スワジランド:HIVと結核の二重感染をめぐって――MSF、5年間の取り組み

2014年07月09日掲載

南アフリカ共和国とモザンビークの間に位置する小国、スワジランド。この国では、成人の26%がHIVに感染している。世界で最もHIVの有病率が高い国の1つだ。さらに、多くの結核感染者を抱える国でもある。結核はHIV感染者の死因の第1位だ。スワジランドでは、結核感染者の8割以上がHIV感染者だという統計もある。薬剤耐性結核菌の出現に伴い、治療もより困難になっている。

国境なき医師団(MSF)は2008年以降、スワジランド保健省を支援している。HIVケアと結核ケアを統合し、医療を受けることが最も難しかったシセルウェニ地方で、統合ケアを各診療所に分散させる活動を進めてきた。このプログラムを開始してから5年以上が経ち、シセルウェニ地方のすべての地域診療所(22ヵ所)で、HIV感染者1万7000人以上、結核患者1万500人以上に、治療を提供している。

MSFは2014年、このプログラムの成果についての点検・分析に着手。報告書「地平を広げる:スワジランドシセルウェニ地方のHIV/結核ケアの地域分散」にまとめた。報告書では、2008年から2013年にかけてのプログラムの進展について説明している。MSFのスワジランドでの活動責任者であるエリアス・パブロポロスに話を聞いた。

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HIVと結核の治療の統合と普及が、なぜ重要なのでしょうか。

結核の感染検査を受ける母子 結核の感染検査を受ける母子

治療を普及させるということは、住民が自宅近くで治療を受けられることを意味します。MSFは、HIVや結核感染者のケアを、都市部の総合病院から"1次医療圏"である地方の診療所に分散させました。

スワジランドのようにヒトやモノが限られた状況で治療の地域分散化を進めるためには、タスク・シフティング(※1)を始めることが先決でした。看護師業務の一部をカウンセラーやエキスパート患者(※2)に割り振ることで、看護師が他の業務を行えるようになりました。さらに、タスク・シフティングを通じて住民が診療に好意的になり、治療を受けるにあたって重大な障壁となっていた偏見も減らすことができたのです。感染者の自尊心も高まり、地域社会にも以前より好意的に迎えられるようになっています。

  • 医師の代わりに看護師や保健医療スタッフが薬の投与をなど行うこと
  • 同病の立場から新規患者をサポートする役割を担っている患者

このほか、診療所内の感染制御も併せて行う必要があります。検査業務も、患者の健康状態をしっかり追うためには、患者の最寄の診療所で行う必要があります。

なぜこうした斬新なプログラムが可能になったのですか。

各地に足を運び、住民にHIV対策を説明するMSFスタッフ 各地に足を運び、住民にHIV対策を説明するMSFスタッフ

理由の1つは、以前よりも安い価格でウイルス量測定器(CD4カウンター)が手に入るようになったためです。血中のHIV量は、抗レトロウイルス薬(ARV)治療の効果や、第1選択薬への耐性の有無をみるためには不可欠な指標です。

CD4カウンターのポータブル・タイプが普及したため、どこでもポイント・オブ・ケア検査(患者の所在地で行う臨床検査、POC検査)が容易になりました。都市部から遠く離れた地域でも開設できます。

POC検査に、臨床検査サービスや入手しやすい価格の医療機器を加えることで、より多くの人のもとに赴いて、きめ細やかに経過を追っていくことができます。文字通り「HIVと結核と闘う」装備が手に入ったというわけです。

HIV対策用に新たな装備が出てきたことは、国際社会にとってチャンスです。「流行を抑えこむ」ための施策を検討する段階に移れるからです。HIV・結核に関して、私たちはより進んだ段階に来ています。新しい装備を効果的に使えるかどうかは、各国政府や関係者にかかっています。

こうした成果は予想していましたか。

MSFと保健省の連携が進み、人びとの治療への意識も高まった MSFと保健省の連携が進み、人びとの治療への意識も高まった

シセルウェニ地方に最初に来た2007年の時点では、どのような展開になるか予想していませんでした。感染状況があまりにも大規模だったからです。当時は日々の活動を行うことしかできませんでした。ARV治療の普及率が80%になるなど、誰も予想していませんでした。

保健省との連携がどこまで進むか、あるいは、連携によってどのような成果が得られるかもわかりませんでした。しかし、結果的に、保健省との連携とMSFによる医療体制の拡充は、MSFがシセルウェニ地方で得ている成果に大きく寄与しています。

シセルウェニ地方では、2013年12月末時点で、ARVを必要とする人の83%がMSFの治療を受けていました。実数では約1万8000人です。世界保健機関(WHO)はこのプログラムを「普遍主義的医療制度」とみなしています。

一方、結核の症例数にも減少が見られました。HIVケアの普及率向上によって、結核の新規感染者数は年を追うごとに急減しました。私が2011年にスワジランドに赴任した時点では、新規の結核感染者は年2000人という規模でした。現在は700件まで低下しています。大変な改善です。

もう1つの成果は、患者が治療を受けることに積極的になり、続けていこうという意思が明確になっている点です。治療開始から6ヵ月後の治療継続率は88%です。12ヵ月後でも82%を維持しています。ケアを続ける人は増え続けています。その結果、結核以外の"日和見感染症"についても減少がみられました。

スワジランドは感染拡大を抑え込み、危機を脱したのでしょうか。

それは違います。HIV/エイズに関する取り組みはまだ終わっていません。感染拡大の抑え込みには成功しましたが、新規感染者数をゼロに近づけるには、まだ長い道のりがあります。2008年には、新規感染者数が全感染者数の2.7%を占めていました。現在は2.1%に減っていますが、それでもまだ高い値です。新規感染者の減少が次の目標です。

これからの課題は何ですか。

ARV治療を受けられる場所を増やしたことが、プログラム開始から最初の5年間の成果です。これからは、治療と予防のアプローチを拡充し、HIVの感染を抑え込んでいく必要があります。しかし、長い時間がかかるでしょう。

2012年、MSFは"母子感染予防オプションB+(PMTCT B+)"を導入しました。これは「予防としての治療」と位置付けられ、妊婦がHIV陽性と分かった時点ですぐにARV治療を開始するというものです。

また、HIV陽性と診断されたすべての人に、ARV治療を提供できるように取り組んでいます。「予防としての治療」戦略により、さらに大きな成果につながる可能性があります。無数の命を奪ってきたHIVと結核の流行を押し戻す糸口となると考えています。

MSFは、患者に対する心理・社会的支援をシセルウェニ地方以外でも提示してきました。保健省はこのプログラムを質の高いケアの一例と考え、他の場所でも実行できるとみています。

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