バングラデシュ:「暴力から生き延びたのに......」病死した子を弔う親の嘆き。避難してなお、ロヒンギャの苦しみは続く

2018年01月16日掲載

深刻な感染症や栄養失調が子どもを襲う。患者の大多数が5歳未満だ
MSFの診療所で治療中の赤ちゃん。深刻な感染症や栄養失調が幼い子どもを襲う

バングラデシュ、コックスバザール県のロヒンギャ難民キャンプを訪れると、その大きさに圧倒される。人口およそ65万人。東京の江戸川区や足立区と同規模だ。だが、東京と違って、ここでは清潔な水も、医療機関やまともな寝場所もない。

この大規模キャンプは、3ヵ月あまり前に設置されたばかり。昨年8月25日、ミャンマー・ラカイン州で少数民族ロヒンギャの虐殺が始まり、殺りくを逃れた難民が多数バングラデシュに身を寄せた。男性も女性も、子どもたちさえ容赦なく殺された。加害者はミャンマー政府軍、警察、武装民兵だと難民は訴える。

ミャンマーで数十年にわたり迫害を受けた上、大虐殺を経験したロヒンギャ。その多くが精神的なショック状態にある。夫を亡くし、笑う気力も、赤ちゃんの世話をする元気もなくした女性たち。妻がレイプされ、殺害され、生きる希望を失った男性たち。

ここバングラデシュで当面の安全は確保されたとしても、難民キャンプの環境は厳しく、よりよい暮らしには程遠い。感染症で1歳の息子を亡くした男性は「ここに来るまでは健康だったのに……」と無念さを滲ませた。

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劣悪な環境が子どもと高齢者を追い詰める

モハンマド君、10歳。食料の配給が入った重い袋を抱え、家族の元へ戻る モハンマド君、10歳。
食料の配給が入った重い袋を抱え、家族の元へ戻る

高齢者や幼い子どもを抱えた母親、乳幼児たちは特に過酷な現実にさらされている。配給場所に行くのに苦労し、やっとの思いでたどり着いても行列に何時間も並ばなければ食料を入手できない。

健康だった母。いまや呼吸も食事もできない

横たわるディラフォルズさん(100歳)を介護するジャフラさん 横たわるディラフォルズさん(100歳)を
介護するジャフラさん

100歳になるディラフォルズさんの生活は極めて厳しい。ミャンマーのロヒンギャ掃討作戦が始まった昨年の夏、故郷のトム・バザール村を追われた。息子のソリムさんに8日間おんぶされ、ようやくバングラデシュにたどり着いた。息子の妻ジャフラさんと6人の孫も一緒だ。

ここに来るまでは、高齢でも健康状態は良好だった。地元の医師が頻繁に自宅を訪れ、必要な薬をくれていた。しかし今、ディラフォルズさんの状態は思わしくない。重度のぜんそくでほとんど呼吸ができず、話すこともできなくなった。固形物をまったく受け付けず、息子夫婦が与える砂糖水で命をつないでいる。

ジャフラさんは話す。「ここでは身一つで生きていますが、少なくとも安全ですし問題はありません。義母が重い病気にかかっているという事実を除いては。NGOが医療援助をしてくれるよう願っています。母が痛みと苦しみでうめき、一日中咳こんでいるのを見ると、悲しくなります」

汚物混じりの泥にまみれる子どもたち

浅井戸に隣接するトイレから汚物が染みだし、水質汚染の原因となっている 浅井戸に隣接するトイレから汚物が染みだし、
水質汚染の原因となっている

キャンプ一帯に広がるのは、不潔で悲惨な光景だ。まだ1~2歳の子どもが、し尿混じりの泥にまみれて遊んでいる。

地元住民やNGOが尽力して緊急整備したトイレはあり、使われてもいる。だが、深さ1mほどの穴を掘っただけのトイレは、適切に排水や汲み取りができていない。汚物でいっぱいになると穴がふさがれ、し尿が土に染みだして、大きな健康リスクとなっている。

トイレからほんの1~2m離れた場所で、難民らが飲用や生活に使う水を浅井戸から汲み上げている。こうした井戸は大規模な難民移入に対処するために設置されたもので、地面から10~20mほどしか掘られていない。

世界保健機関(WHO)が実施した水質検査の結果、家庭や井戸で採取した水の58%がし尿により汚染されていることが分かった。これはキャンプに滞在する全員にとって深刻な問題だ。特に妊婦や乳幼児は下痢やE型肝炎のリスクが懸念される。

母乳もミルクも与えられず、栄養失調に……

生後7ヵ月のヌールシュちゃんと母親のアルさん 生後7ヵ月のヌールシュちゃんと母親のアルさん

「9月にキャンプに来てから母乳が出ず、授乳ができなくなりました」とアル・マスカタさん(25歳)。それまでは、生後7ヵ月のヌールシュちゃんを母乳で育てていた。ここでは粉ミルクはまず手に入らない。あったとしても、汚染の恐れがある水で調乳するのは危険だ。

ヌールシュちゃんの手足はやせ細り、お腹は膨れている。栄養失調だ。下痢と発熱で弱ったヌールシュちゃんは笑顔をほとんど見せず、身動きも少ない。「子どものために」と難民仲間が野菜をくれたが、乳児には消化できず、食べさせようとしても吐いてしまう。

「NGOは(大人用の)食べ物を配ってはくれますが、赤ちゃん用のミルクはまだ見たことがありません。丘の上に住んでいるので3人の子どもを連れて配給所まで行くのは大変です」 夫はミャンマーで殺された。ミルクの代わりに、米を砕いてお湯で煮たものを食べさせようとしているがそれでは足りず、ヌールシュちゃんはお腹を常に空かせている。

「子どもたちのことが心配です。住んでいたラカイン州は情勢が不安定で、理想的な暮らしではなかったけれど、自分たちの小さな農園を持ち、いくらかお金もありました。ここへ来てから2ヵ月間、子どもたちはいつも病気をしています。当然ですよ。このキャンプがどれだけ汚いか、一目で分かります」

国境なき医師団(MSF)が治療している患者の大半が5歳未満の乳幼児であることからも、子どもたちを取りまく環境が劣悪なことが分かる。主な症例は、下痢、呼吸器系疾患、ジフテリアの集団感染などだ。また、はしかの集団発生によって最初の入院患者と死亡者が出た。最近になって集団予防接種が行われたものの、引き続き接種率の向上が課題だ。

暴力を生き延びたのに……

幼い息子の遺体を抱くラフィクさん 幼い息子の遺体を抱くラフィクさん

8月下旬にブティドンの町から一家で避難したラフィクさん。白い布に包んだ赤ちゃんの遺体を抱え、ラフィクさんは埋葬場所へと向かっていた。両目は悲しみで落ちくぼんでいる。1歳の息子モハンマド・アユーブ君は、肺炎で亡くなった。

「ミャンマーで何とか生き延びて、安全な場所へ連れてこられたのに……。以前はモハンマドは元気でしたが、ここに来てから体調を崩したんです。このキャンプを見てください、病気になるのも無理はない。でも……少なくとも、この子は、穏やかな死に方をしたのでしょう」

MSFは1985年よりバングラデシュで活動。コックスバザール県では2009年より、ロヒンギャ難民と現地住民を対象に、基礎医療や救急医療の総合診療、入院治療などに取り組んできた。2017年8月以降の難民の一斉避難に対しては、医療をはじめ給排水・衛生活動を大幅に拡充。2017年12月現在、2200人超のスタッフを配備し、診療所19ヵ所、基礎医療施設3ヵ所、入院治療施設4ヵ所を運営している。

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