バルカン諸国:国境閉鎖で保護希望者への暴力が急増

2016年07月26日掲載

一時滞在場所で足止めされている人びとが共同で利用している給水場 一時滞在場所で足止めされている人びとが
共同で利用している給水場

欧州南部のバルカン半島に位置するクロアチア、マケドニア、スロベニアの各国が、保護を求めて欧州北部を目指す難民・移民の領内通過を全面的に遮断した結果、足止めされた人びとへの暴力が急増している。

国境なき医師団(MSF)がセルビアとハンガリーの国境地帯で行っている医療・人道援助活動の中で、心的外傷の診療件数は国境が封鎖された2016年3月9日以降増え続け、4月~6月の平均件数が3月の2倍に達した。中には、密入国業者に頼んで危険な経路から最終目的地を目指す人もいる。

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暴力・虐待を防止せよ!

クロアチア、マケドニア、スロベニアを経由して北上する経路は「バルカン・ルート」と呼ばれ、欧州へ避難してきた人びとにとって、安全な生活と保護を得るための数少ない道の1つだった。欧州首脳の一部は国境封鎖によってバルカン・ルートの問題が解消されたと主張するが、人道状況は依然として深刻だ。

セルビアとハンガリーの国境地帯にも大勢の保護希望者が一時滞在している。MSFのセルビアでの活動責任者を務めるサイモン・バロウズは「この数ヵ月で、暴力や虐待で負傷した患者が増えています。多くの人は、ハンガリー当局にやられたそうです。MSFはこうした過剰な実力行使を強く非難します。ハンガリー政府は、暴力や虐待を防止するための行動を起こすべきです」と訴える。

保護希望者が"犯罪者"のように……

保護希望者たちの仮設住居用テント 夏の強い日差しに照りつけられている 保護希望者たちの仮設住居用テント
夏の強い日差しに照りつけられている

保護希望者がEUでの保護を申請しても、ハンガリーでは承認される可能性が著しく狭まっている。7月上旬には国境警備を領域内8kmまで拡大させる政策を発表した。保護希望者をセルビアへ押し戻すことを実質的に認めたようなものだ。その結果、人びとは過酷な環境で移動の機会を待つか、危険な密入国ルートでさらなる暴力と虐待に身をさらすか、深いジレンマに陥っている。

MSFが4月以降に受けた心理ケア相談は510件。相談者のうち188人が、密入国業者や警察からの暴力、拷問、監禁、拉致、性暴力など心に傷を残す体験を訴えた。こうした心的外傷に関する相談は4~6月の期間平均で診療全体の1割を占めた。これは、バルカン・ルートの障壁が低かった年初と比べると大幅な増加だ。

188人の中には子どもや女性も含まれている。ハンガリー領内で制服を着た人物から暴力を受けたという人が65%、強盗・密入国業者・他の保護希望者などからの暴力を受けたという人が35%だった。

バロウズは「ハンガリーの国境警備の拡大策が、暴力の助長に結びつくのではないかと非常に心配です。保護希望者が犯罪者のように扱われる事例が増えているのです」と話す。

うつ症状やPTSDの訴えも

また、ハンガリー・セルビア国境地帯の一時滞在場所の環境は、人間の生活とは思えないほど劣悪だ。家族の居住には不向きなテント、清潔な水の不足、シャワーの不足、基本的な公共サービスの欠如など、MSFがセルビア当局に改善を呼びかけてきたにもかかわらず、事態は変わっていない。

こうした現状は心身の健康に直接影響を与えている。抑うつ状態、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害などがその一例だ。

MSFの患者のうち抑うつ状態との診断を受けた人の割合は、2015年10月の26.7%に対し、2016年3月以降は31.2%まで増加した。同様に、PTSDの人は14.0 %から15.9%に、不安障害の人は3.8%から6.6%に増加した。

劣悪な生活環境が原因とみられる病気も増えている。MSFの診療件数の半数以上は、上気道感染症、胃の不調・消化器疾患、皮膚病の治療だ。

安全な移動経路と滞在環境の改善を

保護希望者のバルカン・ルート通過はEUの政策でつぶされた。欧州各国の政府は、彼らのニーズに応えないだけでなく、困窮状態にある彼らの福利を打ち砕くような政策を推進している

MSFは、保護希望者に安全で合法な経路を用意するよう、改めて欧州首脳に要請する。セルビア・ハンガリー国境の抑圧的な政策を見直し、一時滞在施設の人びとの環境は直ちに改善されなければならない。

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