リビア:ひどい暴力。心に落とす影。難民・移民らの不当な勾留を止めさせるために

2017年09月19日掲載

アブー・スリム収容センター、警備員が扉を閉める
アブー・スリム収容センター、警備員が扉を閉める

続く不当な扱い。手当てが必要だ。心もケアも必要だ。なのに、治療は受けられない。この勾留が不当だと声を上げたり、領事館に助けを求めたり、収容センターの外の世界と接触することもできない。

人々は勾留され、傷つけられ、搾取されている。正式な登録システムはない。収容記録もない。一度センターに入れられてしまうと、消息はもうわからない。現在、リビアでは、法による支配が働いていない。

ずっと勾留されたままの人がいる。収容センター間を行ったり来たりする人もいる。どこに移送されたかわからない人、そして、一晩で跡形なく姿を消してしまう人もいる。

こうした勾留によって、苦しめられている人たちがいる。

国境なき医師団(MSF)は1年以上にわたり、首都トリポリ市内の収容センターに勾留されている難民や移民らに医療を提供してきた。

紛争や貧困から逃れるためヨーロッパを目指す途中、リビアで拘束されセンターに勾留された人たちだ。人道的な配慮も人としての尊厳もない生活環境を強いられている。

リビア国内で起きている、難民、移民、保護を求める人びとの理不尽な勾留。これを止めるようMSFは呼びかける。

トリポリ近郊にあるジャンゾー収容センターに勾留された男性たち。
トリポリ近郊にあるジャンゾー収容センターに勾留された男性たち。

不当に扱われ、抗議もできない

収容センターは、名目上は内務省の管轄下にある。だが、勾留は法に則ったものではない。難民や移民らが長期にわたり勾留されることがまかり通っている。抗議する手段もない。

リビアでは暴力行為と情勢不安が広がり、現地で活動できる国際団体はごくわずかだ。統一政府がないため支配力が分散しており、無数の武装勢力がトリポリ近郊やほかの地域で激戦を続ける。重装備した民兵同士の武力衝突も多発している。

政治情勢は不安定で、経済は崩壊し、法秩序は破綻している。

アブー・スリム収容センターに勾留された男性たち。MSFは2017年6月以降、この収容所に立ち入れない。
アブー・スリム収容センターに勾留された男性たち。MSFは2017年6月以降、この収容所に立ち入れない。

収容センターへ押し込められる難民や移民

新しい収容センターは一晩ででき上がる。建設のため、拘束者が強制的に動員される。強制労働と引き換えに、逃がしてもらえることもある。そうでなければ収容は続く。センターが突然閉鎖されることもある。その場合、収容されていた人びとの消息はわからない。

リビアから海を渡って、ヨーロッパを目指す人びと。だが、そのボートは海を渡りきるには貧弱すぎる。リビア沿岸警備隊に発見され、連れ戻される。

HIV/エイズ、B型肝炎やC型肝炎にかかっている恐れがあるとして勾留される人もいる。夜間の一斉検挙や検問所で逮捕される人や、路上でよびとめられて勾留された人もいる。車やタクシーで信号待ちをしていたところ、車内から引きずり出された人もいる。着飾った男女と幼い子どもたちは、トリポリで結婚式に出席していたところ身柄を拘束された。

アブー・スリム収容センターに連れてこられた人びと。
アブー・スリム収容センターに連れてこられた人びと。

1日で変わる収容センターの運営

内務省が厳しく管理している収容センターもある。だが、武装勢力や民兵の勢力が管轄するセンターもある。力関係が変わればセンターの運営も変わる。たった1日で。

そのため、MSFはセンターに勾留されている患者を診ることを禁じられることもある。人道援助や治療継続の必要性を説く交渉が、ゼロからやり直しになることもある。

いつ解放されるかも分からないまま何ヵ月も勾留されている。アブー・スリム収容センターにて。
いつ解放されるかも分からないまま何ヵ月も勾留されている。アブー・スリム収容センターにて。

生きていることを知らせたい…家族に

勾留された人は、いつ出られるのか、自分がどうなってしまうのかもわからず、不安に怯える。外の世界との接触がほぼ断たれた状態で、何とかして家族に自分たちがまだ生きていることを知らせようとする。

トリグ・アル=マタル収容センターの独房。HIV/エイズや結核など、感染症の疑いがある人びとが入れられている。
トリグ・アル=マタル収容センターの独房。HIV/エイズや結核など、感染症の疑いがある人びとが入れられている。

患者に自由に近づくこともできない

収容センターに勾留されている人が受けられる医療は限られている。医療活動をしているのは、非常に不安定な状況でも活動できる能力がある一握りの人道援助団体だけ。MSFや国連機関などだ。

MSFはセンターに自由に立ち入ることができない。MSFの医師もセンター内の人とは限られた接触しか許されない。診察や治療の必要性を判断することもできない。患者が隠されてしまうこともある。

患者が翌日に姿を消してしまうこともあり、勾留中の患者の容体を見守ることが非常に難しい。

新たに200人が収容されるアブー・スリム収容センターで、水浸しになった独房を掃除する男性。
新たに200人が収容されるアブー・スリム収容センターで、水浸しになった独房を掃除する男性。

勾留が引き起こす苦しみ

MSFは収容センターで1ヵ月に1000人以上を治療している。呼吸器感染症、急性水様性下痢、皮膚病や尿路感染症といった症状が多い。原因はひどい生活環境だ。センターの環境は、国レベル、地方レベル、国際レベルのどんな基準にも則っておらず、拘束された人は適切な医療援助を継続して受けられずにいる。

アブー・スリム収容センターの内部
アブー・スリム収容センターの内部

狭い空間にあふれる人びと

収容センターは人であふれている。暗く、空気も悪い。以前は工場や倉庫として使われていた建物で、大人数を収容するのに必要な設備もない。狭すぎて、夜に手足を伸ばして寝ることさえできない場所もある。

大勢の人をこのような狭い空間に何ヵ月も閉じ込めておくと、筋肉痛になったり、病気が広がりやすかったり、疥癬(かいせん)のような感染症につながったりする。換気が悪いため、呼吸器感染症にかかっている人も多い。

アブー・スリム収容センターに到着し、倒れてしまう男性も。
アブー・スリム収容センターに到着し、倒れてしまう男性も。

制限のない暴力や虐待

収容センターでは、拷問や不当な扱いが日常茶飯事だ。警備員がどんな人間かが、収容されている人の命運を決める。警備員は訓練を受けていない。定期的な給与の支払いも受けていないとみられる。

MSFの医療チームは週1回、骨折や銃創など外傷の治療をしてきた。収容されている人たちは、暴力や虐待を受けても、怖がって話そうとしない。警備員だけでなく、勾留仲間から暴力を振るわれる恐れもある。センターの秩序維持の名目で警備員が選んだ人間だ。

心の健康に不調を抱える人は特に被害に遭いやすい。MSFの医療チームも精神疾患を抱える患者が殴られる様子をたびたび目撃している。

MSFは、知り得る限り患者の死亡例を記録している。だが、センターを運営する当局の記録は見られないので、死亡者数の合計はわからない。記録があるのかさえも不明だ。

アブー・スリム収容センターに勾留中の男性。
アブー・スリム収容センターに勾留中の男性。

食べ物が足りない

大幅に体重を落とす人が多く、栄養不全のため、病気や体調不良に陥りやすくなっている。食べ物はたいてい質や量が足りておらず、収容センターへの食糧の搬入も不規則で途切れがち。拘束者がまったく食べ物を口にできずに何日も過ごすこともたびたびある。

MSFはここ1年で、急性栄養失調の大人50人以上を治療した。平均して週に1人の患者がいる計算だ。なかには緊急入院の必要な患者もいた。

ソルマン女性収容センターに勾留中の親子
ソルマン女性収容センターに勾留中の親子

勾留中の出産

収容センターには、赤ちゃん、子ども、妊婦も勾留されている。数ヵ月も勾留されている妊娠初期の女性もいる。すでに妊娠後期の女性もいる。

劣悪な環境は女性の健康に悪いだけでなく、妊娠合併症が起きた場合は命の危険もある。勾留中は、出産も医療者の介助がない。MSFが収容センターで診察した最年少の患者は、前日の夜に生まれたばかり、生後5時間の赤ちゃんだった。

緊急事態に陥っても、夜間であったり、収容センターの近くで戦闘や騒乱が起きていたりすると、危険なため救急処置に向かうことができない。母子の命にかかわることもある。

施設が満員になり、トイレの床で寝なければならない女性たち。ソルマン女性収容センター
施設が満員になり、トイレの床で寝なければならない女性たち。ソルマン女性収容センター

トイレも足りない

トイレもシャワーも非常に限られた数しかない。衛生設備は全体的に不足している。そのため、皮ふの感染症や、シラミ、ダニ、ノミの寄生がまん延している。

ソルマン女性収容センターでは国際基準に反し、男性警備員が女性を監視している。
ソルマン女性収容センターでは国際基準に反し、男性警備員が女性を監視している。

安息の地は見つからず

これまでにも多くの難民や移民が、自国からのリビアへ、またリビア国内での過酷な旅の途中でむごい暴力と搾取にあっている。性暴力、人身売買、拷問、虐待の被害者は多い。

親や保護者のいない子ども、妊婦や授乳期の母親、高齢者、身体障がい者、精神障がいや知的障がいのある人、重傷病者――。保護を必要としているのに、得られる助けは限られている。身を寄せる安全な場所はない。

ソルマン女性収容センターに勾留されている女性。
ソルマン女性収容センターに勾留されている女性。

むしばまれる心

勾留は心にも大きな影を落とす。いつ解放されるのかわからい。たいていは長期に及ぶ。外の世界とほぼ隔絶され、誰かに助けを求めることもできない。

自殺を考えたり、睡眠障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えたり。パニック発作、抑うつ症、不安症に苦しむ人びとも多い。

トリグ・アル=マタル収容センター
トリグ・アル=マタル収容センター

苦しみに終止符を

どんなに援助資金が増えても、それだけではこうした状況は解決できない。収容センターの環境を改善したとしても、リビアの複雑な現状に目を向けなければ、こうした状況は繰り返されるだけだ。

理不尽に勾留し、危害を加え、搾取する――。これを正当化させてはいけない。

手助けを受けるやけどを負った女性
手助けを受けるやけどを負った女性

関連記事

関連情報