パプアニューギニア:家庭内暴力・性暴力の被害者を助ける

2013年08月23日掲載

パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、国境なき医師団(MSF)は、家庭内暴力・性暴力被害者を対象とした質の高い医療・心理ケアを提供している。被害者が治療を受けやすいように、診療所を集落内に設け、中央病院などと連携。きめ細かい医療援助を行っている。また、現地の看護スタッフを対象とした研修を行い、技術と知識の伝達にも努めている。

MSFはポートモレスビーのプログラムのほか、南ハイランド州タリでもファミリー・サポート・センターを運営。ブーゲンビル自治州ブインの診療所では、1次医療と母子保健医療を支援している。MSFは1992年からパプアニューギニアで活動している。

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医療施設間のネットワークを構築

9マイル診療所で臨床スーパーバイザーを務めるMSFのマーサ・
ポゴ(右)

同市内の入り組んだ集落にある"9マイル診療所"で、MSFの診療と現地スタッフの教育が始まった。教育の内容は、家庭内暴力・性暴力被害者への総合的なケアの提供だ。首都圏内のほかの診療所や、主要な病院のファミリー・サポート・センターへと活動を拡大していく計画も進めている。

この2段構えのアプローチにより、暴力被害者は自宅近くの診療所でのケアに加え、必要に応じてファミリー・サポート・センターでさらに踏み込んだケアを受けられるようになる。MSFは最終的に、より遠い地区にある診療所や病院との連携を目指す。暴力被害者が緊急に必要とする臨床ケアを確実に普及させるため、現地スタッフの臨床教育も提供する。

臨床スーパーバイザーのマーサ・ポゴによると、家庭内暴力や性暴力の被害者にとって、自宅近くでケアを受けられることが重要だという。交通機関が不便だったり、けがの程度が重かったりして、なかなか中央病院まで行けないこともあるからだ。

「ある女性は、妊娠2~3ヵ月のころ、夫からお腹を含めて体中を叩かれ、蹴られ、殴れたそうです。彼女の家は診療所から数軒先ですが、暴力をふるわれた後に流産し、出血も起こしていたため、すぐに診療所に来られませんでした。衰弱し、歩けなかったのです。やっと1歩ずつ歩けるようになり、私の診察室までやってきました。バス停まで歩けるほどの体力もなく、徒歩で行ける場所で医療を受けられることをとてもありがたがっていました」

性暴力被害者へ、5つの必須ケア

首都でのこのプログラムは、第2の都市ラエでMSFが蓄積した経験を拡充したものだ。ラエでは2007年末から2013年6月までに、1万3000人以上の性暴力被害者を治療。その後、保健省に活動を引き継ぎ、MSFが間接的に支援する体制へと移行した。

首都の"9マイル診療所"では、ポゴが看護スタッフに、ラエで提供されているものと同じ5つの必須ケアを伝えている。けがの緊急処置、心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)、HIV/エイズ予防およびその他の性感染症の治療、緊急避妊、B型肝炎および破傷風の予防接種が含まれる。これは、患者が最も重要な治療をすべて1回の診察で確実に受けられるようにするための簡潔な治療プロトコルだ。

医療スタッフの知識不足が課題

MSFは現地の看護スタッフに必要な知識・技術を伝える取り組み
も行っている

ポゴが指導しているのは、現地の経験豊かな看護スタッフたちだ。しかし、そのスタッフの知識にも不足が見られる。性暴力を受けた後、72時間以内に処置を受ければ、HIV感染は予防できるのだと知らされると、患者も驚くのだ。

ポゴによると、性暴力と、被害者の治療の大切さは、首都よりもラエ市のほうがはるかに周知されているという。ポゴもラエ市で1年間にわたり活動しており、「私たちの残した成果です」と話す。

一部の患者が緊急に必要な治療の機会を逸してしまうのは、知識不足が原因だ。心理社会看護専門看護師のローリング・モーガンは、幼い6歳の患者の例を挙げる。この少女は、家族から性的虐待を受けたのち、1年もの間、性感染症の治療が受けられず、苦しんでいた。"9マイル診療所"で治療を受けると、1週間足らずで症状は解消された。

モーガンは「幼い女の子が慢性の性感染症を抱えているということが悲しく、心が痛みます。彼女は自分の身体に何が起こっているのかもわからず、1年を過ごし、診察に当たった医師たちもそれに気づかないか、突き止められないというように、さまざまな局面で問題があったのです。ですが、最終的に医療による具体的な援助ができたことはよかったと思います」と話す。

治療・必須ケアの定着を目指す

"9マイル診療所"は、性暴力に遭ったのが1時間前か数年前かにかかわらず、被害者が訪れ、語り合える安全な場所だという点でも評判を得ている。モーガンは「私たちが活動している集落は、必ずしも安全な場所ではありません。ただ、診療所は、人びとが好んで集まり、体験を共有する場所になっています。皆、質の高いケアが提供されていることを知っているからです」と話す。

ポゴの記憶によれば、MSFチームがこの地域で最初に治療した患者は10代の少女だった。2年前に性暴力に遭った自身の体験を打ち明けることにずっと抵抗感を抱いていた。「彼女には健康上の問題はありませんでした。誰かに話したかっただけなのです。2年を経て、ようやく、MSFになら話せると思ったのでしょう」

MSFは既存の保健医療施設を拠点に、現地の看護スタッフの支援と訓練を行っている。保健医療施設側が、MSFとの連携や新たなアプローチの把握に意欲的だったためだ。MSFの最終目標は、現地の看護スタッフが同僚たちに、5つの必須ケアを教えられるようになることだ。

ローリングは「若い看護師たちは、新しいことを学ぶことにとても熱心です。自分たちがやるんだと自覚している様子を見て感無量です。性暴力を受けた人びとが待ち望んでいた医療の普及につながることを願っています」と話す。

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