ウクライナ: MSFの活動が禁止に――ルガンスクの分離独立派から通告

2015年09月29日掲載

MSFの移動診療に並ぶルガンスクの人びと(2015年5月撮影) MSFの移動診療に並ぶルガンスクの人びと
(2015年5月撮影)

国境なき医師団(MSF)は、ウクライナの分離独立派が独立を宣言した地域"ルガンスク人民共和国"の人道委員会が、同地域内でのMSFの活動を禁止したことに非常に驚いている。MSFが活動を停止すれば、ルガンスク内で弱い立場におかれている人びとが、医療や医薬品を利用できなくなると予想され、強い懸念を抱いている。

MSFのオペレーション・ディレクターを務めるバート・ジャンセン医師は「受け入れがたい決定です」と憤る。MSFはルガンスクで援助活動を行ってきた数少ない国際団体だ。ウクライナ東部で起きた紛争で医療を受けられなくなった人びとに対応してきた活動は、すでに1年を超えている。

「MSFは地元の医師と看護師が医療活動を続けられるように、その支援に専念してきました。私たちは弱い立場にある人びとを助けることだけを考えています。彼らの政治的信条や前線のどちらにいるかは関係ないのです」

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厳しい冬が近づいているが……

高齢者など弱い立場の人びとへの影響が特に懸念される (2015年5月撮影) 高齢者など弱い立場の人びとへの影響が
特に懸念される (2015年5月撮影)

2014年6月以降、MSFは医療・社会福祉施設109軒を支援。必須医薬品、医療物資、医療機器、衛生用品や救援物資を供給してきた。移動診療は35ヵ所で実施し、1次医療診療は4万2000件にのぼる。

また、医薬品と医療物資を寄贈し、糖尿病、高血圧、心疾患などの慢性疾患を抱える3万7500人の治療に貢献してきた。激しい戦闘があった際には、負傷者4900人を受け入れ、治療を行った。こうした診療や医療物資の提供はすべて無償で行っている。

ルガンスクでは2014年から医薬品の供給が途絶えたり、極端に不足したりして、市場価格が高騰している。抗生物質、鎮痛剤、高血圧、心疾患、腎疾患などの慢性疾患の治療薬を手に入れることが難しくなっている状況だ。

ジャンセン医師は「前線付近に住む人について特に懸念しています。高齢者、病人、身障者、そして自宅から避難してきた人びとが最も大変な思いをしているのです。彼らを助ける活動を禁止されたことに深く動揺しています。地元の多くの医師と看護師が前線地域を離れていきました。さらに、現地はこれから厳しい冬を迎えるのです」と話す。

ルガンスクからスタッフ退去

MSFはこれまでの活動で、移動、物資保管、医療施設向けの医薬品の配布など、すべてルガンスクの保健医療担当局と連携して行い、定期的に報告もしてきた。それにもかかわらず人道委員会が活動の不許可を決めたことから、MSFは事務所を閉鎖し、地域内からスタッフを退去させた。その直前、備蓄していた医薬品を医療施設への配布用に寄贈した。

ジャンセン医師は「MSFは透明性を保つことに手を尽くし、当局と協力して活動してきました。ですから、彼らが虚偽の情報にもとづくMSFへの非難をメディアに流したことや、MSFの事務所に武装兵を何度も送り込んでスタッフを脅そうとしたことに非常に困惑しています」と打ち明ける。

ウクライナ東部での活動は継続

MSFは今後も、ウクライナ東部の全域で活動を続けていく。その中には、分離独立派が"ドネツク人民共和国"と宣言して実行支配している地域も含まれる。ウクライナ東部の紛争が起きてからこれまでに、MSFは350軒以上の医療施設を支援してきた。また、前線の両側で医薬品と医療機器を寄贈も行ってきた。

2014年5月以降にMSFが手がけた援助活動は、1次医療の診療が10万2000件、紛争の負傷者を治療するための医療物資2万3000人分、慢性疾患の治療用物資6万1000人などを提供してきた。また、ドネツク州の刑務所で2011年から運営している薬剤耐性結核プログラムでは、現在も196人の患者が治療を続けている。

MSFは中立・独立・公平の立場から、人びとのニーズのみにもとづいて医療・人道援助を提供している。ウクライナでのMSFの活動は民間からの資金のみを財源とし、いずれの国の政府からも資金提供を受けていない。

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