シリア:内戦6年――誰が苦しみをいやすのか

2017年03月27日掲載

シリアの民主化運動に端を発した内戦は2017年3月現在もいまだ収束していない。紛争の影響や"医療"への攻撃で、多くの人が必要な治療・予防を受けられなくなっている事態が続いている。

この危機に医療・人道援助団体として対応する必要があると判断した国境なき医師団(MSF)は、2012年、国内での活動開始に踏み切った。緊急活動は6年目に入ったが、シリア政府は一貫して活動を認可していない。

しかしながら、地域の医療ネットワークなどを通じることで幅広い支援を実現しており、直営の医療施設は6軒、遠隔支援や物資の寄贈などを行っている医療施設は計150軒に上る。シリアの最新情勢とMSFの現在の活動をまとめた。

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たった1人の外科医の責任――You Tubeを"助手"として

パブロ・マルコ/MSFオペレーション・ディレクター(中東地域担当)の話

すべての紛争当事者、近隣諸国、国際機関・団体は、人道援助活動を受け入れ、それを政治の道具として使用することを禁じなければなりません。医療を受ける必要がある人が医療施設へ移動することや、医療従事者が患者のもとに向かう自由を認めるべきです。同時に、救急隊員、医療従事者、医療施設の保護を徹底すべきです。

シリアでMSFが活動できない地域は広範囲にわたります。MSFは活動を拡大する努力を続ける一方、独立・中立・公平の立場で医療援助ニーズがある地域で活動できるように、シリア政府に活動許可を求め続けています。

国際社会は、紛争と迫害を逃れてきた人びとに背を向けてはいけません。亡命、援助、保護を受ける権利を尊重することは大前提です。

シリアの紛争当事者は、国際人道法の紛争地帯規定に則り、民間人と民間インフラの保護措置をとる義務があります。国際人道法に反する行為は認められません。

シリアをめぐる最近の情勢――2016年12月~2017年2月

シリア政府軍は2016年末にアレッポ市を奪還。これを機に、政府軍と反政府勢力のそれぞれの後ろ盾となっていたロシアとトルコが主導する形で停戦が発効した。ただ、「イスラム国」などの過激派武装勢力は対象に含まれていない。

シリア政府と反政府勢力の停戦・和平協議は、カザフスタンの首都アスタナとスイスのジュネーブの2ヵ所で行われている。ジュネーブでの協議は3月3日で中断しているが、3月23日からの再開を目指して調整が続けられている。

一方、2月にはダルアー県では政府軍と「イスラム国」との間で武力衝突が発生。また、ホムス市では自爆テロ攻撃が発生した。調停役のスタファン・デ・ミストゥラ国連特使は「こうした事態は和平協議の交渉失敗を狙った妨害だ」とし、当事者に警告した。

過激派武装勢力をめぐる情勢はいまだ混沌としている。反政府勢力とトルコ軍は、2016年8月以降、「イスラム国」の排除を目的とした共同作戦「ユーフラテスの盾」を実行し、シリア北部の「イスラム国」支配地域を攻撃している。2017年2月下旬、トルコはアレッポ県バブ市にあった「イスラム国」の要塞を攻略したと発表した。

その直後、シリア軍と同盟軍が「イスラム国」支配地域へ侵攻した。トルコ軍の支援を受ける反政府勢力のバブ市内での勢力拡大を未然に防ぐ狙いがあり、「イスラム国」は拠点を失って退却したとみられる。また、シリア軍はアレッポ市の浄水処理・給水施設の奪還に向けて動きを強めている。

緊急援助を続けつつ、政府とも認可交渉――MSFの活動

MSFの医師の診察を受ける子ども(アレッポ市の保健センター、2017年2月撮影) MSFの医師の診察を受ける子ども
(アレッポ市の保健センター、2017年2月撮影)

中立・独立・公平な立場で医療・人道援助を行うための交渉は、シリアのほとんどの地域で不可能ではないだろうが、大きな困難を伴う。

MSFが紛争地で活動する場合、前線の両側で、緊急度が高い人びとを最優先として医療・人道援助を提供している。そのために、紛争のすべての当事者と協議・交渉し、安全を確保しつつ患者と接触できる環境づくりを行っている。

MSFが2012年以降、シリア政府に対し、政府の支配地域内での緊急援助ニーズを調査するための認可申請を行っているのもその一環だ。交渉は今も続けているが、認可される見通しは立っていない。

傷病人・難民の国境通過を再開せよ

ギリシア・マケドニア国境の封鎖で足止めされるシリア人難民 ギリシア・マケドニア国境の封鎖で
足止めされるシリア人難民

シリア人難民についての周辺国の対応は、この数年間で明らかに飽和状態に達している。周辺国のトルコ、イラク、レバノン、ヨルダンは、シリア人難民の受け入れに尽力している。その規模はすでに合計480万人に達している。

一方、中東では多数の武装勢力が入り乱れて紛争を繰り返し、各国間の国境は閉鎖されてしまった。そのため、人びとは困難を極める生活を抜け出したり、戦闘に巻き込まれる危険を逃れたりすることができない。シリアと周辺国との国境も閉鎖され、患者が治療を受けるために安全な国へと脱出することさえできない状況だ。

無人地帯や劣悪な生活環境のキャンプに避難している人は数十万人にのぼるとみられる。その中には、国際社会からも人道援助からも完全に遮断されている人びとが含まれている。

MSFは周辺国に改めて、重度の傷病人だけでなく、難民条約で保護の対象となっている人びとに対しても国境通過を許可するように要望している。

欧州連合(EU)や国連安全保障理事会も見てみぬふりはできない。紛争と迫害から逃れてきた人びとに背を向けることはできないはずだ。彼らが援助や保護を受ける権利を尊重すること、それが根本だ。

日本に求められる国際貢献とは?

シリア内戦では、意図的か無差別かを問わず、医療施設、学校、市場といった一般人の生活の場が繰り返し爆撃・砲撃されている。これは許されない事態だ。攻撃している当事者が、民間人を巻き込まないような措置を一切取っていないことは明らかだ。

国際的な影響力の強い国が率先して、国際人道法の尊重や、2016年5月に国連安保理の全会一致で決議された内容を実行することに向け、さらに力を尽くすべきだ。特に、日本はこの決議の提案国の1つとなっている。確実に実行に移されるように、日本がさらなる役割を発揮することを求める。

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