チリ:心理ケアや研修等を通して恐怖に立ち向かう住民を援助(3月16日現在)

2010年03月23日掲載

2月27日に大地震が発生して以来、チリでは余震が多発し、大地震ですでに衝撃を受けている住民には新たなストレスが加わっている。そのため、国境なき医師団(MSF)は災害援助の中でも、特に心理ケアを優先している。また、夜間の冷え込みと雨量が増す中で、家が破壊され屋外でキャンプ生活をすることの多い住民を対象に、ビニールシートと毛布の配布も急いでいる。

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住民、医療スタッフ両方に求められる心理ケア

チリ国内での移動診療の様子 チリ国内での移動診療の様子

MSFの心理ケアチームは、さまざまなグループに直接的なカウンセリングと心理ケアのワークショップ、および医療スタッフを対象とした報告会を実施している。また、現地当局を支援して、心理ケアのために被災地に派遣される予定の活動従事者に研修を行っている。

地震から15日が経過したが、余震は今も続いている。中には強い余震もあり、その度に住民たちは最初の地震を追体験するかのような深い衝撃を受けている。マリーア・エウヘニア・メサが勤務しているウアラーニェ病院も深刻な被害を受け、現在機能している病棟は1つしかない。そのため、多くの入院患者は近隣の町の診療所へ移送せざるをえなかった。彼女は、体のけがよりもパニックの発作で病院に来る人が増えていると話している。メサは語る。
「余震のせいで、私自身もパニック状態です。夜、普通より大きな余震が来ると、慌てて外に逃げ出して外で寝ています」

このように続く余震が、彼女を含む病院スタッフの心理状態に影響を及ぼしているのは明白である。そのため彼女は、苦しみを放出する場として、MSFがウアラーニェ病院で開催したグループ・ワークショップに参加した。

MSFの心理療法士であるリナ・マリーア・ペニャランダは語る。
「医療スタッフは、自分だけでなく患者の心の傷にも対処しなければならないので、特にこの大惨事の影響を受けています。私たちが始めたグループ活動の中で、参加者はこのような気持ちをもつのが自分だけではないと気づき、自分の感情を普通だと思えるようになりました。彼らは自分自身を被害者と考えるのを止め、生き残ったことをチャンスと考えられるようになるのです」

子どもたちや既往症のある患者への対応

子ども向けの心理ケア・ワークショップ 子ども向けの心理ケア・ワークショップ

事態は、さまざまな分野でも同様である。MSFは、建物が倒壊して住民1人が死亡した老人ホームで、心理・社会面の支援を行った。また、沿岸部のキャンプでも、食事や睡眠を取るにも支障があり、家に帰ることが怖いと訴える子ども、女性、漁師を対象に心理ケアを行っている。

また、特に教師たちは、数週間後に新学年の開始を控え、地震により心理面で衝撃を受けた子どもたちにどのように対処すればよいかという点について、もう一つの不安を抱えている。沿岸地帯の町イロカを訪問した宗教学の教師アレハンドロ・カベロは、次のように語る。
「子どもたちは非常に動揺しています。その多くは、家が倒壊したため、高い丘でテント生活をしています。私たち教師はクラスでどのように生徒たちを指導すればよいのか、自問しているところです。その一方で、できるだけ早く新学期を始めたいと強く思っています」

MSFの心理療法士であるペニャランダは、このような状況では、教師たちが子どもに恐怖を表現させる必要がある、と話している。MSFはリンカンテンの教師を対象にワークショップを開き、今回のような災害の後、子どもによくみられる行動の変化を見極めて適切に対応するためのツールを提供する予定である。

心理的ストレスが長引くと、身体にも深刻な症状が現れる場合がある。チリにおけるMSF医療チームの医師、フランキング・フリアスは説明する。
「余震が住民に与えたストレスは、特に、てんかん、糖尿病、高血圧症などの患者の健康にも影響を与えています。このような出来事があると、これらの病の患者は代償不全に陥る傾向があります。さらに、その多くが地震で薬を紛失しているという問題もあります」
MSFは沿岸地帯にあるコンセプシオン市のキャンプで診察も行っており、不安に起因する症状が多くの人びとに現れているのを確認している。

衛生用品キットと医療物資の配布

衛生用品キット、ビニールシートの配布 衛生用品キット、ビニールシートの配布

被災地では多くの病院が損傷しているが、ほとんどは適切な対応能力と十分なスタッフを維持している。MSFの医療スタッフは、家を離れて診療所に行きたがらない患者を往診したり、医療物資を寄付して不足が出ないようにするなど、医療ニーズに応えている。

さらにMSFは、現地当局や現地住民との話し合いを通じて、どこにニーズがあるかを明らかにし、スタッフが事前調査を行った地域を重点的に、衛生用品キット、ビニールシート、および毛布を配布している。MSFのキットを受け取ったエウヘニオという男性は、妻、父親、そして3人の子ども(9歳、3歳、1歳)と共にリカンテン郊外の道路沿いの家で暮らしている。家はまだ倒壊していないが、多くの部屋にひび割れがあるという。まだ建築専門家に建物の安全性を検査してもらっていないため、一家は家の外の小さなテントで寝泊りしている。彼は語る。
「新たに余震が来るたびに、私たちはとても不安になります。小さな子どもたちは泣き続けています」

壊滅的被害を受けた町の人びとも、ボランティアとして被災者への寄付物資の配布を手伝っている。これらのボランティアもほとんどが物質的、心理的な影響を受けているが、積極的に活動することが回復への助けとなるだろう。パニャランダは説明する。
「被災した人びとにとって、動揺したり、地震の再来を恐れたりする時間がないほど、他の人を助けることに没頭するのは、とてもいいことなのです」

被災地全域では、チリ人の連帯と協力の精神をうかがうことができる。首都サンティアゴからタルカ市への道では、チリの国旗を掲げた多くのトラックや自家用車が、物資や集められた作物を積んで南へ走っている。大学生と被災地の住民も、ボランティアの医師、看護師、心理療法士に加わり、あらゆる援助活動を行っている。チリにおける活動責任者のカルロス・ハロは語る。
「国全体が再建に取り組んでいます。住民の皆さんは前進し、乗り越えていくでしょう」

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