国境なき医師団日本は20周年を迎えました

2012年11月01日掲載

日頃より私たちの活動を支えてくださる皆様、関心をもって私たちのニュースを読んでくださる皆様にご挨拶を申し上げます。

国境なき医師団(MSF)日本 事務局長 エリック・ウアネス 国境なき医師団(MSF)日本
事務局長 エリック・ウアネス

今年は、国境なき医師団(MSF)日本が1992年に創設されてから、ちょうど20年。
日本では満20歳で成人となり、大きな節目を迎えました。創設当初は日本から活動現場に派遣するスタッフは年に数人でしたが、2011年には約90人、派遣回数は約120回にのぼっています。

この成長を支えてきたのは、皆様のご支援です。
MSF日本にはいま、日本全国20万人以上(個人・法人を含む)から支援が寄せられており、その100%が民間からの寄付です。つまり私たちは、日本社会で20年の間に高まってきた人道的危機に対する関心や、援助活動への共感の思いに支えられて、成長してきたのです。

私たちはさらに日本に根差すNGOになりたいと考えています。
MSFの全世界のネットワークにおいても、MSF日本の存在は重要です。20年前、MSFの活動を構成していたのは大半がヨーロッパの人びとでした。しかし現在は、アジア、中東、南北アメリカ、アフリカにも事務局をもつ多文化組織になっています。

MSFの独立・中立・公平な活動を支持してくださる皆様、援助活動に献身的に向かうスタッフ、そして日本の細やかな配慮を活かした医療。私たちは、こうした日本のアイデンティティと多文化の背景とを融合する存在でありつづけたいと思います。

20年の歳月は、世界の状況をも大きく変えました。
通信技術の発展によって情報はいまや一瞬で世界を駆けめぐります。MSFの重要な特長の一つである「透明性」も、情報技術を利用して、さらに追求していきたいと考えています。

二十歳(はたち)になったMSF日本は、今年も世界中に援助を届けるための努力を続けます。
緊急医療・人道援助という専門性をもった団体として、日本から、世界中の医療のない場所に駆けつける活動を、今後も真摯に、そして熱意をもって続けてまいります。どうぞMSF日本を見守り、支えてくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

国境なき医師団(MSF)日本
事務局長 エリック・ウアネス

  • 国境なき医師団日本 20年のあゆみ開く

    日本事務局を東京に設置して20年が経ちました。活動への理解と支援の広がりとともに、日本事務局も任意団体からNPO法人、そして認定NPO法人へとあゆんできました。その沿革をご紹介します。

    1992年 11月

    日本事務局を東京に開設

    1993年2月には、MSFの活動を報告する「MSF通信」の第1号を発行しました。小冊子で表紙も含め全8ページ。第1回の活動報告は、ソマリアとカンボジアでした。20年を経た現在も、2ヵ国とも医療・人道援助が必要な状況が続いています。

    1999年 10月26日

    日本事務局、特定非営利活動法人(NPO法人)となる

    定款には、「天災、人災、戦争など、あらゆる災害に苦しむ人々に、人種、宗教、思想、政治すべてを超え、いかなる差別もすることなく援助を提供するという理念に基づき活動する」と記載しました。

    1999年 12月
    ノーベル平和賞の賞状 ノーベル平和賞の賞状

    国境なき医師団がノーベル平和賞を受賞
    日本を含む各国事務局の活動が評価された

    受賞式のスピーチでは、MSFが活動地で経験したことを踏まえ、人道主義に基づく行為をこのように説明しました。
    「一人ひとりが、困難な状況に置かれた他者に手を差し延べること。それはあるときは包帯の一巻きとなり、あるときは縫合の一針となり、あるときはワクチンの一接種となるのです」

    2002年 7月

    日本事務局、認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)となる

    認定NPO法人とは、国税庁長官から一定の要件を満たしていると認定されたNPO法人を指します。国境なき医師団日本をはじめとした認定団体への寄付を促し、活動を促進する目的があります。

    2004年

    日本事務局の中に東京デスクを設置

    「東京デスク」は、フランス事務局のオペレーション部とともに活動内容・運営・人事・財務などを決定しています。また、日本事務局などと連携して活動地のスタッフからの連絡に対応する役割も果たしています。

    2011年 3~12月

    東日本大震災の被災地で医療援助などを行う

    仮設田老診療所の開設式 仮設田老診療所の開設式

    震災直後の3月12日に被災地へ入り、調査活動を開始しました。MSFが日本で本格的な医療援助を実施するのはこれが初めてでした。津波で壊滅的な被害を受けた岩手県宮古市田老地区では、同市に仮設診療所を寄贈。田老地区の約4000人に医療を提供する体制づくりを援助しました。

  • 日本事務局のご紹介開く

    国境なき医師団(MSF)の医療・人道援助活動は、現地で活動する派遣スタッフ、活動を支える寄付金、私たちが直面する事実を伝える広報が重要な柱となっています。日本事務局では、それらを担当する3つの部署が機能しています。また、この他の部署やMSF日本会員の方々の支援により活動を行っています。

    人事部・活動地担当

    日本から活動地へ派遣するスタッフの募集・採用・管理を担当。全国各地で募集説明会を開き、活動内容、採用基準や手順についての情報を提供しています。また、帰国した海外派遣スタッフの体験談を紹介し、"いま"必要とされているスタッフ像への理解向上を図っています。

    ファンドレイジング部

    医療・人道援助活動に必要な資金の寄付を募っています。日本事務局が受け取る寄付はすべて民間から。その額は国境なき医師団の寄付総額の1割を占めます。寄付活動を通じて、1人でも多くの方に世界の"いま"に参加していただくことを目指しています。

    広報部

    活動地で起きていること、医療・人道上で"いま"伝えるべきこと、目をそらして欲しくないこと……を世界に発信する活動を行っています。活動地から届くレポートや写真で記事を作成し、ニュースレター、ウェブサイト、SNSなどで情報をお届けしています。

    また、フランス事務局のオペレーション部とともに活動内容・運営などを決定する東京デスク、総務・人事・経理・ITなどバックオフィスを担当する各部などがあり、一体となってMSFの活動を推進しています。

  • 記念出版・講演開く

    『人道的交渉の現場から 国境なき医師団の葛藤と選択』

    国境なき医師団(MSF)日本は、事務局創設20周年を機に、『人道的交渉の現場から 国境なき医師団の葛藤と選択』(クレール・マゴン、ミカエル・ノイマン、ファブリス・ワイズマン編著)を上梓致しました。

    詳しくはこちら

    「人道的交渉 国境なき医師団の葛藤と選択」出版記念講演会・シンポジウム

    MSF日本では、20周年を機に、MSFの活動をより広く、より深くお伝えするべく、11月14日・15日の2日間、早稲田大学と東京大学で記念講演会・シンポジウムを開催致しました。

    当日の様子と参加者のインタビューを収録した動画をご覧ください。

    <講演・シンポジウムの詳細>

    11月14日に早稲田大学で開催した講演会「なぜ国境なき医師団は証言するのか」には、約170人の方々が来場されました。

    講師のミカエル・ノイマンは、MSF財団人道問題研究所のリサーチ・ディレクターで、『人道的交渉の現場から 国境なき医師団の葛藤と選択』の執筆者の1人です。

    ノイマンは、シリア、イラク、アフガニスタン、ミャンマーなどでMSFが活動するために行った交渉・選択とその結果を説明しました。

    例えば、シリアでは医療施設・従事者が攻撃にさらされるとともに、医療が弾圧の"武器"として悪用されています。MSFが世界に向けてこの事実を証言した場合、政府とのネットワークを築けず、活動許可が下りなくなることも考えられます。結果的に、医療を必要としている人びとへの援助活動に支障をきたすことにもつながります。しかし、弾圧・拷問の事実を前に沈黙することは、その行為に加担することになります。

    MSFは声を挙げるべきか否か。シリアのケースでは、非人道的行為の共犯者になってはならないと判断し、証言する方向性を選びました。現在、反政府勢力の支配地域に無認可の仮設診療所を設置し、すべての紛争被害者に対して治療を提供しています。

    MSFの活動の歴史は、こうした葛藤と選択の歴史でもあります。ノイマンは「人びとが犠牲になることを拒否する――それがMSFの思想です。思想を具体化するためにはどの組織と連携するべきか、現実論で考えることが必要です。証言する目的の1つは、MSFのこうした"自律性"を明確に示すことなのです」と述べました。

    11月15日には、東京大学駒場キャンパスでシンポジウム「介入の権利と不介入の権利」を開催致しました。約130人の方々が来場されました。

      【パネリスト】
    • 佐藤 安信氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)
    • 最上 敏樹氏(早稲田大学政治経済学術院教授)
    • 伊勢﨑 賢治氏(東京外国語大学総合国際学研究院教授)
    • ミカエル・ノイマン(MSF財団人道問題研究所のリサーチ・ディレクター)
    • エリック・ウアネス(MSF日本事務局長)
      【司会】
    • 百瀬 和元氏(元朝日新聞編集委員)

    基調発表:ミカエル・ノイマン

    人道的介入を正当化する決定要因など存在しません。MSFは基本的に、活動地の担当局などから、その場所での活動に了承を得ることを必須としています。問題は、全ての関係者の利害をいかに収束するかです。MSFは、不偏、独立、中立という原則に寄って立つ団体ですが、原則というものには交渉の余地が残っているものです。問題は、交渉の是非ではなく、どこまで踏み込み、どこまで譲歩できるかです。私たちが堅持すべき原則とは、医療の有効性であり、支配政策への関与の拒絶です。


    シンポジウムでは、人道という概念や人道援助活動について、「政治利用されたり、紛争各派によって人心掌握の手段として利用されたりする現実がある。人道援助が紛争の停止を遅らせている例もある」との指摘が出されました。一方、「人道援助と平和構築が相対する場面もあり、"正義=平和"とは言えない。しかし、人道なき平和もありえない」との見解も示されました。

    MSFの活動について、「時代のイデオロギーに従って活動を組み立てつつ、常に自己反省的であった点は評価できる」との見解が示されました。また、「活動地の人びととの相互理解を深める地域研究」や「医療援助の持続性のための人材育成」が、活動を展開していく上でさらに重要になるとの意見も出されました。

    一方、21世紀の"対テロ戦争"以後、軍事介入主義や制裁主義が世界的に活発になっているとの見方が示され、「単純な善悪二元論をどう乗り越えるかが、人道援助をとりまく課題の1つになっている」との指摘が出されました。

    こうした状況を踏まえ、国家間の関係性のみで動く従来の枠組みではなく、「人間の論理を見透かすことのできる"非国家主体"の動きが、かつてないほど重要になっている」との見解が示されました。

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