スリランカ:内戦被害者の心理ケア体制を確立

2012年10月18日掲載

国境なき医師団(MSF)は、スリランカの内戦被害者の心理ケア体制の確立と人材育成を軌道に乗せ、他団体に活動を引き継いだ。内戦の影響を受けた地域では、多くの住民が心的外傷の原因となる出来事を体験している。また、肉体的な傷は癒えたとしても、心の傷の治療はまだ大きなニーズがある。紛争ですべてを失い、避難場所から新たな居住地へと移る"再定住"の際に新たな困難にぶつかっているためだ。こうした状況を改善する取り組みについて報告する。

MSFは1986年から、停戦合意後の2003年までスリランカで活動。2004年に津波被害からの復興対策支援で再び6ヵ月間活動したのち、北部の紛争激化を受け、2006年5月に新たな活動を開始した。2012年8月、同国で行っていた最後の活動を受け渡した。

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移動診療チームが各地へ往診

MSFの移動診療チームのカウンセリングを受ける住民(右) MSFの移動診療チームのカウンセリングを受ける住民(右)

MSFは2009年、保健省やスリランカ精神科医師協会(SLCP、旧スリランカ精神科医師会)と協力し、心理ケア・プログラムを開始した。これは、紛争中や紛争後の環境下で活動した広範な経験に基づいている。

最初の活動地は、数十万人の避難者が生活するマニク農園だった。その後、ムライティブ病院の敷地内に建てた専用施設を含め、県内8ヵ所を活動地とした。

公共交通機関が未発達なことや家計の問題で、保健医療施設まで移動できない患者が多く、心理ケアの移動診療チームが患者のもとへ往診する必要があった。

2011年2月から2012年7月の期間、MSFは心理・精神障害が見られる患者を対象に、計4629件のカウンセリングとグループ・セッションを行った。対象としたのは、子ども、女性、高齢者、身体障害者。精神科医が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ、精神病、てんかんと診断された患者の経過観察を行った。

地域に出向いて行うアウトリーチ・プログラムでは、学校の生徒たちを対象にグループセッションを行った。教師には、心の健康に問題を抱えている子どもの見分け方を手ほどきした。

その他、病院と地域の保健医療施設の連携を効率化し、患者を紹介するための制度の確立した。また、地元のカウンセラーや地域支援職員を訓練して"人材プール"を構築した。

限りある援助資源をより深刻な地域へ

MSFによる学校でのグループ・セッションの様子 MSFによる学校でのグループ・セッションの様子

これらはMSFがスリランカで行っていた最後の活動プログラムだ。2012年8月、MSFはこの心理ケア・プログラムをNGO「ワールド・ビジョン」に引き継いだ。MSFのガイア・カランタ心理療法士は「紛争後の急性期ではない現在も、バンニ地域における心理ケアのニーズは高いのです。紛争は3年以上前に集結しているのですが……」と話す。

カランタによると、こうした問題に取り組むためには、地域に根ざしたリハビリテーションに関する専門技能と、長期的なアプローチが求められる。そのため、長期的な活動を予定している他団体に心理ケアの継続を依頼したという。

近年は、インフラや保健医療施設に加え、紛争被害地に向かうNGOの通行状況も改善されている。活動プログラムの引き継ぎについて、MSFのスリランカでの活動責任者であるマリー・ウアネスは「MSFは、緊急事態に特化した医療・人道援助団体です。限りある人的・物的資源を、健康問題が深刻で、医療を受けられない人びとがいる地域に振り向ける必要があります。スリランカ北部では現在、MSFよりも長期的な復興プロセスにふさわしい他団体が、医療の必要な人びとと接触できるようになっています」と説明する。

MSFは引き継ぎ後もスリランカの状況を見守り、有事には復帰する態勢を維持していく。

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