イラク:トラウマを抱えた暴力被害者に心理ケアを提供

2013年01月04日掲載

国境なき医師団(MSF)は、イラク保健省と協力し、紛争が原因で心にトラウマを負った人びとへの心理カウンセリングを提供している。精神的トラウマは、適切な対処法を伝えることで改善されるケースが多い。紛争でさまざまな暴力を経験し、その影響に苦しむ人びとにとって、"適切な対処法"のニーズは高い。MSFの取り組みをまとめた。

患者の改善を測定するツール(SRQ-20)を使用した調査データから、カウンセリングが非常に良い成果をもたらしていることがうかがえる。退院した患者のほぼ全員が、健康状態と機能性が改善したと報告している。2012年初頭に患者を対象として行った標本調査では、4%が軽度、68%が中等度、28%が重度の症状を示していた。一方、同月に退院した患者は、軽度が78%、中等度が22%で、重度は0%だった。なお、カウンセリング中断率には地域差があり、再受診を妨げる地域的な要因があるとみられる。

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カウンセリングの導入で投薬が減少

MSFはこの2年間、イラクの精神保健に対する新しいアプローチを援助してきた。現在は保健省と協力し、重度の精神病患者に使われる向精神薬や電気けいれん療法の相補的な治療として、心理カウンセリングの導入に取り組んでいる。

イラク中部の都市ファルージャにある中央病院リハビリテーション病棟の医長によると、MSFが回復期の患者に対する心理カンセリングの導入を支援するようになってから、処方する医薬品が減ったという。

精神的トラウマは、多くの場合、投薬治療を必要としない。適切な指導を与え簡単な対処メカニズムを教えるだけで、患者は恐怖心や不安を乗り越え普通の生活機能を取り戻すことができる。さまざまな暴力を経験し、その影響に苦しむ人びとの多さからも、この種の援助に大きな需要があることわかる。

暴力被害の苦痛が身体症状に

MSFの心理カウンセリングを受ける少年

カウンセリングの半数以上は、家庭内暴力、性的暴力、または爆発を主とする暴力的な大事件を目撃・体験するなど、暴力に関連した内容だ。

例えば、腰痛のために何度も来院していた女性は、腫瘍があると信じていた。しかし異常は検出されず、医師たちはカウンセリングを紹介した。その結果、2011年のラマダン期間中、その日の終わりに煙草を吸おうと外に出た息子が爆発に巻き込まれて亡くなったことがわかった。母親の深い悲しみが、身体的苦痛となって現れていたのだ。

ある男性は、2012年初頭、爆弾の破片が直撃した。顔に傷あとが残り、片目も失明した。商人だった彼は事故後に事業から撤退。自信を失い、世間から拒否されていると感じるようになって、欲求不満を妻や息子にぶつけている。現在、妻と子どもがカウンセリングを受けている。

別の男性は、2012年初頭、家族と座っていたところに手投げ弾が飛んできた。妻と娘を失い、片足に重傷を負った彼は、入院先で治療も薬も拒否していた。しかし、カウンセリングを2週間受けた後、ようやく治療に合意。まもなく退院した。

性的虐待を受け続けていた6歳の少年もいる。ある幼稚園職員は、拉致されて暴行を受けていたが、そこから逃げ出すことができ、現在はカウンセリングを受けている。MSFのカウンセラーは日々、このような心の傷の治療を行っている。

ある20代前半の青年は、約半年前に爆発に巻き込まれ、左上腕の骨が砕け散るほどの重傷を負った。現在治療中で、骨片を接続する金属の固定具が腕の3ヵ所から飛び出している。また、カウンセリングの紹介も受けたところだ。青年は落ち込んでおり、父親は息子の将来に不安を感じている。ただ、担当の医師は、青年の腕と精神状態の両方とも回復すると考えている。

MSF/保健省チームは、毎月数百人の患者にカウンセリングを行っている。新規患者は月平均300人、カウンセリングは月800回以上にのぼり、暴力を受けたり目撃したりした経験が、精神的トラウマになっているケースは珍しくない。

カウンセリング部門を増設、電話相談も

MSFはこれまで、首都バクダッドとファルージャにある3ヵ所の病院で、活動を展開してきた。今後は1次医療施設などの活用も視野に入れ、心理カウンセリングのモデルを他の地域にも拡大したい考えだ。

さらに、カウンセリング部門を3ヵ所増設する予定で、次世代のカウンセラー教育や指導者教育を支援している。また、保健省も対策に積極的に取り組んでいる。

さらに、詳しい情報を求める人やカウンセラーと面談することができない人びとのために、電話相談サービスを2地域で開始した。アウトリーチ・チームも、カウンセリングに対する地域住民の認識を高める活動をしている。患者の経過と改善状況を評価する新しいツールも導入した。

イラクにおいては、カウンセリングの需要と供給に明らかな格差がある。カウンセリングに対するニーズは高く、その効果もまた明白だ。

精神的トラウマを負った人びとは、悪夢、うつ状態、無気力または攻撃性などに苦しめられ、衰弱し、多くは日常生活で正常に機能する能力を失ってしまう。心理ケアは必ず効く魔法の治療法ではないが、症状を速やかに改善し、患者の機能性を回復して、責任ある行動を可能にする手助けとなる場合が多い。

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  • カウンセリングは精神科医療に代わるものではありませんが、人びとの生活改善に大きく貢献することができます。

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