エボラ出血熱から1年――医療が崩壊した地域に新たな危機が!

2015年03月13日掲載

エボラ出血熱――2014年は誰もが一度はこの病名を耳にしたのではないでしょうか。感染者(疑い含む)は2万4000人を超え、亡くなった人の数は1万人を超えました。国境なき医師団(MSF)はこの1年間、エボラ緊急対応の最前線に立ち続けてきました。その私たちの目の前には今、エボラが引き起こしたもう1つの"命の危機"が浮かびあがっています。そのことをお伝えする前に下記のアンケート結果をご覧ください。

MSFがエボラの流行地域に向かう理由

アンケートでは、「エボラ出血熱の流行地域」と「紛争地」への派遣に賛成された方が、ほかの地域と比べて低いという結果になりました。コメント欄では、「MSFだからこそできる支援を!」というエールと同時に、エボラ流行地域や紛争地には「行ってほしくない」「判断に迷う」とのご意見も寄せられました。

「紛争地」は別途、掘り下げてお伝えする機会を設けさせていただくとして、今回は「エボラ」について考えてみたいと思います。

エボラの新規患者数は2015年1月に減少傾向へと転じ、ようやく終息の可能性が見えてきました。しかし、実は、これで"一件落着"というわけにはいかない――これが、MSFが今もエボラ流行地域で活動を続ける理由です。では、なぜ一件落着とならないのでしょうか?

流行地域のギニア、リベリア、シエラレオネの3ヵ国は医療基盤が弱く、MSFの医療・人道援助を必要としている人びとが多い場所でした。そこに発生した過去最悪のエボラ流行。数少ない医療機関はその多くが閉鎖され、国外へ避難した医療者もいます。一方で、エボラ治療センターでの緊急対応を志願した医療者が感染して亡くなるいたましい事件も続き、MSFスタッフも13人が命を落としました。

その結果、3ヵ国の医療基盤は崩壊し、マラリアなどの風土病、慢性疾患、妊産婦の合併症など適切な医療があれば助かる病気で命を落とす危険性が、よりいっそう高まっています。MSFがエボラの流行地域に向かう理由――それは、エボラ感染者に治療を提供するため、エボラの感染拡大を防ぐため、そして、エボラ危機の陰で顧みられなくなってしまった患者を救うためでもあるのです。

エボラ出血熱の流行とMSFの緊急対応(2014年~2015年1月)

  • 2014年開く

    • 1月~2月
      西アフリカ地域で原因不明の熱病の症例報告が相次ぐ
    • 3月22日
      熱病の原因がエボラウイルスと特定されたことを受け、ギニア政府が流行宣言を発令
      MSF、同日に緊急対応を開始
    • 3月26日
      ギニア政府、この時点までの感染疑いが86人、死亡が60人と発表
      MSF、同日までに最初のエボラ治療センターを設置
      同時期、リベリアやシエラレオネでも感染疑い例が報告され始める
    • 4月1日
      MSF、国際社会に「前例のない規模の流行」と警鐘
    • 4月上旬
      地域住民からエボラ治療センターや車両への投石があり、診療を一時中断
      「MSFがエボラを持ち込んだ」との誤解によるものと判明し、数日後に再開
    • 4月7日
      MSF、リベリアでもエボラ緊急対応を本格化
    • 5月上旬
      ギニアで新規患者数が減少傾向へと転じる
      リベリアでは新規症例がゼロに
    • 6月上旬
      ギニアで患者数が再び増加
      シエラレオネでも流行が深刻化する
    • 6月下旬
      西アフリカ3ヵ国の計60地域以上から症例の報告が寄せられる
      MSFは緊急対応チームを限界まで拡大
    • 7月上旬
      MSF、エボラ緊急援助の使途指定寄付の募集を世界各国で開始
      (日本は7月4日付)
    • 7月下旬~8月上旬
      症例報告数が累積1000件を超える
      医療者の感染などがあり、エボラの世界的流行(パンデミック)の危機感が高まる
      • シエラレオネで活動した看護師・吉田照美
        シエラレオネで活動した看護師・吉田照美
        病院にやってくる患者は氷山の一角で、収束のめどは実感できない。感染拡大を防ぐには、住民への啓発活動や人手不足の解消など、国際社会のさらなる協力が不可欠。(8月5日、NHK「ニュースウォッチ9」)
    • 8月8日
      世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言
      同時期、シエラレオネ、リベリア、ナイジェリア、ギニア各政府が非常事態宣言を発令
    • 8月11日
      WHO、エボラ治療に有望な未承認薬の使用を容認
    • 8月15日
      MSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長(医師)が、「感染抑止まで少なくとも数ヵ月はかかる」との緊急声明を発表
    • 8月下旬
      コンゴ民主共和国で、西アフリカとは別系統のエボラが流行
    • 8月28日
      WHO、西アフリカ地域のエボラ終息までの工程表を発表
    • 9月
      MSF、国連で各国代表にエボラ緊急対応を迫る
      2日、ジョアンヌ・リュー会長が国連の会合で演説
      15日、ジョアンヌ・リュー会長、再び緊急声明を発表
      18日、リベリアのエボラ治療センター・チームリーダーが国連安保理で演説
      同日、安保理はエボラ対応に関する決議を採択
      25日、ジョアンヌ・リュー会長、国連総会で再び演説
    • 10月8日
      MSF、リベリアで家庭用エボラ対策キットを配布
      エボラ治療センターが満床で受け入れができないことから"応急措置"を試みる
    • 10月10日
      MSF日本、使途指定寄付の募集を再開
    • 10月中旬
      MSF、エボラ治療センターで未承認薬の臨床試験に協力すると発表
    • 10月下旬
      エボラ流行によるその他の医療への影響が深刻に
      医療施設の閉鎖や医療者の避難で公的医療が崩壊
      MSF、シエラレオネで小児科や産科の医療援助を一時中断し、エボラに注力
    • 10月23日
      MSFのアメリカ人医師が帰国後に発症(のちに回復)
      これを受け、一部の州が西アフリカでエボラ治療にあたった医療者の強制隔離(最大21日間)を義務化し、国内外で議論が巻き起こる
      MSFの見解はこちら。
      • シエラレオネで活動した看護師・大滝潤子
        シエラレオネで活動した看護師・大滝潤子
        死亡者数などの数に注目が行きがちだが、現地の患者さんがどれだけ苦しんでいるか、ということにも目を向けてほしい。家族を亡くし一人残された子どもも多く、エボラは社会に深い傷を残している。(10月30日、NHK・BS1「国際報道2014」)
    • 11月上旬
      リベリアで新規感染者数が減少傾向に転じる
      一方、マリで新規感染の報告が相次ぐ
    • 11月中旬
      コンゴ民主共和国で流行していたエボラが終息
    • 12月上旬
      リベリアのロファ州で新規感染がゼロに
  • 2015年閉じる

    • 1月上旬
      シエラレオネのエボラ治療センターに産科施設を併設
      • シエラレオネで活動した医師・加藤寛幸
        シエラレオネで活動した医師・加藤寛幸
        一度は世界を震撼させたアウトブレークを、人びとはいまや自分には関係ないこととして捉えているのではないだろうか。世界中への感染拡大の恐れさえなければ、西アフリカの悲劇など、去年の話と思っている人たちに、現実を知ってもらいたい。(1月22日、東京新聞)
    • 1月下旬
      ギニア、リベリア、シエラレオネでそれぞれ新規感染が減少
    • 3月12日
      エボラで亡くなった人が1万人を超える

エボラ対策プログラムに従事したスタッフの声

中山恵美子(救急専門医/シエラレオネ・南部州ボー地区)

中山恵美子(救急専門医/シエラレオネ・南部州ボー地区)

シエラレオネの医療危機は、エボラ出血熱の流行によって今さらなる問題に直面しています。もともと脆弱だった医療基盤は、国内の約3分の1の医療従事者が今回のエボラによって死亡したこと、感染リスクとなっていた地域病院が閉鎖されていることなど、直接的、間接的要因により壊滅的ダメージを受けています。

実際私が活動していた南部州ボー地区でも、虫垂炎を手術してくれる病院もお産をとってくれる病院も、今にも息絶えそうな子どもの肺炎を治療してくれる病院も、車で5~6時間もかけて搬送しなければなりませんでした。

エボラが終息に向かいつつある今だからこそ顕著化してきたその傷跡はあまりにも深く、早急に対応が必要です。それも、エボラのスクリーニングを適切に行いながら進める必要があります。最も基本的な医療すら受けられない状態に、この国の人びとは今も苦しんでいます。

畑井智行(看護師/リベリア・モンロビア)

畑井智行(看護師/リベリア・モンロビア)

現地の医療機関が閉鎖または縮小されるなか、開いている医療機関はすべて、エボラ検査陰性の証明書なしには患者を受け付けなかったため、具合の悪い人はみんな、MSFのエボラ治療センターに運ばれて来ました。

エボラは発熱以外の症状は不特定のため、症状と接触歴だけでは確定診断が非常に困難です。患者数は減っていましたが、マラリアや消化器系の疾患で発熱・嘔吐(おうと)・下痢などの症状がある患者や、エボラと別の疾患の両方にかかっている患者もおり、すべて、入院して検査する必要がありました。国連やほかのNGO、政府組織の支援は増えていますが、エボラ治療センター以外のすべての入院施設は連日満床で、順番待ちの状態です。

地方の診療所では、2014年の終わりごろより物品が底をつき、解熱剤や抗生剤、抗マラリア薬など基本的な薬もありませんでした。地方の人たちは、最低限の医療すら受けられずにいます。MSFはこれらの診療所に基本的な医療物資を供給するだけでなく、訪問診察も行い、最低限の医療の供給とともにエボラの早期発見および教育にも取り組んでいます。

吉田由希子(ロジスティシャン/シエラレオネ・フリータウン)

吉田由希子(ロジスティシャン/シエラレオネ・フリータウン)

エボラの爆発的な広がりにより、MSFは医療の質を保持するために通常のプログラムをストップせざるをえない状況となりました。地元の医療機関が大きなダメージを受けたのは明確です。通常、MSFでは、はしかなどのケースが一定数確認されるとすぐ予防接種キャンペーンを立ち上げるのですが、大規模な予防接種で人が多く集まることによるエボラ感染拡大の危険性を踏まえ、実施できない難しい状況がありました。

エボラ新規患者数が減少している現状ですが、患者数がゼロになるまで対応を継続していくことが重要です。独特の埋葬文化が爆発的な流布の要因となったことから、コミュニティの状況を把握し、正しい知識の伝達、予防意識の向上と実践を進めることが求められます。

地元の医療機関が基礎医療をしっかりと整えていくと同時に、治療のための隔離病棟、院内感染対策、対応手順への訓練等の土台作り、各機関との連携と役割分担の強化など、まだ必要なことはたくさんあるという実感です。

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