世界で最も殺人が多い国 恐怖に怯える住民に医療を

2018年07月23日

7万5000人が命を落とした内戦が終結して26年を経た中米エルサルバドル。紛争地でもないのに、この国は今、世界で最も殺人が多いと言われるようになっている。国境なき医師団(MSF)は、暴力にさらされている人が医療を受けられるよう、首都サンサルバドルと近隣のソヤパンゴ市で保健医療活動を開始した。 

ギャングと治安部隊の間で

エルサルバドルは、ホンジュラス、グアテマラと並び「中米北部三角地帯」と呼ばれ、殺人事件の割合が非常に高い。その背景には、都市を牛耳るギャングの存在がある。サンサルバドルやソヤパンゴでは、都市部とその周辺がギャングの支配下にあり、多くの住民は恐怖と隣り合わせで暮らしている。

ギャングと治安部隊の衝突は激しい暴力を生み、ギャングの支配下にある都市で暮らす住民には、常に偏見の目が向けられる。人びとは安全を脅かされ、保健医療サービスも利用できない。その結果、故郷を離れてより安全に暮らせる土地へ旅立ち、その途中でまた危険な目に遭う。

エルサルバドルのMSF活動責任者ステファヌ・フーロンは「人びとは、保健医療機関に向かう途中で襲われるのではないかと心配しています。不安が広がれば心の健康も損なわれます」と語る。「人びとが暴力、社会的疎外や排除、汚名に苦しむ状況を、特定の機関や武装勢力が助長しているのです」
 

恐怖で受診もできない人びと

MSFが2017年にサンサルバドルとソヤパンゴで行った医療ニーズ調査では、多くの住民が暴力にさらされ、恐怖から医療機関を訪れることさえできずにいることがわかった。こうした現状と、すでに現地保健省と連携してきた活動を徹底的に分析し、人びとに必要な援助を開始した。

保健医療機関を利用できない人のために、MSFは移動式の診療チームを編成し、総合診療、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、心理ケアを開始。さらに、ソーシャルワーカーが患者の経過を追い、必要なら他の機関に引き継いでいる。

また、より包括的な心理ケアにも着手したほか、地域の社会構造を強化し健康のための習慣づけをする地域活動と健康教育活動も立ち上げた。家族保健診療所では、臨床心理面での支援も行っている。
 

弱い立場の人びとのため、活動を拡大

チームには多種多様な専門スタッフがおり、総合医、看護師、社会心理学および臨床心理学の専門家、ソーシャルワーカー、ロジスティシャン(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当)、管理職、補助スタッフなど54人で構成される。

現在はサンサルバドル市の6つの区とソヤパンゴ市北部3ヵ所で活動し、今後は両市の別の地区の住民も対象に含めるよう、活動を拡大中だ。さらに、移民・難民や強制送還されてきた人への援助についても可能性を探っている。
 

2009年のハリケーン「イダ」の被害2009年のハリケーン「イダ」の被害

MSFはエルサルバドルで1980年代の内戦時に活動し、一次医療の提供や、暫定政府とゲリラ組織の衝突で四肢を奪われた人に義肢を提供した。
また1998年のハリケーン「ミッチ」と2009年の「イダ」、1986年と2001年の地震による被災後の緊急対応にも携わっている。 

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