マラウイ:性産業従事者への診療を強化――HIV流行を防ぐために

2013年08月16日掲載

マラウイ最南端のンサンジェで、国境なき医師団(MSF)は、性産業従事者を対象とした出張診療を行っている。その第2回の終業間際、若い女性がおずおずと入って来た。名前は……仮にイザベラと呼ぶことにしよう。

イザベラはその日、友人2人と一緒にHIV検査を受けた。結果は陽性。その場でカウンセリングを受け、抗レトロウイルス薬(ARV)治療を勧められた。彼女はそこで、ようやくカウンセラーに打ち明けた。実は、HIV陽性だということは知っていた。地元の病院のARV診療の予約を2度すっぽかし、気まずくてそのままになっている。でも、治療を続けようと思って、友人からもらった錠剤を飲んでいる。嘘か本当か……ただ、彼女は不安になって、MSFの出張診療に助けを求めに来たのだ。

記事を全文読む

有病率8割、病院で偏見や侮辱も

MSFの出張診療で患者を診察する"性産業従事者に優しいスタッフ"

「性産業従事者のための出張診療」は、ンサンジェ郡でMSFが行っている新たな援助モデルだ。公式推計では、同郡の性産業従事者のHIV/エイズ有病率は82%にも上る。性産業従事者の有病率の国平均は71%で、それよりもさらに高い。地元レベルの専門援助がなく、地域のコンドーム供給量も低迷が続き、性産業従事者がHIV感染の新たな担い手となってしまっている。

ンサンジェのMSF出張診療のリサ・トゥレツキ看護師は「性産業従事者の立場は非常に弱く、そのニーズに応える援助もありません。さらに、彼女たちは診療所で、偏見や侮辱を受けることもあります」と話す。

特に、性感染症の治療で一般の病院や診療所に行った場合、偏見や侮辱にさらされることがある。ほかの患者から敵意を向けられたり、診療所のスタッフからひどい扱いを受けたりすることもある。そのため、多くの女性が尻込みしてしまうのだという。トゥレツキ看護師は「彼女たちに必要な保健ニーズを考えれば、これは見過ごせません。とても悲しいことです」と話す。

"性産業従事者に優しいスタッフ"による診療

ケアの利用と浸透を促し、コンドームとARVの常用を勧めるため、MSFは的を絞ったアプローチを実践している。例えば、地元保健医療施設で性産業従事者向けに開かれる診療に、MSFの"出張診療"月1回ペースで連結している。診療は保健省所属の看護師やカウンセラーが担当し、性産業従事者への丁寧な対応を学ぶ。

診療ではコンドームと「予防のための治療」を提供。病状に関わらず、すべてのHIV陽性の性産業従事者を治療することで、感染性の減退と新規感染の予防につなげる狙いがある。

2013年6月末には、第1陣の"性産業従事者に優しいスタッフ"による診療の準備が整い、2回の出張診療が行われた。反応は非常によく、2回目の来院数は1回目の1.5倍に増えた。スタッフの応対がよかったという意見も寄せられた。

第1回の出張診療は性感染症に重点を置いた。診療を受けた性産業従事者のうち、66%が梅毒にかかっているという衝撃的な数値が明らかになった。担当チームは、性感染症の症状が見られる性産業従事者には、ほぼ全員に治療を行った。また、地道だが重要な活動として、コンドームの配布も行った。ンサンジェ郡ではコンドームの供給が不足しており、性産業従事者にさえ行き渡っていない。

地元病院を拠点とした診療も開始――偏見をなくす目的

出張診療は、MSFとンサンジェ郡保健担当局の共同運営だ。将来、保健担当局が単独で診療を行う計画であることから、MSFはスタッフの技能確立に注力している。

研修を終えたばかりの"性産業従事者に優しいカウンセラー"は、イザベラの行方を追った。彼女がまたケアを受けに来なくなったからだ。カウンセラーは彼女と同じ村の出身で、土地勘もある。イザベラはすぐに見つかった。トゥレツキ看護師は「MSFのケア・モデルは、性産業従事者が担当スタッフに対し、不快感を抱かないように設計されています」と話す。

8月からは月1回、その日の午後に病院を拠点とした診療を行っている。偏見や冷遇といった問題の回避が目的だ。研修を受けたスタッフが町の中心部ンサンジェ・ボマで診療を展開している。一方、MSFはこの特別援助をンサンジェ内全域に拡大する予定。

また、MSFはこのアプローチをアフリカ南部全体に広めようとしている。アフリカ南部では、性産業従事者が同様の困難に直面しているからだ。

MSFのマラウイでの活動責任者であるロッド・ガーステンヘイバーは「実効性のある疾病対策を行い、HIVの流行抑止に本格的に取り組むためには、性産業従事者など"鍵を握る人びと"に注意を向けていかなければなりません。イザベラのような女性たちを、機能不全の保健医療システムから抜け落ちるままにしておくわけにはいかないのです」と訴える。

関連情報