チャド:目の見えない90歳女性。だが、コレラ治療に誰も付き添わなかった......

2017年11月29日掲載

バハル・アズム川の水は地域住民の洗濯や入浴、飲用に不可欠だ バハル・アズム川の水は地域住民の洗濯や入浴、飲用に不可欠だ

チャドコレラが流行している。チャド保健省によれば、8~11月に少なくとも73人が亡くなり、確認された症例数は1186件に上る。保健省は9月18日にコレラ流行を宣言した。なぜ、こんな流行が? 調べると、地域の暮らしに原因があるようだった。

偏見が治療の遅れにつながる

コレラ治療センター(CTC)で活動するロジェ・ハイウェ医師 コレラ治療センター(CTC)で活動するロジェ・ハイウェ医師

「重い症例が際立っています」。コレラ治療センター(CTC)で働くロジェ・ハイウェ医師は話す。チャド保健省の統計によると、9月11日に最初の症例が報告されてから11月14日までに、サラマト州の症例数は795件、死者は23人に上っている。

「患者は遠く離れた治療センターまで行かなければならないだけでなく、偏見の目で見られるため、コレラにかかったことを人に話すのを怖がっています」

感染はバハル・アズム川の上流に位置するチャド東部シラ州から始まり、南に隣接するサラマト州へと拡大した。

国境なき医師団(MSF)はシラ州のコレラ治療ユニット(CTU)3ヵ所と経口補水ポイント1ヵ所での活動を保健省に引き継ぎ、サラマト州の州都アム・ティマンに緊急対応チームを派遣した。ベッド数40床のコレラ治療センター(CTC)に加え、より小規模なコレラ治療施設であるCTUを3ヵ所開設した。

流行がピークを迎えた10月中旬には、患者の半数以上が重度の脱水状態で受診した。すぐに来院できなかったり、交通の便が悪かったりするためだ。州全体で救急車が2台しかない上に、農村部は道が悪く電話もつながりにくい。救急車が使えない場合は料金の高いバイクタクシーに乗るしかないが、ほこりだらけでガタガタの道を長時間搬送するのは危険だ。

生活用水が命を奪う

CTCの回復者用テントに座るアーマト・イッサさん(中央) CTCの回復者用テントに座るアーマト・イッサさん(中央)

コレラは、保菌者の排泄物や吐しゃ物で汚染された水や食べ物を通じて、感染する。嘔吐や下痢で失った水分と電解質をすぐに補えば治療できるが、治療を受けなければ数時間で死に至る患者もいる。

アーマト・イッサさん(39歳)は、雑穀ミレットの収穫中、川の水を飲んで具合が悪くなった。患者の多くが似たような経験をしている。焼けるような日差しが照りつける耕地での農作業だが、1日分の飲み水は重いために持って行かず、川の水で喉の渇きを癒していたのだった。

アーマトさんは5日間の入院生活を終え、母親と一緒に退院するところだ。「すごく疲れていて、まだ立つことも食べることもできません。村に戻って完全に回復したら、農作業で畑に出るときは、バハル・アズム川の水を飲むのではなく、飲み水を持っていくようにします」

たった1人で搬送された高齢女性

薬剤で浄水処理される川の水 薬剤で浄水処理される川の水

MSFの健康教育チームは、衛生用品セットとして、浄水処理に使う小さな袋も配布している。これで、汚染された川の水でさえ安全に飲めるようになる。このセットには、浄水処理用の20リットルバケツ、石けん1個、毛布と蚊帳各1枚も入っている。

回復者用テントの中で、アムヌ・ファドゥさん(90歳)が真新しい衛生用品セットを抱えて座っている。視力を失っているため、セットは見えない。

テントのマットレスに腰掛けるアムヌ・ファドゥさん テントのマットレスに腰掛けるアムヌ・ファドゥさん

ファドゥさんは村で共用のシャワーを浴びているときに具合が悪くなり、他の人に連れ出された。だが、誰にも付き添われず、たった1人でCTCに運ばれてきた。周囲の誰もがコレラに感染することを恐れていたからだ。

「私は吐いていて下痢もしていました。死ぬと思いました」と語るアムヌさん。介護者はいない。そのため、入院患者のザラ・エドワールさん(18歳)が食事を口に運んであげていた。

コレラの予防講習を行うMSFの健康教育スタッフ コレラの予防講習を行うMSFの健康教育スタッフ

子どもたちは今なお汚染の恐れがある川で遊んでいる。衛生管理の大切さについて地域住民に知らせるため、MSFはアム・ティマンの町や周辺の村で衛生、浄水処理とコレラ予防に関する啓発活動をしている。

「当初、患者は病気を恥じて夜間に来院していましたが、今は日中に訪れるようになりました」。コレラ治療センター(CTC)で働くハイウェ医師は話す。「正しい知識が広まってきている兆しも見えます」

MSFはチャドで35年以上にわたって活動している。アム・ティマンにも既存のプロジェクトがあり、主に小児医療と母子医療の分野で、拠点病院や周辺の診療所を支援している。ラク州では州立病院の支援や避難民に基礎医療を提供し、マンドゥル州南西部のモイサラで季節性マラリアの予防接種をしている。

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