足を貫いた銃弾 「一番つらいのは、歩けないこと」 封鎖の町で、若者の人生は狂わされた

2018年08月24日掲載

MSFの術後ケアを受ける13歳の少年。イスラエル兵に撃たれ、左足を切断したMSFの術後ケアを受ける13歳の少年。イスラエル兵に撃たれ、左足を切断した

「なぜデモに参加したか?フェンスを見に行ってみたかったからです」
こう話すのは、中東パレスチナ自治区ガザでジャーナリズムを専攻する大学生、ムサーブ・ムサさん。切断した足の先端には、包帯が巻かれている。

今年3月、イスラエルとガザを隔てる境界フェンス付近でパレスチナ難民の帰還を求めるデモが始まり、数万人のガザ住民が行進。これに対してイスラエル軍が発砲し、多数の死傷者が出た。

フェンス付近にいたムサーブさんも、イスラエル兵の銃撃で片方の足を失った。「石は投げず、座っていただけなのに撃たれたんです。電流が走ったような感覚でした。兄が救急車まで抱えて行ってくれました」 。

イスラエル兵が発砲した銃弾が当たり、運ばれていく男性イスラエル兵が発砲した銃弾が当たり、運ばれていく男性

 一連の衝突で、パレスチナ人4100人以上がイスラエル軍に撃たれて負傷。その大半がムサーブさんのような若者で、主に下肢を撃たれていた。

国境なき医師団(MSF)の広報ジェイコブ・バーンズは、ガザの状況を追うべく現地を取材。そこで見たものは、いまなお心身の後遺症に苦しむ市民の姿だった——。

ガザの海岸沿いの通りガザの海岸沿いの通り

ガザと聞いて、必ず連想するもの——私の場合、それは「ガアアド(アラビア語で『座っている』の意)」という言葉だ。MSFの患者さんとの会話でよく耳にしたせいで、土地の記憶とセットで思い出すようになってしまった。

この単語をこれほど頻繁に聞いた理由は一つ。脚を撃たれてしまうと、それ以外のことができなくなるからだ。 

粉々になった骨、吹き飛んだ筋肉

包帯を交換しに来院する患者。術後、骨への感染を防ぐためだ包帯を交換しに来院する患者。術後、骨への感染を防ぐためだ

イスラエル軍がデモ参加者に向けて放った銃弾は、彼らの骨を粉々に砕き、肉をえぐり、神経や血管を引きちぎった。銃創(銃で撃たれてできた傷)で骨などがむき出しになったままでは、傷口が感染し、体の一部や命を失う恐れがある。

MSFは緊急チームを派遣し、24時間体制で外科手術と術後ケアにあたった。受け入れた負傷者の数は、4月だけで681人に上る。この短期間でこれほど多くの銃創を診るのは、MSFの活動でも異例のことだ。 

銃創患者の治療にあたるMSFの外科医銃創患者の治療にあたるMSFの外科医

手術では、脚を切開して骨片を削り、ずたずたになった筋肉の形を整え、皮膚を移植して傷口をふさぐ。患者の容体を安定させるための一時的な処置だ。

回復するには複数回の手術を受けなければならず、長い時間がかかる。「傷口が閉じていても骨折は残り、広範囲の骨が失われたままです。継ぎ目に骨片をあてる骨移植が必要となります」とMSFの形成外科医ジュリア・アマンドは説明する。 

けがが若者の人生に及ぼす影響

10年にも及ぶ封鎖で、ガザの経済は崩壊寸前だ。パレスチナ人同士の政争もあいまって、若年層の失業率は64.9%に達した(2017年9~12月、OCHA調べ)。

人びとの生活が困窮しバリアフリーも定着していないガザで、手足を失い行動が奪われれば、社会的抹殺を受けることにもつながる。 

右足を撃たれ、皮膚移植を受けた男性右足を撃たれ、皮膚移植を受けた男性

「以前は大学で勉強していましたが、けがで中退しました。それからは、家でじっと座っている毎日です。父も無職で、家計は苦しいです」と話すのは、ムハンマド・ダシュアンさん(19歳)。抗議行動に参加中、イスラエル兵に2回撃たれ、脚はめちゃめちゃになった。

「毎日、寝て起きて、お祈りをした後はぼんやり座っています。気分がさえずイライラして、退屈です。普段はこうじゃないんだけど……」。努めて無関心を装っていた彼は、一瞬、弱さを見せた。だが、今後のことはさほど気にしていないと強調する。「未来のことは考えないんです。いや2~3度、あるかな……もう忘れてしまったよ」。 

銃創患者の9割が手足に重傷を負っている銃創患者の9割が手足に重傷を負っている

患者さんは家で過ごしながら、回復を待ち望んでいる。「けがで一番つらいのは、歩けないこと」とムサーブさん。「これからどうなるのか、ちょっと怖い。また歩けるようになるんでしょうか?」。MSFの外科医であっても即答できない質問だ。

封鎖され、一般市民が自由に出入りできないガザでは、限られた施設でしか医療を受けられない。専門的な治療を受けたくても、完全な感染コントロールの下で専門医が診られる医療環境は整っていない。

残念ながら、ムサーブさんの問いかけに対して、私たちは「ノー」と答えるしかない——。 

ガザ衝突で緊急活動展開中
「緊急チーム」募金にご協力ください

寄付をする

【支援対象】から「緊急チーム」募金を選択してください。 

関連情報