イラク:モスルの戦闘終結から1年——医療体制は紛争前の7割減

2018年07月09日掲載

狙撃兵によって足と背中を撃たれたナシュワンさん。半年以上手術を受けられなかったが、後に東モスルにあるMSF病院に搬送され治療を受けた狙撃兵によって足と背中を撃たれたナシュワンさん。半年以上手術を受けられなかったが、後に東モスルにあるMSF病院に搬送され治療を受けた

イラク北部の都市モスルで続いていた、過激派組織「イスラム国」とイラク軍の戦闘終結から1年が経過した。数千人規模で住民の帰還が続くが、現地の医療施設はいまだがれきの中で1年たった今も復旧に至っていない。国境なき医師団(MSF)は、イラク政府と国際社会に対し、医療施設の再建を早急に進め、手頃な価格の医薬品と医療機器の供給が不可欠だと訴えている。 

ベッド数は国際的な最低基準の半数のみ

モスルに13ヵ所あった公立病院のうち9ヵ所は紛争の最中に損壊。医療体制は崩れ、もともと3500床あった病床の7割は失われた。しかし医療施設の再建は遅々として進まず、病床は現在も住民180万人に対し1000床を下回っている。病床数は医療体制の指標に用いられるが、モスルの現在の状況は、人道援助が必要な状況下で国際的に最低限と定められた基準の半分にしか満たない。

イラクでMSFの活動責任者を務めるヘマン・ナガラスナムは、「モスルの人びとにとって医療の受診は非常に困難なこととなっています。住民は日ごとに増えており、5月だけでも4万6000人弱がモスルに帰還しました。しかし公衆衛生体制の復旧は遅れ、今受けられる医療と増え続ける住民のニーズの間には大きな隔たりがあります」と話す。

現在早急に求められる医療は、救急処置と外科、がん科とやけど治療の施設が挙げられ、医療機器と手頃な価格の医薬品の安定供給も欠かせない。さらに、戦闘を体験し、家族・友人を亡くしたことで心的外傷を負った人びとへの心理ケア、外科手術後の経過観察、疼痛管理、負傷したまま医療を受けられず何ヵ月も患っている戦傷患者に対する理学療法なども大きなニーズだ。 

「大手術が必要だが、この病院ではできない」

42歳のナシュワンさんは2017年3月、モスルで食料品の買い物中に、狙撃兵によって足と背中を撃たれた。しかし適切な医療を受けることはできず、苦痛の中で生活してきた。

「とうとう足と腰の痛みに耐えられなくなくなり、10月になってようやく、モスル市西部の病院に行きました。検査の結果、大手術が必要だが、この病院ではできないと言われました」

「ここでの暮らしは過酷です。けがのせいで状況はさらに悪くなるばかりです。仕事ができず収入もありません。家族とのやり取り、特に子どもたちと一緒に遊んでやることもできません。すごく気が滅入っています」 

変化する医療ニーズ

モスルでの生活は危険と隣り合わせだ。水と電気がないため衛生状態は悪く、建物は損壊、残された即席爆発装置と仕掛け爆弾も命を脅かす。医療施設は普段にも増して必要になってきている。

モスル市西部のMSF病院で受け入れている症例は、過去12ヵ月間に、紛争起因の負傷から地雷による負傷へと変化してきた。さらに直近では、劣悪な生活環境に関連した負傷などが増えている。背景には市内に帰還する人の増加があり、例えば5月に救急処置室で受け入れた症例の95%は、がれきの崩落、建物の倒壊、不安定な場所からの転落など、危険な生活環境による外傷だった。

モスルでの紛争終結宣言から1年。課題は山積しており、今後数年かけて医療環境を改善していく必要がある。 

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