イエメン: 成功を夢見る青年たちの行く手に......

2013年08月19日掲載

アフリカ北東部のソマリ半島周辺は、その形から「アフリカの角」と呼ばれる。その地域からサウジアラビアなどアラブ諸国への移民を目指す人びとが後を絶たない。その多くはエチオピア人で、本国で職に就けなかったり、失職したりした若者たちだ。大半が徒歩移動の過酷な旅を続けるうちにわずかな旅費も尽き、職探しや物乞いをしながらアラビア半島の"玄関口"であるイエメンに到着。そこで彼らを待ち受けているのが人身売買業者だ。

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人身売買業者に捕まり拷問

ジャマレさん(20歳)が故郷のエチオピアを離れたのは4ヵ月前。サウジアラビアでの成功を夢見て、通過地点のイエメンに着いたのは夜中だった。人身売買業者の話は知っていた。小舟を降り、小さな山に身を隠した。翌日、食糧を探していて、ラクダを連れたやや年配の男性に出会う。「食べ物を持って来てあげよう」といったその男性が、人身売買業者だった。

「連れて行かれた場所には、すでに8人が捕まっていて、皆、おびえていました。『誰かに金を送らせろ。できなければ痛い目に遭わせる』と。私は貧しいということを懸命に説明したのですが、目の前で連中は金属片を熱し、それを私の足に押しあてたのです」

ジャマレさんは現在、イエメンの首都サヌアの入国管理センターにいる。どうにか人身売買業者の手を逃れたが、ともに逃げた友人の1人は足を撃たれ、その後の消息はわかっていない。

ジャマレさんはそれから何日か、水も食糧もなく山間部に隠れていた。そしてついに、エチオピアへの帰還を決意。12日かけてサヌアにたどり着き、イエメン入国管理局の前で1ヵ月を過ごしたのち、ようやく入管センターに受け入れられた。

「エチオピアでは、両親と10人の兄弟姉妹と暮らしていました。学校卒業後、就職できなかったため、家族全員で相談してこちらに来ることにしたのです。イエメンにたどり着く前にお金が尽きてしまいましたが、人身売買業者には、私には母親がいないと伝えました。両親が私の身代金を払わずに済むようにと……」

「奴隷になるよりも、祖国にいたほうがまし」

移住を目指した青年が人身売買の対象となる事件が後を絶たない

アウェルさんも移住を目指して大変な目に遭った1人だ。エチオピアでは、教員、ジャーナリスト、翻訳者、実業家として働いていたが失職。外国で運試しを決心した。兄弟姉妹の中にも海外生活者が複数いる。母から旅費として少額を受け取ったが、出国前に底を尽いた。旅程の大半は徒歩で、エチオピアからソマリランドを経てジブチへ。仕事を探し、物乞いをしながらの旅だった。

ようやくたどり着いたイエメンで、人身売買業者に捕まり、17日にわたりむごい虐待を受けた。自身の誕生日に、逃げるか、死ぬしかないと覚悟。最終的に逃げ切った。イエメン人の一家に助けられ、けがを手当てしてもらった。一部区間の移動も支援してもらってサヌアに到着。入管センター前の屋外でつらい17日間を過ごし、ようやく入所できた。

アウェルさんは「エチオピア出国を考えている人や、既に出発した人に言っておきます。それは死の道だと」と警告する。

「サウジアラビアへの道のりは非常に過酷です。首尾よく行っても、警察やサウジアラビア兵にイエメンへ送り返されてしまい、元のもくあみになります。苦労の甲斐もありません。移住を検討している人に忠告しますが、奴隷になるよりも、祖国にいた方がましでしょう。これはまさに奴隷問題です。現代の奴隷問題なのです」

移民の本国送還に希望者急増

入管センターの大部屋に集められた人びと

こうした体験は入管センター内で繰り返し語られる。「アフリカの角」の地域を発ち、アラビア半島諸国を目指す移民にとって、イエメンは経由国だ。多くの人はエチオピアからサウジアラビアに向かう。

その途上、特にイエメン入国後に人身売買業者の被害に遭い、金銭を強要され、虐待を受ける。2013年4月、イエメン担当局は、人身売買業者に捕らわれた多数の移民の解放作戦を決行するとともに、移民の本国送還を開始。以来、送還を求めて、自発的に入管センターに出頭する移民が大幅に増加している。

サヌアの入管センターの滞在環境も安泰ではない。収容人数は最大でも250人だが、現在約750人が滞在。移民たちは大部屋に閉じ込められて1日の大半を過ごす。この難民たちに、国際移住機関(IOM)、国境なき医師団(MSF)、イエメン赤新月社など複数の組織が医療と食糧を提供。5月以降、MSFは同センターで心理ケア・プログラムも展開している。

入管センターで活動するMSFの心理療法士、エスペランサ・レアルは「移民たちは深い心的外傷を負っています。一部の人は、何日間、何週間と食事を摂っていません。MSFでは、積極的に話を聞く機会を設け、摂食障害などは、心的外傷を残すような過去の体験に対する一般的な反応だということを説明しています。症例が多いのは心的外傷後ストレス障害(PTSD) や重度のうつです。MSFでは、移民たち1人1人に、社会的承認を受ける権利があるということを思い出させ、人としての尊厳を回復することを重視しています」と話す。

移民の圧倒的多数がエチオピア人であることから、エチオピア大使館の代表団が週1回、入管センターを訪れ、送還に必要な書類を準備する。イエメン担当局によると、4月以降、約4000人の移民が本国送還されたという。

イエメン移民・送還担当局のアブドゥラー・アル=ズルガー局長は「イエメンにいる移民の送還だけでも、相当の時間を要するでしょう。サウジアラビア国境付近には推計約3万人のエチオピア人移民が国境通過を目指し、その他の場所にはさらに大勢の移民がいます。この問題について、イエメンは多大な支援を必要としています。なにしろ、イエメンの海岸線にはほぼ毎日、移民が到着するのですから」と訴える。

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