ジンバブエ: 自分たちの力でHIV治療を――援助から自立へ

2014年10月29日掲載

地元の保健職員(右)からARV治療の説明を聞く患者 地元の保健職員(右)からARV治療の説明を聞く患者

HIV/エイズの治療薬「抗レトロウイルス薬(ARV)」を患者に処方するときに、ベクルル・チャソケラ看護師の手が震えることはもうない。国境なき医師団(MSF)が提供している「役割移行」プログラムで研修を受けたからだ。

この研修は、MSFが2006年に、ジンバブエの北マタベレランド州タショロトショ地区で立ち上げた。チャソケラ看護師は「処方は全くの未経験でした。初めて実践したときは、顔なじみの患者の助けになっていることが自覚でき、確かな手ごたえを感じました」と話す。

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診療スキルを伝え、ARV治療を普及へ

タショロトショでARV治療の普及を行うMSFチーム(2012年10月撮影) タショロトショでARV治療の普及を行うMSFチーム
(2012年10月撮影)

HIV陽性のシボンギレ・ベベさん(42歳)さんは、タショロトショから約100km離れたマドナに住んでいる。「この辺りの診療所に常駐しているのは看護師だけです。その看護師がARVを処方できるようになって、大いに助かっています。以前は、医師がやって来る日をひたすら待つほかありませんでした。タショロトショの病院は遠く、交通費が払えないため、通えなかったのです」。ベベさんは2013年に初めてARV治療を受けることができた。

ベベさんのような患者にARV治療を届けることが、役割移行プログラムの目的だ。内容は簡単な分散化事業で、病院から遠い都市圏外の地方の保健医療従事者が自立性を高め、HIV/エイズの症例管理を行えるようになるための研修を行っている。

HIV感染の深刻な国では、可能な限り大勢の患者にARVを届けることが主要な課題の1つとなっている。世界保健機関(WHO)によると、ARV治療でHIVウイルスの感染リスクは96%低減する。ジンバブエのHIV感染者は、成人50万人、子ども15万人と推計されている。保健省の最新の発表では、治療を受けている患者の割合は成人で72%、子どもで43%にとどまっている。

治療の継続率も上昇

タショロトショの分散化担当チームのコーディネーターを務めるMSFのギオマール・エルナンデス医師は「HIVに感染して治療を受ける必要がありながら、生活に困窮しているために病院に行けない人びとがいます。ARV薬などの資源を必要な人のもとに届けることが肝心です」と話す。

MSFのフィルモン・ムニュイ看護師は「プログラムの成果には目覚ましいものがあります。検査を受けに来る人が増え、アドヒアランス(患者自身が積極的に服薬ルールを守ること)も向上しました。ARV治療の受けるための待機リストはずいぶん短くなりました。治療の継続率が上昇し、治療に対する患者の満足度もはるかに改善されています」と話す。

ジンバブエ保健省の移管作業を進める

タショロトショの18保健区を担当する男女30人余りの看護師は年2回、研修会に参加する。患者の特定、HIV検査、スクリーニング、診断、結核・髄膜炎などのHIV/エイズと関連する感染症の治療、患者の臨床免疫学的な経過観察について理論と実践を学ぶ。

エルナンデス医師は「MSFの分散化担当チームは、看護師がHIV/エイズ患者の診断を行う際に用いる手順を考案しました。MSFの研修を受けた看護師は、HIV陽性の人への対応にかけてはオールラウンダーと言っていいでしょう」と話す。

保健医療従事者への研修に加え、MSFの医療チームが週1回の視察を行う。地元の看護師たちは次第に自信を持って患者に対応できるようになっている。MSFは支援体制を維持しつつ、診断の難しい患者が診療所へ来院する日に合わせて視察を行っている。そうすることで、看護師はMSFの医療チームとともに診療に立ち会い、検査を学ぶことができる。

看護師のほかにも、検査技師、薬剤師、心理ケアの助手、支援グループなどが自立性を高めるきっかけにもなっている。2013年以降、MSFはタショロトショの活動を徐々にジンバブエ保健省に移管している。

エルナンデス医師は「地元の医療従事者の熱心さには目を見張るものがあります。いずれは彼ら自身だけで対応しなければならないことを念頭に、MSFチームが診療所にいる機会を最大限に活用し、知識を深めようとしているのです」と話す。

  • 本記事はスペイン「エル・パイス」紙とMSFの共同制作。

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