避難生活者の自殺が増加——「心の危機」が顕在化する南スーダン

2018年05月16日掲載

避難民4万7000人を受け入れるマラカル文民保護区
避難民4万7000人を受け入れるマラカル国連文民保護区

南スーダン北部マラカル市に、紛争から逃れてきた避難者を国連が保護している区域がある。その人口は約4万7000人。内戦が波及した2014年の初め、戦闘に巻き込まれた住民の一時保護を目的に創設された。

それから4年の時を経ても帰宅のめどは立たず、自殺件数が増加。この区域で医療・人道援助活動を続ける国境なき医師団(MSF)は、住民への心のケアに取り組んでいる。

劣悪な生活環境や閉塞感が心に落とす影

中央病棟の片隅で若い女性が倒れこみ、小刻みに震えている。すぐに病院職員が駆け寄り、自傷行為を防いだ。プライバシーを守るため、看護師がスクリーンを引く。

「心因性の発作です」病院に勤務するジャイラム・ラマクリシュナン医師は話す。「病院ではありふれた光景です。文民保護区に閉じ込められている不安とストレスを処理しきれない人が大勢いるのです」

2017年に起きた自殺未遂は31件、自殺は7件。年末に自殺未遂が増え、1ヵ月で10件に上った。

MSFはマラカル文民保護区で40床の病院を運営
MSFはマラカル文民保護区で40床の病院を運営

2014年、マラカルの戦闘で多くの人が自宅を追われ、国連南スーダン派遣団(UNMISS)が保護区を開設。当初は一時的な避難場所の確保が急がれ、キャンプ内の生活水準は優先されなかった。

仮設住居が密集し、1人あたりの生活スペースが平均17㎡に満たない場合もある。6~10月の雨期には生活環境がさらに悪化。黒い大地は粘度の高い泥と化し、仮設住居の土間は水たまりに変わる。

雨期にはキャンプ内の通路やテントの床がぬかるみに変わる
雨期にはキャンプ内の通路やテントの床がぬかるみに変わる

ラマクリシュナン医師はこう話す。「ここができた当初、紛争で心的外傷後ストレス障害(PTSD)になっている人が多いと思われました。でも実際には、人びとは戦闘の記憶にめげず、精神的な不調を見せずに生き抜いてきました。しかし時が経つにつれ、避難生活から抜け出せない現実に直面し、『暮らしは一向によくならないままだ』『望みが失われた』と感じる人がでてきたのです」

配給場所に集まる人びと。配給された食糧を売って生活の足しにする人や、食糧を受け取れずにキャンプのごみをあさる人もいる
配給場所に集まる人びと。配給された食糧を売って生活の足しにする人や、食糧を受け取れずにキャンプのごみをあさる人もいる

家族と死に別れるなどして心の支えとなる人がいないケースも多く、極度の精神不安から自分の殻に閉じこもる。独りでぼんやりと歩き回る人もいる。

MSFの病院には、毎月18~20人の新患が心のケアを受けに訪れる。その半数近くがうつに、15%が不安障害に関連する精神疾患だ。しかし、このデータには自発的に来院している人しか含まれておらず、実際にはもっと大勢が心の問題を抱えているものと見られる。

暴力の脅威に常にさらされていることも、緊張に拍車をかけている。2016年2月には保護区域内で武装勢力による襲撃事件が起き、キャンプの3分の1が焼失。多数が重傷を負い、25人が命を落とした。

焼き討ちされたマラカル文民保護区(2016年2月撮影)
焼き討ちされたマラカル文民保護区(2016年2月撮影)

「子ども時代」を奪われる避難民の子どもたち

キャンプではアルコール依存症が非常に多い。主に飲まれているのは、マリサと呼ばれるモロコシの蒸留酒だ。高血圧など健康上の問題を引き起こすほか、免疫力の低下により結核などの感染症にかかりやすくなる。

強い酒がキャンプ内で売買される。他に生活手段のない女性が製造している場合が多い
強い酒がキャンプ内で売買される。他に生活手段のない女性が製造している場合が多い

生活の足しにとキャンプの門外でまきを拾う女性たちは、常に性暴力の危険にさらされる。

「女性たちは何度も襲撃や性暴力に遭っていますが、MSFにカウンセリングや診察を受けに来る人はほとんどいません。人に知られることを恐れているのです。噂が立てば、まず結婚できませんから」。MSFの心理療法士、ナタリア・ロドリゲスはこう説明する。

保護区での生活手段は限られる。まきの販売は重要な収入源だ
保護区での生活手段は限られる。まきの販売は重要な収入源だ

当局は、2016年後半から子どもの自殺対策を強化した。保護区に暮らす子どもの多くが家計を支える労働力として働き、遊んだり勉強したりする時間を持てずにいる。精神的な要因でおねしょや攻撃性などの兆候が子どもに表れていても、家庭内では見過ごされがちだ。

虐待されている子どもや孤児も多く、食糧の配給を受けられないため、路上でごみを食べている姿も見られる。現実逃避のためアルコールに手を出す子もいる。

保護区内に開かれたキッズスペースで遊ぶ子どもたち。つらい日常をつかの間忘れられる場所だ
保護区内に開かれたキッズスペースで遊ぶ子どもたち。つらい日常をつかの間忘れられる場所だ

「うつなどに苦しんでいる患者には、コーピング・スキル(ストレスへの対処法)を伸ばす認知行動療法を取り入れます。結果的に、うつを直接引き起こしている原因を特定し、苦しみを和らげる方法を見つけることにつながります」(ナタリア・ロドリゲス)

子どもの心理ケアでは、おもちゃを使って気持ちを表現してもらうことも
子どもの心理ケアでは、おもちゃを使って気持ちを表現してもらうことも

「情勢が好転し、避難民が帰宅できる日がいつ来るのか、誰も分かりません」とラマクリシュナン医師。

キャンプ住民への心のケアはまだ不十分だ。食料や水の配給だけでなく、住居の提供や雇用機会の創出も避けて通れない課題だ。対策の拡充が求められている。

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