RCEP交渉国は医薬品の普及を損なう条項の排除を

2016年12月05日掲載

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉担当者による会合が、2016年12月5日、インドネシアのタンゲランで始まった。国境なき医師団(MSF)をはじめとする保健医療団体は、RCEP協定案に含まれている知的財産関連条項の有害性について改めて懸念を表明した。

当該条項は製薬企業の市場独占を拡大させ、許容価格のジェネリック薬(後発医薬品)の普及を遅延・阻害しかねない。さらに、厳格な知財権行使措置も含まれている。これが採用されれば、ジェネリック薬が輸送中に差し押さえられる事態が起こる恐れがあり、人命にかかわる問題だ。

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日本や韓国の動向を注視

異論も多い環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の批准と施行に暗雲が立ち込めており、関係する地域の国々はRCEPに注目している。そのRCEPにも、TPPと同様に薬の普及を損なう条項が盛り込まれている。

国際治療準備連合南アジア(International Treatment Preparedness Coalition -South Asia)のコーディネーター、ルーン・ガンテ氏は「TPP貿易協定の延命が打ち切り寸前となった今、RCEPが『医薬品の普及にとって過去最悪の貿易協定』の新たな基準となるかもしれません。RCEPには、従来よりも厳格な知財条項が盛り込まれる可能性があり、世界各地の何百万人もが脅かされています。不安を感じている人びとの頼みの綱は、許容価格の救命薬を提供するインドのジェネリック薬メーカーなのです」と指摘する。

RCEP交渉の経過を追うMSFなどの治療提供者、患者団体、市民団体は、医薬品市場の独占を拡大するための多数の条項がRCEPに盛り込まれるように、日本や韓国といった国が圧力を強めることを懸念している。

世界のジェネリック薬の製造・流通が制限される恐れ

当該条項案は、知財権について世界貿易機関(WTO)が定める国際的な要求よりも厳格で、製薬企業の特許権の期間延長と、臨床データを利用した市場独占の拡大(データ保護)を促すものだ。これらの有害条項は、対象地域および世界のジェネリック薬の製造・流通に関する競争原理を制限し、許容価格での薬の入手に深刻な影響を及ぼしかねない。

インドに対し、RCEPの知財条項に合意するように迫る圧力の高まりは、特に懸念される。HIV/エイズ患者の命をつなぐ第一選択薬の価格は、インドの複数のジェネリック薬メーカーによる競争原理が働き、2001年以降、99%低下した。

MSFのASEAN地域人道問題担当マリア・ゲバラ医師は「“HIVとともに生きる人”の死亡率が上昇しています」と指摘する。その原因は、結核やC型肝炎などとの二重感染が広がっていることと、特許独占による高価格設定や薬事規制で新規の治療薬が手に入らないことにあるという。

「国連は先ごろ、貿易協定による公衆衛生への影響について、全協定を精査するよう各国に勧告しました。薬の入手や、各国政府の公衆衛生に関する義務の履行を妨げかねない条項の取り下げを、RCEP交渉参加国に強く求めます」(ゲバラ医師)

もう1つの“有害な”条項――知財権行使措置

協定案には、厳格な知財権行使措置も含まれている。この措置が採用されれば、合法的に取引された医薬品が権利侵害の名目で差し止められ、治療提供者などの第三者もジェネリック薬を売買・配布しただけで法定闘争に引きずり込まれる恐れが高まるだろう。

MSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域責任者リーナ・メンガニーは次のように訴える。「この行使措置によって、ジェネリック薬が開発途上国への輸送中に差し押さえられるかもしれません。これはあいまいな推測ではありません。既にいくつもの事例が発生しているのです。HIV治療に用いる抗レトロウイルス薬などの救命薬が差し押さえられ、人びとの手元に届くのが遅れれば、治療が中断し健康が脅かされる恐れもあります。RCEPの交渉担当者は、人命を損ないかねないものに署名をしようとしているのだと認識すべきです」

国連事務総長「医薬品アクセスに関するハイレベル・パネル」は2016年9月、貿易協定により健康リスクを生じさせている衛生技術のための革新・普及の推進について最終報告書を発表した。潘基文国連事務総長の肝いりの同報告書は、「貿易・経済上の利益が人権や、国家の公衆衛生に関する義務を脅かしたり、妨げたりしない」よう、各国政府が全ての貿易協定の影響評価を実施することを勧奨している。

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