アルメニア:結核患者に希望をもたらす移動外科治療チーム

2013年05月09日掲載

アルメニアの首都エレバンで活動している国境なき医師団(MSF)の移動外科チームは、薬剤耐性結核(DR-TB)患者6人に対する外科治療を無事に終了した。結核治療の移動外科チームの派遣は、国際医療・人道援助団体としては初めてだ。

化学療法導入以前、結核治療の主流は肺の感染部位を除去する方法であった。1960年代に新しい抗結核薬が開発され、治療成果が改善。外科治療は減っていった。

しかし、近年の多剤耐性結核(MDR-TB)や超薬剤耐性結核(XDR-TB)の出現で、投薬治療のみでは回復が見込めない患者も出てきた。命を落とす可能性もある結核との戦いの中で、追加的な手段として外科治療の重要性が再浮上してきた形だ。

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経験豊富な専門家チームが手術

MSFの専門家チームによる結核患者の手術

MSF外科チームの派遣目的は、早急に手術が必要な患者を治療することにある。また、アルメニア国立結核病院の現地スタッフに最新の外科手術や手技を伝授し、術後処置や看護を始めとする外科治療の総合能力を向上させる目的もある。

アルメニアの保健医療当局も、MSFが活動している他の国と同様に、結核の外科治療を効果的に実施することが出来ない状況にある。近代的な手術用機器や感染予防対策が不足していることや、最新の治療プロトコルや手術法に精通した手術スタッフが不足していることが理由として挙げられる。

MSFは、ドイツ復興金融公庫(KfW)やGOPA社などと協力。結核外科治療部門の拡充に向け、結核専門家の派遣、機材供与、外科医の派遣などを行い、アルメニア保健省を支援している。

MSFのアルメニアにおける活動責任者であるアナベル・ジェリビは「結核手術は複雑で、最新の手術手技を何年も経験した専門家チームが必要になります」と説明する。手術は、胸部外科医、麻酔科医、手術室看護師、呼吸理学療法士など専門分野も国籍も異なるスタッフで形成されたチームが行う。

ジェリビは「現地スタッフは、優れた胸部外科技術を獲得した国の経験から学ぶことができます。最新の技術や専門知識を有するチームと密接に協力することは、彼ら技術力を伸ばし、治療プロトコルを改善する貴重な機会となったでしょう」と話す。

入念な事前準備も成功の鍵となった。移動外科チームの到着に先立ちMSFや保健省を含む分野横断的な委員会が結成された。さらに、手術を実施する患者を厳選し、術後数週間に渡って必要となる処置などについて、全過程に関して周到に準備を重ねた。

人生を取り戻した患者たち

専門家チームには呼吸理学療法士も加わっている

外科手術だけで結核を治癒することは不可能であり、手術を受けることで毒性のある治療薬の投与期間を短縮できる訳でもない。しかし、他に打つ手がなくなった患者では、治療の効果を大幅に改善できる可能性がある。

今回手術を受けた男性患者は、2010年にMDR-TBと診断された。入院して投薬治療を3年続けたが病状も感染性も改善しなかった。完治が望めないだけでなく、感染性があるために家族や親族からも隔離された。

活動責任者のジェリビは「男性は非常に辛い状況に追い込まれていました。孫を抱くことも出来ないと訴えることもありました。外科治療は、彼にとって大きな突破口でした。ようやく帰宅する日を思い描くこともできるようになったのですから」と話す。

この成功を機に、MSF移動外科チームはアルメニア国内の他の地域へも赴き、現地スタッフの技術と能力強化に取り組む一方で、この悲惨な病気に苦しむ患者たちが生活を取り戻せるよう援助を続けていく。

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