病院を撃つな!:SNSの力で病院爆撃の真相に迫る

2017年02月16日掲載

爆撃で破壊されたマアラト・ヌマン病院(シリア、2016年2月18日撮影) 爆撃で破壊されたマアラト・ヌマン病院
(シリア、2016年2月18日撮影)

紛争地で医療施設への攻撃があるたびに、国境なき医師団(MSF)は当事者を強く非難し、再発防止の徹底と、独立した国際調査機関による真相究明を求めてきた。しかし、加害者が責任を否定・曲解・矮小(わいしょう)化し、「単なる過失」だと言い張った場合、民間団体であるMSFにはほかに、どのような対抗手段があるだろうか。

非難と真相究明の要求を続け、国際世論を動かすこと。現状では、ここに期待するしかないことが多い。ただ、時代は変わりつつある。一般市民が目の前で起きていることをスマートフォンなどで撮影し、SNSに投稿するケースが増えているのだ。そうした画像・動画を収集・分析すれば、国家の犯罪の真相究明と責任者の特定ができるのではないか。

イギリスの調査機関「フォレンシック・アーキテクチャー」がまさに、その取り組みを行っている。そこでMSFは、2016年2月15日にシリアで起きたマアラト・ヌマン病院(MSFの支援先)の爆撃に関する分析を依頼した。その結果は……(実際の動画も掲載しています)

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加害者を非難するぐらいしかできなかったが……

MSFが運営していたクンドゥーズ外傷センター
(アフガニスタン、2015年10月3日撮影)
MSFが運営していたクンドゥーズ外傷センター
(アフガニスタン、2015年10月3日撮影)

MSFが世界各地で運営・支援する医療施設のうち、2015年以降、約100ヵ所もの施設が爆撃されている。大半はシリアで、イエメン、アフガニスタン、ウクライナ、スーダンがこれに続く。

爆撃を実行した相手に"正義と賠償"を求めつつ、紛争下であっても民生施設が保護されるという一定の確信をもって援助活動を続ける。そのためには、各事例の真相究明と責任者の特定が重要だ。

MSFが責任者に対しできることはごく少ない。当事者の出身国で提訴すること。それ以外の方法としては、国際事実調査委員会(IHFFC)による第三者的立場からの調査を要請すること

IHFFCは国際人道法侵害の調査を専門とする唯一の国際機関だ。調査に先立ち、当事者に調査することへの同意を求めることになっている。アフガニスタンで2015年10月3日に起きたクンドゥーズ外傷センターへの爆撃について、IHFFCは当事者の米国に調査への同意を求めたが、米国はこれに応じなかった。

残された現実的な対応策は、加害者を公に非難することぐらいだ。それによって加害者のイメージが悪化し、行動様式の変化につながることを期待するしかない。

"証拠"となる画像・動画がきっとある

しかし、今は一般市民が膨大な画像や動画をSNSに投稿している時代だ。その中には、「現場」の再現に役立つものがある。フォレンシック・アーキテクチャーは、そうした画像・動画を収集し、地図作製、映像分析、法律、建築の専門知識を活かして分析し、国家の犯した罪の真相究明と責任者の特定を行っている。そこで、MSFはこの機関に、シリアのイドリブ県で起きたマアラト・ヌマン病院爆撃事件の調査を依頼した。

マアラト・ヌマン病院はMSFが支援している病院だ。2016年2月15日、ロケット弾で爆撃され、MSFスタッフ1人を含む25人が命を奪われた。負傷者も11人に上った。その時の患者が搬送された病院も、マアラト・ヌマン病院に続いて同じ日に攻撃されている。

ロシア・シリアへの責任追及の根拠は?

MSFフランス会長のメゴ・テルジアン医師 MSFフランス会長のメゴ・テルジアン医師

この事態を受け、MSFフランス会長のメゴ・テルジアン医師はロシア・シリア連合軍の責任を厳しく指摘した。

その根拠としたのが、当時の状況と爆撃の背景、現地に展開していた軍事勢力、現場にいた人びと(MSFと交流のあった人びとを含む)による証言のそれぞれの分析結果

テルジアン医師の指摘に対し、ロシア・シリア両政府はこれを否定し、強く反発した。「MSFはスパイだ」との中傷まで行い、MSFはこれを退けた。

その一方、MSF内部では白熱した議論が起きていた。MSFフランスはなぜロシアとシリアを糾弾したのか?その根拠として用いられている目撃証言の信頼性は?

市民の目はごまかせない

フォレンシック・アーキテクチャーは、マアラト・ヌマン病院爆撃の現場で、医療スタッフ、援助スタッフ、一般市民が撮影し、SNSに投稿していた画像や動画を集め、その信ぴょう性を判定した上で、爆撃の真相究明に有効なものを選び出して調査を行った。

その結果は、シリア・ロシア連合軍に責任があるとの確信をさらに強める結果となった。基地から飛び立ったロシア軍機とシリア軍機の目撃例は時間と場所が爆撃のタイミングと合っていた。中でも、戦闘機の1機を撮影した動画を精査したところ、シリア国内では政府軍しか採用していないMiG-23戦闘機に類似していることがわかったのだ。

これだけでは確定的な証拠とまでは言えない。調査は今後も継続し、同じ場所を短い間隔で繰り返し爆撃する「ダブル・タップ」や「トリプル・タップ」が起きている事実の確認も進める。この爆撃方法により、現場へ救助に向かった人びとが2度目、3度目の爆撃に遭う悲劇が報告されている。シリアで民間人や援助団体への容赦ない迫害が繰り返されていることを明らかにするものとなるだろう。

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