ヨルダン:人生をよりよい方向に――MSFの再建外科がつなぐ希望

2017年03月06日掲載

耳の治療で入院しているイラン出身の子ども再建外科病院のカフェテリアで(2016年3月撮影) 耳の治療で入院しているイラン出身の子ども
再建外科病院のカフェテリアで(2016年3月撮影)

ヨルダンの首都アンマンで国境なき医師団(MSF)が運営している再建外科病院では、イラクパレスチナ・ガザ地区イエメンシリアからの患者を受け入れている。紛争で複雑な損傷を負った患者が中心だ。

プロジェクトの発端は2003年に起きたイラク戦争だった。戦時中から戦後の混乱期、紛争被害者を対象とした再建外科がイラク国内にないことが明らかになり、MSFが援助を始めたのだ。これまでに4500人以上を治療。手術件数はのべ約1万件に達する。患者の過半数にあたる2442人がイラクからだ。

患者の搬送については、MSFと連携して患者紹介を行うネットワークが構築されている。イラクの首都バグダッド在住のオマル・アラニ医師もその1人。2014年から連携を始め、現在は患者紹介の責任者を務めている彼に話を聞いた。

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治療にともなう諸費用も援助対象に

スマートフォンでゲームを楽しむシリア人とイラン人の患者たち(2016年3月撮影) スマートフォンでゲームを楽しむシリア人とイラン人の患者たち
(2016年3月撮影)

オマル医師はプロジェクトについて、「イラク戦争のあとも紛争が続いていることや、厳しい財政状況の影響から、膨大な再建外科ニーズが解消されないままとなっています。初期治療なら受けられるかもしれませんが、専門外科を受けることは難しいのです。MSFのプロジェクトでは、最初の手術をしてから6ヵ月以内に現れた合併症を対象としています。初期の救命処置では予想が難しく、容体の回復に深刻な影響を及ぼしている症例が対象です」と説明する。

MSF病院では、専門外科手術と理学療法や心理ケアなどを組み合わせた治療を提供している。患者は必要に応じて宿泊施設を利用できる。また、病院との往復にかかる交通費や、治療計画が長期にわたる場合の費用の援助も行っている。

医療ネットワークで患者を見つけ出す

バグダッドでは、オマル医師が率いるチームが再建外科ニーズの把握にあたっている。「市内で外科を扱っている9軒の病院と連絡をとりあっています。また、医師、地域保健局、MSFの事務所、他団体のネットワークなどを通じて、バグダッド以外の地域にも働きかけています」

再建外科治療が必要な患者は、爆弾、爆発、砲弾などで重傷を負った人びとだ。骨が砕けたケース、身体の大半に重度のやけどを負ったケース、両あごの重傷で食事や呼吸にさえ支障を来たしているケースもある。

また、身体機能の一部が失われているケースや、腕や脚の切除手術も多い。高度な再建外科手術が必要とされる症例が多く、完了まで何ヵ月から何年もかかる。そのため、患者の紹介基準は厳格で、再建外科手術によって身体機能の改善が見込まれる場合に限られている。また、"見た目"の美しさよりも機能回復が優先される。

ひざ上から切断、一時はひどく落ち込んだが――

松葉杖で歩けるまでに回復したムドゥハファルさん 松葉杖で歩けるまでに回復したムドゥハファルさん

ムドゥハファル・アブドゥルワヒド・カリーファさん(43歳)は、勤務先の建物が襲撃された際に3階から落ち、脚や腰を骨折したほか、背骨も負傷した。それから1年、受けた手術は7回におよんだが、骨折は完治しなかった。

「ひざ上から切断するように勧められました。脚の骨に感染症が起きていたからです。気持ちがどんどん落ち込んでいきました。MSFに紹介されて問診を受け、アンマンにあるMSF病院で治療を受けることになりました。4ヵ月以上かけて数回にわたり手術を受けました。また、感染症の治療を受け、それから徐々にリハビリを行いました。今では車イスがいらなくなり、松葉杖で歩くこともできるようになりました」

MSFのもとに運ばれてくる患者は、過去に何度か手術を受け、抗菌薬の投与も受けていることが多い。その処置で薬剤耐性ができてしまった患者の場合、感染症の拡大を抑えるために切除手術をしなければならなくなる。アンマンのMSF病院では、最新の抗菌薬を投与して感染症を抑え、四肢を温存できる可能性もある。

理学療法・心理ケアの活用も

手術が成功すると、患者は理学療法などの段階に移る。毎年、約2000回の理学療法セッションを行っている。また、患者の22%は心理ケアも受けている。心に深い傷を負っていることが多く、容体の回復やその後の人生に大きく影響する場合がある。深刻な苦悩とトラウマを体験している上に、重傷を負ったり家族を失ったりしたことで、人生が劇変してしまったからだ。

オマル医師の印象に強く残っている女性患者がいる。心理ケアが大きな変化をもたらしたケースだった。「妊婦でした。通りがかった路上で車爆弾の爆発に巻き込まれたのです。全身に重度のやけどを負い、赤ちゃんも助かりませんでした。運ばれて来たときにはうつ状態がひどく、離婚や自殺まで思い詰めていました。顔にもやけどを負っていたため、話すことも呼吸することも難しい状態でした。ただ、MSFのもとで数回にわたって手術を受けた結果、だいぶよくなっています」

現在、オマル医師のチームは活動拡大を計画している。目標は、クルド人自治区に常駐してニーズを調査し、専門外科治療を受けることで人生をよりよい方向に変えられる患者を1人でも多く増やすことだ。

「この活動に携わることができてうれしく思います。同じイラク人を助けられるのですから。ずっと車イスの生活だった患者さんがアンマンから帰国し、自分で歩いている姿を見る体験は本当にすばらしいんですよ」

MSFはイラクで2006年から活動を続けており、現在は900人以上が携わっている。イラクでは、活動の独立性を確保するためにいかなる政府、宗教団体、国際機関からも資金を受けず、個人寄付のみを財源としている。

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