通りに物を差し出さなければ、その場で殺されます。悪夢です」

病院内を患者と歩くMSFスタッフ。現地スタッフは全員保護区の住人だ
病院内を患者と歩くMSFスタッフ。現地スタッフは全員保護区の住人だ

日中も、食料の調達や商売のために保護区の外へ出れば、常に危険と隣り合わせだ。女性は性的暴行に遭い、男性は誘拐されて武装勢力に強制入隊させられることもある。

市場で食料品店を切り盛りする少年
市場で食料品店を切り盛りする少年

保護区の一画にある市場で小さな喫茶店を営むニャレルさんは、5人の子どもを育てるシングルマザー。店で使うまきを集めるため、子どもたちに留守番させて保護区の外へ出かける。

喫茶店で働くニャレルさん
喫茶店で働くニャレルさん

性暴力のリスクはつきまとうが、わずかな収入を得るためにはやむを得ない。「頑張るだけのことはあります。そのお金で、子どもたちにキャンプ内で基礎教育を受けさせられますから」

仮設テント内で宿題をする少年たち
仮設テント内で宿題をする少年たち

感染症が避難生活者を襲う

保護区の衛生インフラ整備は不十分だ。蛇口から水が出ないとき、住民は洗濯や入浴をする場所で飲み水を調達する。管理が行き届いていないトイレが多く、排泄物が溢れ、プライバシーを守る扉もない。手洗い場は足りず、石けんもない。その結果、防げるはずの病気がまん延している。

ため池で遊ぶ子どもたち
ため池で遊ぶ子どもたち

劣悪な生活環境のなか、医療ニーズは膨大だ。国境なき医師団(MSF)は保護区と周辺地域で唯一の2次医療施設を運営し、対応にあたっている。主な症状はマラリア、急性水様性下痢、栄養失調だ。

マラリアのピーク期に入ると、MSFの移動診療チームは小型テントで患者を治療する
マラリアのピーク期に入ると、MSFの移動診療チームは小型テントで患者を治療する

MSF医療チームリーダーのアリュー・トミーによると、救急処置室に来た患者の3人に1人がマラリアに感染していたという。

「まだ乾季ですから、本来マラリア症例はもっと少ないはずなのです。水が非常に汚く、飲用どころか入浴にも適していません。蚊にとっては繁殖しやすい環境です」

MSFの隔離病棟に入院する患者
MSFの隔離病棟に入院する患者

子どもたちに託す未来

ベンティウ住民にとって未来を描くのは難しい。あまりにも大変な生活環境に置かれているうえ、想像以上に長く我慢を強いられているからだ。

牛の泥人形で遊ぶ子どもたち。保護区民の4割近くが5歳未満だ
牛の泥人形で遊ぶ子どもたち。保護区民の4割近くが5歳未満児だ

かび臭いテントの床に目線を落としながら、クアニさんは悲しそうに話す。
「家に帰ってもとの日常を送りたい。でも、危険すぎてキャンプで暮らすほか選択肢はありません」

夕暮れどき、サッカーを見に集まる子どもたち
夕暮れどき、サッカーを見に集まる子どもたち

だが、外で遊ぶ子どもたちにはかすかな望みがある。
「我が子には教育を受けさせたいんです。成功した人生を送り、変化を生み出してほしい。私たちに必要なのは平和な暮らしと団結です。高望みしすぎでしょうか」

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