エボラ出血熱:元患者向けの治療プログラムを終了へ――一般診療の拡充に注力

2016年10月25日掲載

MSFスタッフから健康情報について聞くタクシー運転手たち(ギニア) MSFスタッフから健康情報について聞くタクシー運転手たち
(ギニア)

エボラ出血熱ギニアリベリアシエラレオネを中心に大流行した2014年から2年以上が経ち、国境なき医師団(MSF)は、現地で続けてきた元患者向けの治療プログラムを終了し、行政や地元の団体へ引き継ぐ作業に入った。

一方で、エボラ流行で中断に追い込まれていた一般診療の拡充、疫学的な監視体制の確立、感染制御策の策定などの援助を続けている。また、西アフリカ地域内に非常用物資を備蓄し、エボラやその他の病気が流行した際に、迅速に対応できる態勢を整えている。

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「患者と家族にとっては地獄」――エボラ流行時を振り返る

エボラ感染の疑いでMSFのエボラ治療センターに入院する子ども(リベリア、2014年10月撮影) エボラ感染の疑いでMSFのエボラ治療センターに
入院する子ども(リベリア、2014年10月撮影)

西アフリカ各地のエボラ流行で感染した患者は2万8700人。そのうち1万1300人以上が亡くなった。家族が引き裂かれ、地域社会も大打撃を受けて、学校閉鎖、経済活動の停止、医療体制の崩壊が起き、さらに多くの人命が失われる事態となった。国際社会の対応が非常に遅かったため、犠牲者数はさらに増えた。

MSFオペレーション・ディレクターのブリス・デ・ル・ヴィンヌは「西アフリカへ派遣されたMSFスタッフにも深い傷跡を残しました。西アフリカ出身のスタッフが受けた影響はさらに大きいものでした」と話す。地元出身のスタッフはエボラ感染の脅威に直面しながら家庭生活を営む一方で、職場ではエボラ患者の対応にあたっていたからだ。しかし、それ以上に「患者と家族にとっては、地獄と形容しても余りある惨状でした」と振り返る。

回復後にも続く心身の症状

MSFの検診で視力検査を受ける元患者(シエラレオネ、2015年11月撮影) MSFの検診で視力検査を受ける元患者
(シエラレオネ、2015年11月撮影)

エボラから回復しても"闘い"は終わらなかった。元患者の多くが、回復後も内科的・心理的な症状を訴えている。その一方で、エボラがこれほど大規模に流行したことがなかったため、生活再建に何が必要か、ほとんど知られていなかった。

流行が沈静化するにつれ、元患者と家族の援助ニーズが明らかになってきた。リベリアでMSFの活動責任者を務めるペトラ・ベッカーは「元患者の大半が関節痛や神経系・眼科系の症状を経験しています。また、患者だけでなく家族や友人たちも、死に直面したことによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつなどの心理的な症状を訴えています」と話す。

MSFはエボラのギニア、リベリア、シエラレオネの3ヵ国に元患者向けのサポート・クリニックを設置した。リベリアの首都モンロビアでは、2015年1月の開院から2016年8月に活動を終了するまでに1500件以上の診療を提供した。

2軒目はギニアの首都コナクリに開設し、コヤ地区とフォレカリア地区で元患者330人と家族・親類350人以上のケアにあたった。3軒目はシエラレオネの首都フリータウンで、元患者400人以上と家族に内科・心理ケアを提供した。心理ケアセッションは計で450件以上に上った。

シエラレオネでMSFの活動責任者を務めるジャコブ・メケルは、時間が経つにつれ、人びとの心身症状は徐々に和らいでいると感じている。「でも塩素の臭いをかぐとエボラ治療センターの恐怖がよみがえって、すごく気持ちが乱れるという元患者が多くいます」

元患者を追い詰める差別と偏見

エボラの元患者を支える地元団体のメンバー(ギニア) エボラの元患者を支える地元団体のメンバー
(ギニア)

退院して帰宅した元患者と家族を待っていたのは"偏見"だった。MSFは行政や他団体と協力し、流行地域で健康教育などを実施。偏見と差別の解消を図った。例えばギニアでは、MSFは合計1万8300人にグループと個人の心理ケアセッションを開催した。

流行が続く中でエボラの認知度は向上した。情報発信キャンペーンも繰り返された。それにも関わらず、現在でも根強い偏見が残り、元患者と家族にとって大きな問題となっている。「差別の形態はさまざまです。仕事や伴侶を失ったり、家族や地域社会に拒絶されたり……。差別は元患者にとって大変な不安定要素となっています」

流行地域の医療従事者は、エボラ対応のために多くの犠牲を払った。命を落とした人も多い。元患者も数え切れないほどの死を目にしたことで、エボラがまん延するにつれて、自身も感染するかもしれないという恐怖に襲われ続けた。

ギニアでMSFの活動責任者を務めるイブラヒム・ディアロは「医療従事者は多くの市民をエボラから救いました。一方で、世間の恐怖心があまりに強かったため、エボラに感染しているのではないかと疑いの目を向けられたり、差別にあったりする人も多くいました」と話す。

エボラ対策から一般診療の拡充へ

生活再建を目指してスイカ畑を耕す人びと(ギニア) 生活再建を目指してスイカ畑を耕す人びと
(ギニア)

こうした事態を乗り越え、2016年9月下旬には、ギニアとシエラレオネの内科・心理ケアプログラムの終了にこぎつけた。リベリアでも年内の活動終了を予定している。元患者が訴えていた目や関節の症状の大半は治療を終えた。心理ケアを受けている人は国や他団体のプログラムでケアを続けられるように手配した。

一方、MSFは引き続き、ギニア、リベリア、シエラレオネでの医療・人道援助を拡充していく。MSFの医療政策アドバイザー、ミット・フィリップスは「3ヵ国では、感染制御策や疫学的な監視体制の確立が必須です。症例の早期発見に努め、基礎的な緊急対応計画を策定することで、エボラをはじめとした病気の流行に迅速に対応できるようになります。各国はエボラ流行で中断していた一般診療についても、遅れを取り戻す計画も策定する必要があります。HIVや結核の治療、予防接種などがこれにあたります」と指摘する。

MSFはリベリアのモンロビアに小児科専門のバーンズビル・ジャンクション病院を開院した。2016年1月から8月にかけて、すでに3280件以上の救急診療を提供。入院治療は880人に上る。その大半はマラリア患者だった。一方、新生児科では赤ちゃん512人のケアにあたった。

ギニアのコナクリではHIV患者の治療を続ける。シエラレオネのトンコリリとコイナドゥグでは母子保健・産科医療を続ける。さらに、は西アフリカ地域内に非常時用物資を備蓄し、エボラや他の病気が流行する恐れが生じた場合は、医療チームが迅速に対応できるようにしている。

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