シリア:深刻化する内戦――MSF、活動拡大を模索

2013年05月28日掲載

戦闘で破壊された建物

シリア内戦は極めて激しい事態となっており、戦線も絶えず移動している。保健医療体制は衰弱し、機能不全状態だ。シリア国内および周辺国では、推計680万人が緊急に人道援助を必要としている。敵対する陣営に包囲された地域には援助が届かない状況だ。

国内での活動には大きな困難が伴うものの、国境なき医師団(MSF)は現在、5ヵ所で病院を運営している。一部の病院周辺では移動診療も拡大しており、治安条件の許す場所での新規プログラム開始も積極的に模索している。

MSFは、周辺国のイラク、ヨルダン、レバノン、トルコに避難した合計約150万人のシリア人難民にも医療と救援物資の配給を行っている。ただ、4ヵ国とも増加する難民数に対応しきれておらず、人道援助の不足が続いている。(2013年5月22日現在)

シリア問題を巡るあらゆる政治的立場と明確に一線を画すため、活動は民間からの寄付のみを財源としている。

数字で見るシリア国内の活動(2013年4月末現在)

外科処置
2095件
診療
3万4400件
分娩介助
749件

<目次>

MSFの活動アップデート

MSFは、治安を考慮しつつ出来る限りの速度で活動を拡大している。活動地は5ヵ所にとどまっているが、そこでは質の高い医療を提供できる環境を整えている。治安も一定水準に保たれている。MSFはダマスカスの中央政府に対し、活動を認めるように交渉を続けている。ただ、当面は反体制派支配地域で活動するほかない。

アレッポ

病院を設置。これまでに診療約1万5000件、外科手術446件、分娩介助601件を提供した。トルコ国境沿いの一時滞在キャンプでは、滞在中の人びとに救援物資(敷物、衛生キット、調理キットなど)を配布。また、はしかの予防接種を3300人に行い、給排水・衛生活動も展開した。アレッポの8ヵ所の診療所にも医療物資を供給している。

さらに、別動チームが立ち上げてシリア人医師らに引き継いだ血液バンクが、アレッポ地域の複数の病院に血液を供給している。同チームはまた、子どものための「予防接種拡大計画(EPI)」も支援。内戦で通常の予防接種が実施されておらず、援助が必要だと判断した。

イドリブ

MSF病院を2ヵ所設置。MSFのプログラム・コーディネーターであるアレックス・バックマンは先日、イドリブから帰還した。バックマンによると、2病院のうちの1つは、多数の負傷者が一斉に運ばれて来る事態に応じる態勢を維持しているものの、それを日々の活動の重点には定めていないという。イドリブで機能を維持している他の医療機関が、爆撃などでけがをした人の治療に重点を置いているためだ。バックマンは「難産、慢性疾患、発熱、一般的疾病の患者には、MSF病院・移動診療が頼みの綱なのです」と説明する。

もう1つの病院は、高度で専門的な外傷・外科部門を有している。外科手術1324件を超えた。主な症例は紛争被害の負傷だ。さらに、救急医療を受けた患者数は3699人ほどに達する。住居向け暖房の事故や手作りの粗雑な製油装置の使用で、広範囲の熱傷を負った症例が多い。術後の患者には、入院部門または術後ケア部門が理学療法を提供している。MSFはイドリブの医療施設への支援も拡大しており、野外病院4ヵ所と高度救命ステーション19ヵ所に薬剤や医療物資を供給している。

また、避難キャンプの給排水・衛生条件を改善するため、MSFはトイレ50基とシャワー40基を設置。キャンプ滞在者に350張りのテントも配給した。5歳未満児を対象とした集団予防接種も実施。ポリオ・ワクチンを3300人に、はしかワクチンを2000人にそれぞれ接種した。

ラッカ

戦闘・爆撃により住民が避難を繰り返している。公共施設や多くの住宅は避難者で過密状態となっており、給排水・衛生システムも許容能力の限界に達している。MSFはこれまでに、はしかの症例約400件を確認。保健医療体制の崩壊は明らかだ。

MSFは2013年4月15日、タル・アブヤドに1次診療所を開設。産前ケアを始めるとともに、産科ケアの提供も予定している。

ハサカ

3月に診療所を開設した。原油生産と穀物栽培が盛んで、クルド人の居住地域だ。MSFは、外傷治療と術後ケアを提供するとともに、地域の外科処置施設を支援。定期的に研修も行っている。

MSFは移動診療活動にも従事。一部では心理ケアも導入した。シリア内戦は2年に及び、心理ケアの必要性は高い。MSFはまた、いずれ支配地域であるかを問わず、病院や診療所に、医療物資や緊急救援物資を供給する活動を展開している。対象はアレッポ、ラッカ、ダマスカス、デリゾール、ダルアー、ハマー、ホムスをはじめとする地域だ。

MSF日本から派遣したスタッフの活動報告

国境なき医師団(MSF)日本から、シリアに派遣した黒﨑伸子(外科医、MSF日本会長)、沢田さやか(ロジスティシャン)、白川優子(手術看護師)が、5月21日、MSF日本事務局内で活動報告会を開催しました。

MSF日本による活動報告会

黒﨑医師が活動したMSF病院

シリア:戦時下の援助活動――日本人スタッフからの報告

平和で生活が安定していたシリアは、2011年3月の反体制運動を機に、国内各地で爆撃・戦闘が続く内戦国へと様変わりしました。保健医療体制は機能不全に陥り、緊急援助が必要な人びとは680万人に及ぶとみられます。国境なき医師団(MSF)は国内に5ヵ所の病院を設置。MSF日本からもスタッフを派遣しています。活動の様子を写真でお伝えします。

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