バングラデシュ: カラアザールの根絶が見えてきた――MSFの研究が大詰め

2015年10月27日掲載

MSFスタッフからカラアザールやPKDLの説明を受ける住民たち MSFスタッフからカラアザールやPKDLの説明を受ける住民たち

世界76ヵ国で風土病となっているカラアザール(内臓リーシュマニア症)。寄生虫が引き起こす病気だ。内臓疾患や免疫系の不全などの症状が出て、治療しなければ命を落とす。国境なき医師団(MSF)は世界各地の流行地域で治療を提供してきた。その1つがバングラデシュだ。

MSFはこの国で、カラアザールの治療に加え、回復者の10~15%が発症する免疫反応「カラアザール後皮膚リーシュマニア症(PKDL)」の治療と研究も行ってきた。その研究がついに完了する日が近づいてきた。バングラデシュはカラアザールの根絶に向けて国を挙げて取り組んでおり、その対策がMSFの研究で大幅に前進する可能性がある。

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免疫不全を起こす恐ろしい病気

カラアザールを克服したテフミナさん一家 カラアザールを克服したテフミナさん一家

テフミナさん(17歳)はバングラデシュ北部、マイメンシン県の出身。県内のカラアザール症例数は、国内全体の70%を占める。テフミナさんの家族も何年もの間、カラアザールにさいなまれてきた。父親、兄弟姉妹のうち4人、そしてテフミナさん本人。しかし、彼女の笑顔は自信に満ちている。一家は今、明るい未来に目を向けている。

ほんの5年前までは、住民の多くがカラアザール感染のつらい体験を語っていた。一部の住民は大切な人をこの病気で亡くした。それ以降、バングラデシュ当局はMSFなどの医療援助団体との連携を進め、事態の把握に努めてきた。

カラアザールはサシチョウバエが媒介する。この昆虫に刺されることで、人から人へと感染するのだ。一般的な症状は持続的な発熱、体重減少、だるさ、貧血、脾臓(ひぞう)肥大などと症状が進行する。最長10ヵ月ほどで人体のさまざまな部分に少しずつ影響を及ぼし、やがて免疫系に障害を起こす。

回復後の新症状に悩まされる

MSF診療所があるフルバリアの町 MSF診療所があるフルバリアの町

テフミナさんたちの闘病は長く困難な道のりだった。やっと回復したと思ったら、今度は彼女や姉妹の皮膚に斑点が現れた。これがPKDLで、回復した患者の10~15%が示す免疫反応だ。斑点は無害だが、その中にはカラアザールの寄生原虫がひそんでいる。サシチョウバエがその斑点を刺すと、寄生原虫がサシチョウバエの体内に移動する。その個体が別の人を刺し、感染が広がっていく。つまり、PKDLはカラアザール流行の原因の1つなのだ。

MSFは2014年、カラアザールの元患者たちにPKDLの危険性を知らせた。闘病生活で苦しんだ彼らは速やかな治療を希望した。

現行のPKDL治療はつらい副作用を伴い、長期にわたる。その結果、大勢の患者が挫折している。一方、テフミナさん一家はMSFの研究プログラムの被験者となり、よりよい治療の確立に一役買うことにした。

短期間・効果的な新治療法

フルバリアのMSF診療所内にある研究室 フルバリアのMSF診療所内にある研究室

治療を短期化するためのこのプログラムは2014年4月、フバリアの町のMSF診療所で始まった。主任研究員を務めたアシシュ・クマル・ダス医師は「患者の80%に大幅な改善が見られました。新治療法は従来よりも短期間かつ効果的で、副作用も比較的少なく、患者の負担もかなり軽減されています。大きな希望を持っています」と話す。

テフミナさんの言葉もその効果を裏付けている。「これまでの治療では、食欲がなくなったり、だるさを感じたりしていました。また、姉妹も目まい、頭痛、首の痛みを訴えていました。でも、今回の治療はよい感じで、ずいぶん回復しました」。MSFは10月中に本プログラムの被験患者276人全員の経過観察を終え、結論をまとめる予定だ。

地域の医師たちがMSFの研究を学ぶ

クマル医師の研修を受ける地元の医師たち クマル医師の研修を受ける地元の医師たち

フルバリアでは、MSFは2010年に診療所を開設した。一般的なカラアザールの治療が目的だった。以来、計3500件以上のカラアザールまたはPKDL症例に対応。バングラデシュ政府の対策を支援し、治療プロトコルの策定も後押ししている。

クマル医師は「2010年に比べると症例はかなり少なくなっています」と話す。世界保健機関(WHO)が"根絶"の目安として示している「人口1万人あたり患者1人以下」も目前だ。マイメンシン県下では大半の地域で"根絶"し、残るは2郡だけとなった。ただ、再流行を避けるための監視は今後も必要だ。

MSFの調査研究が終わり、診療所には患者に代わって医師たちが足を運ぶようになった。彼らの目的は、カラアザールとPKDLの症状の鑑別方法を学び、MSFの患者を引き継いで県内の医療施設で治療することだ。

明るい未来に向かって

一方、MSFは、フルバリアでのPKDL治療活動を地元に移管したのちも、引き続き状況を注視していく。首都ダッカとクトゥパロンでカラアザールとは別の医療プログラムを運営しているため、ダッカの調整事務所は今後も存続する。そのため、マイメンシン県やその他の場所で再び集団感染が見られた場合は即応できる体制となっている。

テフミナさんの笑顔は自信に満ちている。カラアザールとPKDLのいずれからも解放され、教師になる夢を改めて追えるようになった。「私の知識を周囲の人と分かち合い、助言を与えることができればと思います」

カラアザールは全症例90%がインド、バングラデシュ、スーダン、南スーダン、エチオピア、ブラジルに集中している。バングラデシュでは64県のうち39県で感染が報告されている。国内症例の約70%は北部のマイメンシン県で確認されている。

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