世界エイズデー:「Life Beyond HIV」――ラップとアートで伝えるHIVとの付き合い方

2015年11月30日掲載

12月1日は世界エイズデーです。

国境なき医師団(MSF)は世界各地で、より多くの人にHIV治療を届ける活動を行っています。国連エイズ合同計画(UNAIDS)によると、抗レトロウイルス薬(ARV)治療を受けている患者は2015年6月時点で1580万人となり、2014年時点から220万人増えました。HIV陽性者のほぼ半数が治療を受けられている計算です。

一方、中央アフリカ共和国チャドコンゴ民主共和国南スーダンなど一部の国では、治療を受けられている人は25%未満にとどまっています。財政難、陽性者の家計の事情、公的医療の未発達、根強い偏見などさまざまな要因が治療の普及をさまたげています。

UNAIDSの主導で国際社会はいま、2020年までに陽性者の90%がそれを自覚し、そのうち90%が治療を受け、さらにその90%はHIVウイルスが検出できないぐらいに低い値となる目標を掲げています。実現すると、90%×90%×90%=72.9%の陽性者が自身の健康を保ち、他者へ感染させるリスクもほぼない生活を送れることになります。

MSFもこの目標達成に協力し、世界各地の活動地でHIV陽性者への治療や健康教育を行っています。その1つ、南アフリカ共和国でラップ・ミュージックとアートで予防と検査を呼びかけている活動をご紹介します。

なぜHIV/エイズはなくならないのか

HIVの治療・予防を呼びかけるムボボさん HIVの治療・予防を呼びかけるムボボさん

想像してみてください。あなたはHIVに感染しています。そのことを周囲には隠しています。でも、統計からはあなたと同じ"秘密"を抱えている人や、誰かの"秘密"を知っている人がたくさんいることがわかっています。それでも、あなたは誰に打ち明けていいかわからず、ひた隠しにして生活しています。

もしあなたが毎月診療所に通ったり、毎日錠剤を飲んでいたりすると周囲の人はやがて気づくでしょう。心ない人は陰でうわさするかもしれません。「あいつはエイズだ」

HIVが感染者の命を奪うまでには10年以上かかります。しかし、根強い偏見によって"さらし者"になってしまうのはあっという間。だからあなたは"秘密"を守り、検査さえも受けようとしない。「社会から消されてしまうかもしれない」との不安から、治療で救える命を犠牲にしてしまうのです。これでよいのでしょうか?

「HIVは死にたい人間を死なせる病気」

「HIVは死にたい人間を死なせる病気」。南アフリカ共和国のケープタウン市カエリチャ地区に暮らし、本記事の動画にも登場するセンビサ・ムボボさんの実感です。15年前、この地区のHIV陽性者の多くが抗レトロウイルス薬(ARV)治療を受けられないまま亡くなっていました。現在は、良質なARV治療を無償で利用できる体制が整っています。それなのに、いまなお多くの陽性者が亡くなっているのです。

今日のHIV/エイズの治療体制が普及していれば、エイズを発症して亡くなる人どころか、HIV感染を広げる人すらいなくなっていてもいいはずです。HIV陽性者が治療を忠実に生涯続けていくことで、性交渉での感染や母子感染のリスクはほぼゼロになるのですから。

それにもかかわらず、南アフリカ共和国では年間14万人がエイズを発症して亡くなり、40万人以上が新たに感染しています。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?この国では、新規感染は若い女性たちに多くみられます。15~29歳の男女の25%が新たに感染しているとの統計もあります。

それでも人生は続く

HIVとの闘いを加速させるべきだ――専門家は口をそろえます。ただ、それはオフィスで作成された数理モデルや理論上の計画では実現できません。HIV感染を"秘密"にしてしまう根強い偏見を打破し、言うは易く行うは難いスローガン「コンドームをしよう!検査を受けよう!ARVを飲もう!」を掲げ、HIV陽性者が互いに励ましあえる環境を実現しなければならないのです。

HIVに感染しても人生は続きます。治療を受けることで、感染前と変わらない生活を送ることができます。検査も受けないまま不安をひた隠しにする日々は終わりにしましょう。生きることを選び、そのために治療することを選びましょう。

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