ホンジュラス: 性暴力被害者の支援プログラムを全国へ

2014年09月04日掲載

街頭に張られているMSFと保健省の支援プログラムのお知らせ 街頭に張られているMSFと保健省の
支援プログラムのお知らせ

オーレリアさん(35歳)はその日、朝5時に家を出て職場に向かった。ホンジュラスの首都テグシガルパでも、この時間帯はまだ、人通りはほとんどない。曲がり角で、白いセダンがすっと寄せてきた。カラーウインドウで中は見えない。その窓が下がっていき、男が銃を構えていることがわかった。

「中に入れと言われました。歩き続けましたが、車はどこまでもついてきました。中に入らないと撃つぞ、と言われました。車内には複数の男がいて、私は助手席に座らされました。テープで手を巻かれ、口をふさがれて、叫んだら殺すと言われました。じっとしているしかありませんでした……」

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高い犯罪率、乏しい被害者支援

MSFの心理ケアを受ける女性※記事中の人物とは関係ありません MSFの心理ケアを受ける女性
※記事中の人物とは関係ありません

解放されたオーレリアさんは、国境なき医師団(MSF)が支援している診療所に駆け込み、治療とカウンセリングを受けた。

テグジガルパは世界でも最も犯罪率が高い都市の1つとして知られている。殺人は74分に1人の割合で発生している。拉致、誘拐、性暴力の被害者は数千人にのぼる。2013年にホンジュラス検察庁が行った調査では、性暴力が2832件発生し、被害者の大半は19歳以下だった。特に、10歳から14歳の少女の被害が目立っていた。

これだけでも衝撃な数字だが、それでも氷山の一角だと考えられている。警察に通報されるのはごく一部で、多くは報復や被害者への偏見を恐れて沈黙しているとみられるからだ。

一方、被害後に治療と心理ケアを受けている人は少ない。被害者支援が断片的だからだ。あちこちの診療所に何度も足を運ぶ必要があり、ケアの連続性や守秘義務が守られていない事も多い。支援を受けるための障害が多過ぎるため、沈黙して苦しみに耐える方法を選ぶ被害者が多い。

MSFと保健省、被害者支援で連携

MSF診療所で被害者支援に必要な薬剤などを仕分けするスタッフ MSF診療所で被害者支援に必要な薬剤などを
仕分けするスタッフ

MSFは2011年、保健省と連携し、"セルビシオ・プライオリターリオ(優先サービス)"プログラムを立ち上げた。性暴力を含む暴力被害に遭った人びとへの緊急対応を行っている。被害者にとって必要なケアを、1ヵ所の診療所で1度に済むように手配し、無償で提供する。もちろん、守秘義務も徹底している。

緊急処置には"予防"も含まれている。性暴力被害後から72時間以内であればHIV感染を防げるほか、性感染症、B型肝炎、破傷風なども予防できる。また、心理ケアにはカウンセリングとサイコロジカル・ファースト・エイド(心理的応急措置)が含まれている。性暴力の被害者にとっては、適切なケアを受けられるかどうかが、生死を分けることもある。

オーレリアさんは「治療を受けるまでは、死にたいと思っていました。汚れたと感じ、人生の一部を失ったと感じ、この世に存在したくないと感じていました。でも治療とカウンセリングのおかげで、乗り越える事ができました」と打ち明ける。

2013年1月から2014年6月の間に、MSFは1008人の性暴力被害者を治療し、1230件の心理ケア・セッションを提供した。

"セルビシオ・プライオリターリオ"は拠点病院のエスケラと、首都に3ヵ所ある診療所で提供している。また、MSFの移動診療チームが首都の各地域を巡回している。

医療者でも提供できない"治療"とは?

ただ、性暴力被害者に提供できていない重要な要素が1つある。"望まない妊娠"への対応だ。ホンジュラスでは2009年から、緊急避妊薬が禁止されている。

MSFのディアナ医師は「被害を受けた患者は極めて感情的になり、悩んでいる事が多くあります。挫折感、困惑、怒り、苦痛、そして妊娠したかもしれないという大きな不安。これが被害者にとっても最も心配な事なのです」

緊急避妊処置を受けられなかった場合、性暴力で妊娠してしまった女性は、望まない子を産むか、違法で危険な妊娠中絶を受けるか、どちらかの選択肢しかない。いずれにしても、心身や社会面に大きな影響をもたらす。

一方、医療スタッフも挫折を感じている。ディアナ医師は「性暴力被害者になぜ緊急避妊薬を出せないのか。当事者に説明するのは非常に難しい事です。失望と無力感を覚えます。患者も医師である私も、緊急避妊薬が存在している事は知っています。なのに、法律が壁になっているからです」と話す。

MSFはホンジュラスで、緊急避妊薬の再合法化を求めている。一方、"セルビシオ・プライオリターリオ"を全国に展開し、各地の被害者が同じサポートを得られるようにと、活動を続けている。

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