ブルンジ:“裏庭に隠された病気”――産科フィスチュラをなくすために

2011年03月07日掲載

フランスで産科フィスチュラの手術が最後に行われたのは1957年であり、以降、西欧諸国ではこの病気はほぼ姿を消している。しかし、人びとが専門的な医療を十分に受けられない状況にある国々では、多くの女性がいまもフィスチュラに苦しんでいる。妊産婦死亡率が世界で最も高い国の1つであるブルンジでは、毎年数百件に上るフィスチュラの症例がみられるため、国境なき医師団(MSF)は2010年7月にフィスチュラの手術を行うためのセンターを開設した。

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難産が引き起こす産科フィスチュラ

2010年7月、フィスチュラ専門の治療施設、ウルムリ・センターが開設。 2010年7月、フィスチュラ専門の治療施設、
ウルムリ・センターが開設。

首都ブジュンブラから車で2時間離れたブルンジ中部の町ギテガにある地方病院は、標高1850mの丘陵地帯に建っている。MSFはここに、ブルンジ保健省の支援を受けて産科フィスチュラの治療センターを建設し、現地のキルンジ語で「暗闇を追い払う光」を意味する「ウルムリ」という名前をつけた。この病気は現在も、サハラ以南のアフリカ諸国の女性たちを苦しめているが、その主な理由は、妊婦に対する専門医療が不足していることにある。

フィスチュラの専門家であるMSFの外科医、ヘールト・モレンは次のように説明する。
「妊婦が専門医療を十分に受けられないと、出産時の閉塞性分娩によって、母親や胎児の命が失われる確率が高くなります。母親の命がなんとか助かっても、分娩の過程で体内の組織の壊死が起こり、膀胱(ぼうこう)と膣(ちつ)の間、直腸と膣の間、または尿管と膣の間に異常な穴(ろう孔)が開いてしまう可能性があります。これが産科フィスチュラです」

この裂傷によって尿や便の失禁という障害が残り、その結果フィスチュラを患う女性の多くが社会から疎外されてしまう。

“裏庭”に追いやられる女性たち

23歳のヴィオレッタは言う。
「私はお産のときに子どもを失いました。またそれが原因でフィスチュラを患い、常に失禁するようになりました。夫はそれに耐えられずに私と3歳の息子を家から追い出し、その後まもなく、同じ村の娘と結婚しました」

8人の子どもを持つ32歳のパスカジーも自分の体験を語る。
「私は末の子のお産のときにフィスチュラを患いました。すると夫は異臭がするといって私を隔離しました。村を歩くと近所の人たちが私の目の前で鼻を覆い、私が通り過ぎると笑い声が起こりました」

こうした例は、フィスチュラが“裏庭に隠された病気”という名で呼ばれるブルンジでは珍しいものではない。この呼び名からも、フィスチュラに苦しむ女性たちがどのように暮らしているかがうかがえる。失禁に悩まされてひっそりと身を隠し、運命をあきらめて沈黙したまま苦しんでいるのだ。

「女性の村」で希望を見出す

ウルムリ・センターの入院病棟。 ウルムリ・センターの入院病棟。

42歳のペラジーは語る。
「私は“それ”とともに暮らして12年になり、もう決して治らないのだろうと思っていました。ある日、フィスチュラの手術を受けられると聞いたブジュンブラの病院へ行ってみましたが、手術費用はとても高額でした。その後まもなく夫が亡くなり、手術費用のあてが全くなくなりました。未亡人となっては、どうしようもなかったのです」

しかし現在、ペラジーは新たな希望を見出した。
「子どもたちがラジオで、MSFがギテガ病院にこの病気を無償で治療するセンターを最近開設したというニュースを聞いたのです。家族や隣人が支援してくれて、旅費を集めることができ、その病院に行きました」

ペラジーはこうしてウルムリ・センターにたどり着き、パスカジーやヴィオレッタをはじめ、フィスチュラに苦しむほかの多くの女性たちに出会った。ここはブルンジで初めてのフィスチュラ専門センターであり、一年中治療を受けられる。患者はMSFがギテガ病院の敷地内に建設した4棟の建物に滞在する。ベッド数は58床で、台所、洗濯場、トイレ、さまざまな活動を行うための棟など、手術前後に患者が快適に過ごすための施設が完備している。この「女性の村」のすぐ近くに手術室があり、2010年7月にセンターが開設されてからフル回転の状態が続いている。

MSFのブルンジにおける活動責任者、シャンタル・デュールは言う。
「3年間にわたって、毎年350人の患者の手術を行うことを目標にしています。また、この期間に、ブルンジ人医師3人をフィスチュラ手術の専門家として養成できると考えています」

患者数150万人――フィスチュラは根絶できる

「女性の村」で数日を過ごした彼女たちには、新しい人生が待っている。 「女性の村」で数日を過ごした彼女たちには、
新しい人生が待っている。

ブルンジ保健省は、2010年3月からフィスチュラの治療を無料にすると発表した。現在、ブルンジには1万人のフィスチュラ患者がいると推定され、アフリカ全体ではおよそ150万人に達するとみられている。

しかしウルムリ・センターの開設以来、患者の手術を担当してきたモレン医師は楽観的である。
「産科フィスチュラは、ハイリスク妊娠の検査、医療スタッフの養成、そして医療インフラに投資すれば完全に避けられる病気です。現在ヨーロッパでこの病気がほぼみられなくなった主な理由は、閉塞性分娩の場合には良好な衛生条件の下で帝王切開が行われていることです」

したがって、産科フィスチュラを根絶するためには、質の高い帝王切開など産科救急医療の普及が不可欠である。さらにモレン医師は、必要な医療が受けられない人びとのためには、手術以外の治療法もあり得ると考えている。その場合の条件は、分娩から6週間以内の、フィスチュラの穴がまだ大きくなっていない時期に治療を行うことだ。

「現在、私たちは研究の一環として、膀胱にプローブ(探針)を挿入してフィスチュラが自然に閉じるようにする方法で、こうした初期のフィスチュラの治療を行っています。この試みが成功すれば、今後の治療にとって非常に喜ばしいニュースになります」

実際、この技術は外科処置を必要としないので、患者は大きな地方病院まで行かなくても診療所ですぐに治療を受けることができるうえ、費用も手術に比べてはるかに低く抑えられる。

モレン医師は次のように締めくくった。
「新しい治療法がうまくいったら、この丘陵地帯の全域で行えるように技術を広めたいと思います。そうなれば、女性たちを苦しみや恥から解放し、再び社会の一員に戻すことができるのです」

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