イラク:「食べ物の入手が問題ではない」――乳幼児の栄養失調、なぜ多い?

2017年07月27日掲載

イラク:「食べ物の入手が問題ではない」――乳幼児の栄養失調、なぜ多い?

カイヤラ病院で栄養治療を受ける子ども

イラクで政府軍と過激派武装勢力「イスラム国」との激しい戦闘があったモスルから南に約60km、カイヤラの町にある病院で、国境なき医師団(MSF)は重度栄養失調の子どもを受け入れている。2017年3月以降で、その数は450人を超えた。イラクでMSFの活動責任者を務めるマヌエル・ラノーに、栄養失調の原因と性質について聞いた。

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栄養失調の患者に傾向はみられますか。

ほとんどは1歳未満です。生後6ヵ月未満に限っても60%に達します。モスルからの避難者も含まれていますが、大半は避難キャンプの滞在者です。直近の2週間で、栄養失調の子どもは特に増えており、ベッド稼働率は200%以上で推移しています。

MSFはベッド数30床を増やす計画を進めています。これまでは12床でしたが、7月以降はこの増床部分でも治療を受けられることになります。

何が原因なのでしょうか。

母乳育児が行われず、粉ミルクが不足していることが
栄養失調の子どもの増加につながっている

実は食べ物が手に入るかどうかの問題ではありません。乳幼児の栄養失調は主に、粉ミルクの不足によって起きています。モスル市街地で包囲されていた地域では確かに食糧不足が問題となっていました。その結果、標準体重をはるかに下回る人びとがキャンプに避難してきています。モスル市外では食糧を手に入れることができるため、大人は短期間で体重が回復しています。

ところが、赤ちゃんはそうはいきません。イラクでは母乳育児が盛んではなく、母乳で始めた人も生後2~3ヵ月でやめています。さらに避難生活のストレスや疲労が重なり、母乳育児がさらに厳しくなっているのです。

政治的な“壁”もあります。国連児童基金(ユニセフ)や世界保健機関(WHO)はイラクを含む各国で母乳育児を推奨しており、粉ミルクの配給は医師からの処方にもとづいた場合のみとなっています。

イラクのような紛争下で乳幼児の栄養失調を予防するには、粉ミルクの配給しかないとMSFは考えています。栄養治療を受けていた子どもが退院する際や経過観察で来院した際には、MSFから粉ミルクを提供しています。もちろん母親たちに母乳育児の大切さを伝えています。その上で、もし粉ミルクが必要になったら使ってください、という意味でお渡ししているのです。

MSFはさらに、避難キャンプ内で清潔な水を確保するための援助活動も行っています。問題になりそうなことについては予め母親たちに知らせるなど注意喚起も行っています。

治療はどのように行っているのですか。

MSFは2017年3月以降、カイヤラ病院で
450人以上の栄養失調児を受け入れた

入院中の子どもたちについてはきめ細かいな容体管理が求められます。残念ながら再入院数は高水準にとどまっています。自宅に子どもたちを残してきている母親が多く、一時退院を希望するケースが目立ちます。栄養失調の治療は全治まで2~3週間かかるため、中には医療者の助言を聞かずに帰ってしまう母親もいます。そうなると、交通手段がないなどさまざまな理由が壁となって、簡単には病院に戻ってこられなくなってしまうのです。

MSFは7月初旬から、避難キャンプの子どもを対象に、予防的な栄養補給プログラムを開始しています。プログラムには、栄養状態の経過観察と栄養失調のスクリーニングも含めています。栄養失調の予防や患者の容体管理の取り組みに、より多くの人道援助団体が参加することを望んでいます。

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