ミャンマー:薬が効かない結核を治療するためには?――MSFの挑戦

2015年04月06日掲載

MSFスタッフに治療の相談するMDR-TB患者(左) MSFスタッフに治療の相談するMDR-TB患者(左)

ミャンマーの古都ヤンゴンのインセイン郡区にある国境なき医師団(MSF)のHIV/エイズ・結核診療所。コー・テッ・ウーさんがここで、複数の治療薬が効かなくなってしまった結核「多剤耐性結核(MDR-TB)」の治療を始めたのは約2ヵ月前のことだ。

村からはバスで半日、1万1000チャット(約1270円)の運賃がかかる。ウーさんは3ヵ月に1回、このルートでMSFのもとに通っていた。HIV感染の治療薬である抗レトロウイルス薬(ARV)治療を受けるためだ。ところが、最近、MDR-TBにも感染していることがわかった。

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ウーさんが引っ越したわけ

ヤンゴンのMSF診療所で診察を待つ人びと ヤンゴンのMSF診療所で診察を待つ人びと

MDR-TBには毎日の治療が求められる。激痛が走る注射を最短6ヵ月間打ち続け、少なくとも11種類の薬を20ヵ月間飲み続けなければならない。

もはやバスで通うことは不可能だ。ウーさんは、HIV/エイズと結核の総合治療を行う最寄りの施設近くへ引っ越すしかなかった。家族や友人など気の置けない人びとを遠く離れた故郷に残して……。

ウーさんは「私の村には総合病院が1つあるだけです。私のように貧しい患者はそこで治療してもらえればありがたいのですが、実際には、大半の患者は大都市で治療を受けるほかないのです」と話す。

増え続ける患者数、伸び悩む治療者数

ウーさんのケースが珍しいわけではない。MDR-TBと診断された人の多くが、大切な人、社会福祉、職や生活の糧までも後にし、国内で数少ない専門治療施設へ向かう選択を迫られる。

国家結核対策プログラム(NTP)の範囲で専門施設の大幅な増設計画が持ち上がっていることは事実だ。ただ、現時点では、36郡区に散らばる医療施設68ヵ所がMDR-TB治療を担っている。対象は国内全域だ。その施設も大部分が州や管区の中核都市に集中している。それは、ウーさんのように遠隔地に住む患者の生活圏外だ。

ミャンマーでは、MDR-TBは公衆衛生の危機と認識されている。新規症例は年間9000件。しかし、2014年中に治療を受けた患者は1537人にとどまっている。

自宅近くの診療所に通えれば……

その理由はさまざまだが、都市圏外での医療人材や医療インフラなどの不足や、長期に及ぶ負担の大きい治療法が主因とみられている。ただ、そうした治療法も大部分を簡素化し、地元密着型に移行できる可能性はある。

ミャンマーでMSF活動責任者を務めるナナ・ザルクアはMDR-TB治療の現状について、「人生の歩みを約2年間とどめて治療コースを完了するという選択は、多くの人にとって不可能です。治療を簡素化し、患者の自宅で受けられるようにすることが、救命と感染抑止に向かう大きな第一歩となると思われます」と話す。

患者の心を支えるネットワーク

過酷なMDR-TB治療に挑み、治療施設に行く決意をした患者は、"打倒結核"の固い意志を持っている。しかし、困難も倍増する。長くつらい治療がもたらす心身両面の負担、無収入、ホームシック、孤独感……。

MSFのカウンセラーであるイン・ミン・トゥーによると、抑うつ症はMDR-TB治療薬の1つによくみられる副作用で、多くの患者が苦しんでいるという。「治療に耐え抜くには大きな支えが必要です。自宅の近くにいられれば、家族や隣人などの社会的なつながりが助けになるでしょう」

ウーさんの場合は幸い、治療開始から妻が付き添っている。「薬のせいで体調がよくないときや、全身が痛むときは特に、妻のありがたさを感じます。ヤンゴン料理よりも辛い郷土料理も作ってくれます。ただ、滞在費が高いので、私の体調が上向けば、妻は村に帰らなければならないでしょう」

治療拠点の分散化で感染制御を

治療開始と継続を経済的に後押しするため、MSFは滞在場所、日々の交通費、食事、少額の月例給付金を提供し、患者が診療所の近くに引っ越すための支援を行っている。しかし、課題を解決できるほどの規模ではなく、治療の分散化が進むまでの一時的な解決策にとどまっている。

診療の分散化は、ミャンマーでMDR-TB対策を拡大するための重要な工程だ。分散化により、患者に必要な治療の機会の増加と感染の抑止が見込める。ただ、ほかの多くの国と同様、ミャンマーの保健担当局も、資源、資金、人材の不足にあえいでいる。

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