「病院攻撃を止められないのは、政治的意志の欠落が原因」――MSF、国連安保理で訴え

2016年09月29日掲載

国連安保理の会合で演説するMSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長 国連安保理の会合で演説する
MSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長

2016年9月28日、国連安全保障理事会は会合を開き、安保理決議第2286号(※)を行動に移す上での国連事務総長からの提言を確認した。国境なき医師団(MSF)は同会合に招かれ、国連事務総長提言は意義があり実用的であるが、その実施には各国の政治的意思が必要であり、それなくては何も変わることはないと訴えた。また、各国がこの提言を支持し、直ちに医療施設・人員への攻撃の停止、攻撃に対して独立した調査を実施するメカニズムの確立等を履行していくことを求めた。

  • 2016年5月3日に採択された安保理決議。紛争下での病院攻撃を強く非難し、医療・人道援助活動の安全確保を全ての紛争当事者に要求する決議で、全会一致で採択された。決議作成には、日本も提案5ヵ国のひとつとして加わっている。

MSF日本は、「病院を撃つな!」キャンペーンを展開し、医療施設に対する攻撃についての理解促進を図っている。またその一環として、オンライン署名活動を実施し、日本政府があらゆる影響力を行使して、本決議案を具体的な行動に結びつけるよう求める陳情への賛同を求めている。

国連安保理会合におけるMSFインターナショナル会長 ジョアンヌ・リュー医師の演説

先週、国連とシリア赤新月社の人道支援の車列、ならびにアレッポ近郊の病院が相次いで残忍な攻撃を受けたことが世界に報じられました。

国連の潘基文事務総長は、「これ以上悪くなりようがないと思われたまさにその時、事態は一段と悪化した」と話しました。

まったくその通りです。

現代の戦争行為には制限というものがありません。奈落の底に突き進む競争のようです。ここ数日間、ロシアとシリア軍は絶え間なくアレッポを攻撃しています。 証言によると、避難したくても経路はなく、遺体は埋葬されることなく放置されているそうです。

今年5月3日、国連安保理は安保理決議第2286号を全会一致で採択しました。ここにお集まりの理事国代表各位は、民間人とその生存に必要な医療を保護すると誓約したのです。

皆様は、シリア政府とその同盟軍がアレッポにあるアルクッズ病院を破壊したまさにその時に、決議を採択されました。しかし今や数々の同様の攻撃の最新事例となったに過ぎません。

それから5ヵ月、この決議は紛争地に何の変化ももたらしませんでした。

決議が実行されないこの事態は、連合国として戦闘に加わっている国連加盟国や、それを支持する国々に、政治的意志を欠けていることを示しています。

待つだけの時間は過ぎました。

皆様の誓約を実行に移してください。

この決議の採択後、病院への恐ろしい攻撃を受けたのは、MSFだけです。

イエメン北西部ハッジャ県のアブス病院。8月15日午後の空爆で19人が命を落とした イエメン北西部ハッジャ県のアブス病院。
8月15日午後の空爆で19人が命を落とした

8月中旬、イエメン・ハッジャ県にあるMSFが支援するアブス病院はサウジ主導の連合軍による空爆を受けて破壊されました。患者と医療従事者を含めて19人が犠牲となりました。

この、完全に機能していた病院の所在地を示すGPS座標は、サウジ軍をはじめとしたすべての紛争当事者と共有されていました。

しかしそのようなことはお構いなしに無差別攻撃を受けたのです。

この攻撃は、過去1年、イエメンでMSFの施設が受けた4度目の攻撃でした。1年間で合計32人が命を落とし、51人が負傷、MSFはイエメン北部からの撤退という苦渋の決断をしました。最低限の治療だけ継続する形で多くの患者を残すこととなりましたが、それもサウジによる絨毯爆撃を受けてさらにわずかになりました。この戦争は、サウジ主導の連合軍とその反対勢力が、いい加減極まる交戦規定に基づいて戦っているという点で、他に類をみないものとなっています。

こうした攻撃の多くが戦争のどさくさにまぎれて行われた「過失」として片付けられています。

私たちは、「過失」という言葉を受け入れません。

シリアでは、攻撃が止むことはありません。アレッポの医師たちは最も弱った患者から人工呼吸器を外して、他の人に生き延びるチャンスを回すところまできています。人工呼吸器はそもそも最も弱い患者のために作られたものであるにもかかわらずです。これは死に物狂いで行われる、普通では耐えられないような医療行為です。

包囲下にあっても、私たちのシリア人の仲間は、現地に留まる構えです。彼らは「患者とともにここで死ぬ」と言っています。「その時が来たら」と……。

私たちは、統制なき戦闘が繰り返される事態を非難します。誰もが選べる選択肢なのですから。狂気の中にも方法はあるはずです。

イエメンとシリアの両方で、常任理事国5ヵ国のうち4ヵ国がこれらの攻撃に関与しています。

「対テロ」思想が戦争を形作る時代で、殺人許可証が発行されているのです。

私たちはここに、再び皆様に呼びかけます。この許可証を無効にしてください。

あなたがたの敵が病院にいる限り治療を受けているかどうかに関わらず、許可証は無効にしてください。

医療の公平性を放棄してしまう傾向は、戦争の新たな規範になりつつあるからです。軍事行動と人道ニーズの間でバランスをとることがどうしても必要です。

病院と医療従事者への攻撃は、交渉の余地のない、越えてはならない一線です。従って、このことは単純明快な言葉で規定する必要があります。軍事行動のマニュアルでも、交戦規定でも標準の運用手順書でも。

多くの確証のない機密情報や不透明な主張が、病院を「軍事指令部」だと証言し、攻撃を正当化する根拠としています。

これを止めるためには、説明責任が担保されなくてはなりません。信頼に値する調査の実施が必要です。加害者による調査では不十分なのです。

クンドゥーズの病院に空爆が開始された当時手術室には外科医、麻酔科医、患者がいた クンドゥーズの病院に空爆が開始された当時
手術室には外科医、麻酔科医、患者がいた

私がお話ししている現在、米軍がアフガニスタン・クンドゥーズにあったMSF病院を破壊して1年が経とうとしています。私たちは今も独立した調査を求めています。どのようにして42人の患者、病院職員と介助者を殺害するにいたったのか。みな治療を受けるか行うかしていたのにすぎなかったというのに。

私たちはみなさまに対し、すぐに国連事務総長の提言を承認、実行するようお願いします。特に、独立した、有力な調査をじっするメカニズムの確立を呼びかけます。

また、国連事務総長に対し、次のように至急要請いたします。医療施設、医療従事者、患者に対する攻撃を調査する任務を果たす特別代表を任命してください。

違法行為を犯しても罰を受けずにすむ事態は終らせなければなりません。政治的圧力と説明責任だけが、実現できるはずです。

つまりは、皆様の決議を実行に移してほしいのです。

病院への爆撃をやめてください。

医療従事者への爆撃をやめてください。

患者への爆撃をやめてください。

関連情報