「赤ちゃんが炎の中に」 ロヒンギャ難民、迫害逃れ国境へ MSFは支援を拡大している

2017年09月21日掲載

「夫の兄弟は殺されました。姉妹も3人の子どもたちとトイレに隠れましたが、引っ張り出され、虐殺されました。一番下の子はまだ赤ちゃんでしたが、炎の中に投げ込まれました。みんなで遺体を埋めました。襲撃の後、夫は30人ほどの遺体を埋める手伝いをしましたが、それでも、まだ埋葬しきれませんでした」

ある女性が国境なき医師団(MSF)に証言する。

ミャンマーから隣国バングラデシュに逃げ出すロヒンギャ難民。その数は8月25日以降、40万を超える。
ミャンマーから隣国バングラデシュに逃げ出すロヒンギャ難民。その数は8月25日以降、40万を超える。

広がる暴力行為、レイプ、村の焼き討ち――。逃れてきた人たちがMSFに惨状を打ち明ける。仲間が殺されるところや、国境の川でおぼれるところを見た人もいる。重いトラウマを負っている人もいる。外傷を負い、ひどく化膿してしまった人もいる。なによりも、絶望している。

子ども、妊娠した女性、老人――。着の身着のままで歩いてきた。何日も食べ物を口にしていない。眠る場所もなく、ただ外に横たわる。

ある父親は、家族を森に残してくるしかなかった。撃たれた息子の手当てのため、父子だけでバングラデシュを目指した。

前例のない多数の難民。ミャンマー軍が軍事作戦を展開したことがきっかけだ。その作戦は、警察署や軍基地が相次いで襲われ、ロヒンギャの民兵組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が犯行声明を出したことに端を発する。難民らはミャンマー軍兵士が銃撃してきたというが、MSFとして確認する術はない。

すでにミャンマーを脱出して、いまは仮設の居住地で生活する難民はMSFにこう説明する。

「人びとが到着し始める前は、この家に2家族で住んでいました。合計7人です。今は眠る場所が必要な人たちが多すぎて、家の全部の床を覆いました。女性たちは中で眠ります。男性はモスクで眠ります。私たち自身も働き口はありませんが、こうした人たちを助けなければ。何もかもが不足しています。それでも、新しく来た人たちとシェアしています。だから、もっと足りなくなって・・・」

バングラデシュ側に逃れた人たちは、多くがクトゥパロンとナヤパラという2つの難民キャンプに滞在している。だが人で溢れかえり、スペースさえあれば小屋を作っている状況。川岸にテントを張って眠る人もいる。路傍にただ座り込む人もいる。泥だらけで、雨露をしのぐことすらできない。地元コミュニティに受け入れてもらっている人もいる。2つの国の間の無人地帯で立ち往生している人たちもいる。

MSFは1992年から、このクトゥパロン地域で活動してきた。昨年10月、それまでより活動を拡大したが、いま、その対処可能な数を大幅に超えている。

緊急に飲み水が足りない。食べ物も足りない。口にするのは配給の乾パンだけ、またはそれすら手に入れられない人たちもいる。トイレなどの設備も足りない。このままでは衛生問題による病気がいつ蔓延してもおかしくない。壊滅的な被害が出てしまう。

バングラデシュ側でMSFの医療チームは、銃や爆弾による傷、レイプ被害の治療に当たっている。医療スタッフを増員し、入院施設も拡大。水と衛生の専門家が緊急対応を開始し、抗菌効果のある石けんも配っている。

ミャンマーに取り残されて

ミャンマーには、数千から数万、多ければ数十万の人たちが取り残されているという報道もある。暴力行為から逃げられず、治療も受けられずにいることが懸念される。

ミャンマー政府は、国連やNGOを非難。人道援助が届けられなくなっている。ミャンマー西部にあり、バングラデシュと接するラカイン州に残った人たちは医療を受けられない状況が続いている。

これまでMSFはラカイン州で月に最大1万1000件以上の総合診療などをしてきたほか、救急搬送や入院が必要な患者のサポートもしてきた。これらが現在すべてストップしている。ほかの団体も状況は同じだと報じられている。「このままでは助けられる命が救えない。厳しい現実が迫っている」(MSFのブノワ・ド・グリズ)

同州北部は政府によって戦闘地域と宣言され、事態はより深刻だ。MSFはこの地域のマウンドーとブティドンという地区で医療サービスを提供してきた。だが、「村や家々は焼かれ、MSFの2つのクリニックも焼け落ちたと聞いている」とMSFのカルリーヌ・クライジャー。

ラカイン州中部でも12万人ほどが家を追われ、キャンプで暮らす。MSFはここで移動診療を続けてきたが、8月末以降、外国人スタッフに移動許可書が発行されなくなった。現地スタッフは身の危険から訪問できずにいる。

ミャンマー政府は独占的に人道援助をするとしているが、「独立で中立的な人道援助団体しか、住民の信頼を得て、ニーズにもとづく援助は確実に届けられない」(MSFのブノワ・ド・グリズ)。

MSFは人道的ニーズを満たすために、ミャンマー・ラカイン州で独自に制限なく援助活動ができるように求めている。

暴力行為が繰り返されれば、苦しみの連鎖は続く。残るのは身体の傷。そして、心の傷だ。

関連記事:ロヒンギャ危機:ミャンマー・ラカイン州での人道援助の即時受け入れを要求

ロヒンギャ危機に対応拡大中
「緊急チーム」募金にご協力ください

寄付をする

関連情報