TPP協定はアジア太平洋地域の公衆衛生の脅威となる――MSF、日本および他のTPP交渉参加国に、 薬剤の普及流通の障壁となる試みを退けるよう要求

2013年03月15日掲載

安倍晋三首相による日本の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉への参加表明を受け、国境なき医師団(MSF)は、日本および他のTPP交渉参加国が一部の条項を認めることのないよう求める。当該条項は、国際協定で取り決められた公衆衛生に関するセーフガードを無効化し、開発途上国における薬の普及流通を妨げる恐れがあるためだ。

記事を全文読む

MSF日本の必須医薬品キャンペーン渉外担当、ブライアン・デイビスは「MSFの医療活動でも、ジェネリック薬(後発医薬品)は重要です。HIV治療の場合、途上国の活動で使用されている薬の80%以上をジェネリック薬が占めています。知的財産に関する冷酷な要求を退けることにより、日本は、アジア太平洋地域に暮らす患者の命を救う薬剤の普及促進において、指導的な役割を担うことになるでしょう」と話す。

TPP交渉には現在、アジア太平洋地域11ヵ国が参加しており、非公開で進められている。しかし、漏えいした文書によると、途上国も対象となる貿易協定案としては、これまでで最も攻撃的な知的財産関連条項を米国が提案していることがわかっている。国際協定で取り決められた公衆衛生に関するセーフガードを無効化する、この米国による現行の要求が最終的に協定に盛り込まれれば、薬価は従来よりも長期間高止まりし、治療を必要とする人びとはそのあおりを受け、ジェネリック薬の登場を従来よりも長期間待ち望むことになるだろう。

MSFインターナショナル会長ウンニ・カルナカラ医師は「必要な薬が高価すぎるとか、手に入らないといった理由で、本来助かるはずの命があまりにも多く失われています。したがって、途上国における薬の普及流通にとっていっそうの障壁となりうるTPP協定を支持することはできません。MSFはタイのような国について、深い懸念を抱いています。MSFは、10年以上前にタイでHIV/エイズ治療を開始し、その後、担当局に活動の継続能力があることを確認したうえで、その治療プログラムを引き継ぎました。タイは現在、国民の命を救うその重要な保健医療プログラムの拡大は言うに及ばす、継続維持すら損ないかねない、危険な取り決めに参加しようとしているのです」と述べる。

前述の知的財産関連条項案に基づけば、製薬業界は、薬剤の独占状態の保護期間を延長し、より安価なジェネリック薬(後発医薬品)の普及流通を遅らせるさまざまな法的仕組みを手にすることになる。さらに、米国の交渉担当者は、TPPが後に続く世界的な貿易協定のひな型になるだろうとも述べている。つまり、有害な先例となるということだ。

TPP条項案の1つは、治療効果の向上に関わらず、既存の薬剤の新しい形態・用法・製法といった改変に20年の特許期間を承認するよう各国に求めるものだ。また、不当・不適切な特許への異議申し立てに要する費用や手間を増やすような条項案や、さらには、行政処理で費やされる時間を補てんするための特許期間延長の条項案もある。こうした条項案は、薬価を高止まりさせ、薬剤入手を困難にするものだ。

現行の条項案については、他の交渉参加国を含む多方面からの反対を受けながらも、米国はこれまでのところ代案を示していない。これは実質的な時間稼ぎであり、既に発表されている2013年10月の妥結を目指し、各国を当初の条項案受け入れに追い込もうとしている。

「現在、検討されている条項案は、従来の貿易協定における知財関連条項のなかでも最も厳格なものです。交渉が時間切れになり、協定が拙速に調印されれば、アジア太平洋地域で暮らすすべての人にとって、手ごろな価格の薬は入手困難になるでしょう。MSFが日本をはじめとする交渉参加国に求めることは、協定書への調印などではなく、大勢の命を脅かすことになる条項案の拒絶です」と、デイビスは訴えている。

関連情報