レバノン: シリア人難民急増で不足しているものとは?

2013年07月04日掲載

多くのシリア人難民世帯にとって、雨風をしのぐ場所と食糧の確保には大変な苦労が伴う。国境なき医師団(MSF)は、劣悪な環境が人びとの健康に及ぼす影響に警鐘を鳴らす。

「8ヵ月前、シリアの自宅が破壊されてからは、内戦を避けるため転々とし、最終的にレバノンに入りました」と語るのは、レバノンのベッカー高原、アル・マルジュの町で未完成の建物に家族と滞在するワファさん。ベッカー高原は、シリアの人びとがレバノンに入国する際の主要な国境通過地点だ。

ワファさんは「路上で寝ていたところ、この建物の所有者が受け入れを申し出てくださいました。夜は、家族6人が2枚の薄いマットレスと数枚の毛布で眠ります。夫が片方の端に、私がもう一方の端に寝て、子どもたちを毛布で覆うのです。それが私たちの持てるすべてです」と話す。

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適切で安価な施設の不足

「私たちは内戦を逃れて来たのです」と話すアマルさん(左から2人
目)

レバノンではシリア人難民の増加が続くが、滞在施設の確保は不可能に近い。知人を頼る人もいるものの、大多数がそうした機会には恵まれない。

3ヵ月前にダマスカスから避難してきたアマルさんにとって、最も大変なのは家賃の支払いだという。彼には4人の子どもがいるが、ほぼ着の身着のままでレバノンに入国した。 アマルさんは「1ヵ月に600ドル(約5万8000円)も請求されるのです。でも、私たちは観光で来ているわけではありません。内戦を逃れてきたのです。同じ境遇の人の中には、家賃数ヵ月分の前払いを求められた人もいます」と話す。

MSFもレバノンでシリア人難民への援助を拡大してきたが、医療問題は懸念事項の一部に過ぎない。MSFのベッカー高原でのプログラム責任者であるタニア・ミオリンは「ここは国内で最も過酷な土地です。そこに、難民となった人びとが広範囲にわたって滞在しているのです。居住ニーズは膨大ですが、安価な賃貸施設が不足しています。多くの人は、未完成の建物、ガレージ、テントでの滞在を余儀なくされ、せまい空間を複数世帯で分け合っています」と説明する。

必需品の購入にも苦労する上、仕事もなかなか見つからない。ワファさんの夫のシャディさんは「小さな仕事をこなしています。その日その日にありつけたどんな仕事も引き受けます。仕事が見つからないときは……物乞いをします」と打ち明ける。難民たちがごくわずかな報酬のために進んで働くため、もとより雇用情勢が厳しい中、地元住民の賃金も低下するという事態が生じている。

健康への深刻な影響

体調を崩した赤ちゃんを連れてMSF診療所に来院した夫婦

バールベックでは、約400人のシリア人難民が廃校に身を寄せる。教室だった部屋を複数世帯が共有しているほか、校庭のテントに滞在している人もいる。MSFの地域保健担当者であるハレド・オスマンは「1つの教室に20人も滞在しているケースもあります。ビニールシートで仕切って、2世帯が滞在するのです」と話す。

オスマンは定期的に難民のもとを訪れ、ニーズ調査を行っている。オスマンの調査では、人びとは皆、同じ部屋で過ごし、就寝し、料理している。最大10世帯がたった1つの浴室を共有しているケースもある。トイレもシャワーもそこにしかないからだ。備蓄スペースがなく、食糧の保管も非常に困難だ。こうして人びとの健康が損なわれ、心理状態にも影響が及んでいるという。

レバノンにはシリア人が続々と到着しており、同様の状況が他地域にも広がっている。その中には、シリアに避難していたパレスチナ人難民も含まれている。彼らは、レバノン国内にあるパレスチナ人難民キャンプに避難している。しかし、そこは以前から過密状態だったため、公衆衛生への影響は一目瞭然だ。

MSFのベッカー高原での医療活動責任者であるワエル・ハルブ医師は「MSFの患者の約半数が呼吸器感染症にかかっています。原因は気候や厳しい滞在環境です。水の確保や衛生対策が困難で、感染症のリスクが非常に高まっているのです。疥癬(かいせん)も多く報告されています。こうした皮膚感染症は家族の間で容易に広まってしまいます」と指摘する。

今もわずかな水と衛生設備でしのいでいる避難施設・避難地では、夏にかけて気温が上昇し、水因性下痢の流行リスクが高まることが予想される。プログラム責任者のミオリンは「速やかに対応できるように状況を注視しています」と話す。

医療機会の不足

MSFのソーシャル・ワーカーに相談するワファさん(写真手前右)と
シャディさん(同左)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の登録を受けたシリア人難民は現在、保健費用の25%を負担しなければならない。残る75%はUNHCRの負担だ。扶助があるとはいえ、25%の費用は非常に重い。MSF診療所に来院したある女性は「家賃と子どもたちの生活必需品の負担で精一杯です」と訴える。MSFは医療援助を無償で提供している。一方、女性は「私たちの滞在地の近くにも医療施設はありましたが、医療費の負担が必要でした。でも、医療よりも子どもの食べ物にお金を使いたいのです」と話す。

難民登録を受ければ、国連の事業実施パートナーの援助対象となるが、登録まで2~3ヵ月を要することもある。その間は、提供されている援助を利用できない。MSFのレバノンでの活動責任者であるファビオ・フォルジョーネは「MSFは難民登録の進捗状況にかかわらず、医療の必要な人すべてを援助対象としています。ただ、医療ニーズの充足には程遠い状況です。UNHCRと事業実施パートナーの保健費用負担分は、当初は85%でしたが、75%に縮小しました。これは資金不足が原因です。難民が必要とする適切な医療環境、特に入院治療に深刻な影響を及ぼす恐れがあります」と懸念を示す。

続々と到着する大勢の難民の医療ニーズ拡大を受け、MSFはベッカー高原やトリポリ市、サイダ市などで展開中のプログラムを調整・拡大している。また、各地の診療所で、難民と受け入れ側の人びとの双方に心理ケアを提供している。難民の間で増加し続けるニーズを満たすため、慢性疾患と妊産婦ケアのプログラム1件を開始している。

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