ホンジュラス:デング熱の流行に対応

2010年09月02日掲載

2010年に入り、ホンジュラスでデング熱の症例が脅威的に増加していることを受けて、国境なき医師団(MSF)は、中米に位置する、この国の首都テグシガルパで緊急援助活動を開始した。テグシガルパは、症例の大多数が報告された場所である。MSFは地方の医療サービスについて、治療、媒介虫駆除、地域への教育活動の3方面に重点を置き、支援している。このようなデング熱対策は、MSFにとって比較的新しいものである。

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激増するデング出血熱の罹患率

MSFが設置した1ヵ所の救急小児病棟に、すでに80人以上の子どもが搬送された。移動診療チームは現地の保健当局とともに、テグシガルパ地域に住む4000世帯の感染源を特定し、除去する活動をしている。

中米の風土病であるデング熱は、ネッタイシマカ属の蚊によって感染するウイルス性疾患である。症状はインフルエンザと似ており、頭痛、発熱、吐き気、腹痛、発疹を伴う。最も重い病態を呈するデング出血熱には出血傾向があり、不可逆性のショックから死に至る。

ホンジュラスでは、2010年に入ってから通常のデング熱が2009年に比べて劇的に増加し、すでに5万件以上の症例が報告されている。しかし、この流行の中で最も警戒すべきことはデング出血熱の罹患率である。報告されたのは1500件以上、160人が死亡している。これは、2009年に比べて1850%という急激な増加である。最近息子がデング熱にかかって入院したエルミニア・モンカダは語る。「前にもデング熱はありました。でも、今回のは違います。命を奪うのですから」。

新たな診療所や救急病棟を設置し対応

保健省は、空いている病院のベッドをデング熱患者用にまわし、専門ユニットを郊外の診療所に設置して、デング熱による多数の症例に対応し続けているが、それでも依然として、この基幹病院では対応しきれないほど患者が急増している。最近まで、デング熱にかかった子どもたちは、この基幹病院に搬送されていた。地方のユニットは、成人患者しか受け入れられなかったからである。混雑を緩和するために、テグシガルパの郊外にあるサン・フェリペ病院に救急病棟を設置して、デング熱の症状がある15歳未満児が必要なケアを受けられるようにした。活動開始から2日目にして、すでにこのベッド数23床の病棟はいっぱいになった。

病院での子どもの治療には、補水と療養が含まれている。MSFの救急病棟を統括するエリザベス・ブラガンサ医師は語る。
「デング熱は、あらかじめ急速によくなる患者を特定することはできません。このウイルスにはワクチンや特効薬というものはないので、できることとしては症状を管理し、容態が安定するのを待つ間に生じた状況に対して治療を行うだけです」

親との協力が医療活動の成功への鍵

MSFの医師による経口補水の様子。水分の過剰摂取に注意しなければならない。 MSFの医師による経口補水の様子
水分の過剰摂取に注意しなければならない

この治療は単純なように思えるが、経口補水には難しい面もある。血清投与の際には、水分の過剰摂取に注意しなければならない。デング熱は血管の透過性を変えるため、水分が体内の他の場所に浸透する危険性があり、肺水腫のような合併症を引き起こす原因となる。ブラガンサ医師は語る。「体内の水分量を一定に保つことが必要です」。

また、MSFの医療スタッフは、子どもへの定期的な水の飲ませ方を、子どもの親と介助者に指導している。ブラガンサ医師は語る。「この医療活動の成功は、私たちと親との協力にかかっています」。親(多くは母親)は、しばしば病棟で夜も子どもに付き添い、決められた間隔で血清を与え、あとでその量を医療スタッフへ報告できるように書き留める。また、親の代わりに子どもを看られる人がいない場合が多く、何日も付き添い、幾晩も睡眠がとれないこともある。このため、親を精神面から支援することが活動の一部となっている。

MSFにとって、子どもが回復し始める姿を見られることが何より喜ばしいことである。病棟に入院してからわずか1日で、5歳になるルシア・イサンマル・エルヴィルは、母親ににっこりして「お絵描きがしたい。家に帰りたい」と言った。

治療だけでなく病気の発生に関する教育が必須

デング熱は、医学的な治療をするだけでは十分でなく、そもそもどのように病気の発生を防げばよいのかを、人びとに教育するというアプローチと併せて行われなければならない。このプログラムにおけるロジスティック(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務)・コーディネーター、ルイス・モンティエルは語る。「教育はデング熱対策において必須であり、将来の流行の先行きを見定めるうえでも極めて重要です」。

政府や関連機関とともに媒介虫駆除を実施

家々を巡回し、説明を行うMSFスタッフ。このような教育活動が必須である 家々を巡回し、説明を行うMSFスタッフ
このような教育活動が必須である

医療の提供に加えて、MSFは「媒介虫駆除」によってデング熱対策に乗り出している。これは、この疾患を広める蚊の駆除を意味する。ホンジュラス保健省の媒介虫駆除機関とともに、MSFの移動診療チームがテグシガルパ郊外にあるマンチェン区で活動している。ここは、最も高い感染率が報告されているところである。

デング熱ウイルスを媒介する蚊は水溜りで発生するため、家庭内での適切な水の管理が欠かせない。家屋が丘陵地帯にあるマンチェン区に住む家族は、2週間ごとに水を受け取り、貯水タンクにくみ置きする。彼らが住む家屋の狭い廊下に置かれたポリタンクや他の貯水用の容器は、蚊の発生に最適な環境であり、潜s在的な感染源となる。もしも廃棄物やごみが集積するようになれば、これらも蚊の発生地になりうる。貧困世帯が多くを占めるこの地域の人びとにとって、廃棄物の管理は簡単なことではない。マリア・メルセデス・スアソ・ブスティーリョ(89歳)は、自宅の一室が崩れてからいままで、ごみや使い物にならない家具を処分することができなかったいきさつを語る。「私は貧しく、これを捨てるにはお金がかかるため、できないのです」。

家々を巡回して説明、駆除活動を行う

媒介虫駆除の様子。燻蒸消毒を行い、蚊の発生サイクルを止める。 媒介虫駆除の様子
燻蒸消毒を行い、蚊の発生サイクルを止める

MSFチームは、近隣の家々を回って潜在的な感染源を探し出し、どのようにして蚊の発生を抑えてウイルスのまん延を防ぐかを説明している。これは、住民の意識を高め、貯水槽などでの蚊の卵のう化を防ぐ方法や、ごみがたまるのを避ける方法を伝えるためである。ここでの課題は、人びとの習慣や社会的慣習を変え、デング熱対策に加わってもらうことである。MSFの健康教育担当チームは拡声器で伝える。「検査官はいつもいるわけではないので、ご注意ください」。

MSFは、殺虫剤散布についても説明のために家々を回る予定である。この措置は、蚊の卵のう化を防止するために、薬剤を用いて水溜りを処理するというものである。そうして、家族の信頼が得られてから担当チームが家々の燻蒸*消毒にまわり、蚊の発生サイクルを止める。これまでにMSFは、700世帯に殺虫剤の散布を行い、400軒に燻蒸消毒を行った。今後さらに4000軒以上を燻蒸消毒する予定である。

*主に害虫駆除や防カビ・殺菌の目的で、気体の薬剤を対象に浸透させる方法。

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