南部アフリカ:医療従事者不足がHIV/エイズ治療へのアクセス拡大を制限 -MSFの新たな報告書「人材求む」発表-

2007年05月29日掲載

国境なき医師団(MSF)は5月24日、新たな報告書を発表し、南部アフリカでは極度に医療従事者が不足しているために、HIV/エイズ治療へのアクセス拡大を図る取り組みが危機に瀕していると警告した。同報告書は、レソト、マラウイ、モザンビーク、南アフリカの南部アフリカ4ヵ国の状況について、今もなお百万人を超える人びとが救命のための抗レトロウイルス薬(ARV)治療を必要としているにも関わらず、治療を受けられないでいると述べている。対策を講じなければ、避けることのできるはずの疾病と死が増えることになるだろう。

マラウイにおけるMSFの看護師長、ベロニカ・チカファは語る。「私たちはチョロ地域で7千人のHIV/エイズ感染者を治療しています。治療を受ける患者の数を今年末までに1万人まで増やす必要がありますが、看護師、医師、医療助手が足りないばかりに、私たちのプログラムは壁に突き当たっています。」

医療スタッフ不足が深刻なため、南部アフリカ全域でHIV/エイズ治療の質と利用できる度合いが低下している。マラウイのチョロ地域では1人の医療助手が1日に2百人もの患者を診なければならない場合もあり、これでは質の高いケアを確保することは難しい。モザンビークのマバラネ地区では医師と看護師が不足しているために、患者は治療の開始を2ヵ月も待たなければならず、待っている間に多くの患者が命を落としている。

レソトでは、国全体を合わせても医師の数は89人に過ぎない。レソトで活動するMSFのフェーロ・レソラ医師は語る。「地方の診療所におけるHIV感染者のケアは看護師に頼っていますが、彼らは患者の数の多さに圧倒されています。診察に当てられる時間があまりに短く、具合の悪い患者は必要以上の苦痛を味わっています。看護師が苦しむということは、患者が苦しむということでもあるのです。」

このような人材不足による危機は広く認識されているが、現地において具体的な対策はほとんど取られていない。MSFは各国政府に対し、給与の引き上げや労働条件の改善など、医療従事者の確保と新規採用を促進するための緊急計画の策定と実施を呼びかけている。しかし、これらの措置は、援助国や援助機関がこれまでの方針を変え、給与など継続的な必要経費を賄うための財政支援を開始しない限り、ほとんどの被援助国では実現しないだろう。各国財務省と国際通貨基金(IMF)は被援助国の医療従事者の数と給与水準に「上限」を設けているが、これを乗り越える方策を見出す必要がある。さもなければ、被援助国政府が、まだ満たされていないHIV/エイズの治療ニーズに応えるのは難しいだろう。

南アフリカは他の南部アフリカ諸国と比べて、給与水準の高い医療従事者が多い。しかし、その南アフリカでさえ、医療スタッフの配置が偏っており数も不十分であることが、HIV/エイズ治療の拡大を遅らせる原因となっている。西ケープ州カエリチャにおけるMSFのプログラム責任者、エリック・ゴメール医師は語る。「診療所は完全に飽和状態で、治療の順番を待つ患者のリストは長くなるばかりです。私たちは、この戦いに敗れつつあるのではないかと感じることもあります。患者から遠く離れた役所で政策を決めている人びとに伝えたいことがあります。それは、医療スタッフ不足の問題に敏感に反応し、柔軟な姿勢で解決策を見出さなければ、その結果について責任を問われるのはあなた方ですということです。」

MSFは地方部におけるHIV治療へのアクセス拡大を図るため、医師から看護師へ、さらに看護師から地域社会の活動家へ「仕事を移管する」取り組みを進めてきた。しかし、これらの取り組みには限界があり、それによって熟練した医療スタッフを増やす必要性がなくなるわけではない。

レソトにおけるMSFの治療リテラシー(※)・コーディネーター、シャロナン・リンチは語る。「援助国や援助機関は、患者の生涯治療や新しい診療所の建設に向けた資金は提供しますが、医療従事者の給与については、『持続不可能なもの』として支援を拒否しています。これは理解し難いことです。HIV/エイズ感染者が必要としているのは薬と診療所だけではありません。診断、経過観察、治療に当たる、訓練を受けたやる気のある医療従事者も必要なのです。」

MSFは現在、本報告書で取り上げた南部アフリカ4ヵ国において、3万人近くの人びとにARV治療を提供している。また合計30ヵ国以上において8万人以上にARV治療を行っている。

  • 患者自身が病気と治療薬の必要性について学んでいくこと

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