地元看護師もエボラ治療に対応「患者の退院が一番の喜び」

2018年09月21日

エボラ出血熱が何度も流行しているコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で、国境なき医師団(MSF)の看護師として、エボラ対策のために働くコンゴ人がいる。彼の名は、パシャン・ムヒンド・カマヴ。

8月1日にエボラの流行宣言が出された後、パシャンは、いち早く北キブ州の町マンギナに向かった。パシャンは今年発生した2つのエボラ流行を経験した。エボラ対策も含め、さまざまな経験を積んだベテランの看護師。他の3人の看護師とチームを組み、保健省の職員と共に現地に入った。 

エボラ対応にあたった国境なき医師団(MSF)の看護師でコンゴ人のパシャン・ムヒンド・カマヴエボラ対応にあたった国境なき医師団(MSF)の看護師でコンゴ人のパシャン・ムヒンド・カマヴ

流行宣言が出された次の日に、MSFから連絡を受けました。コンゴで、またエボラの集団感染が起きたということで、MSFが対応に乗り出そうとしていました。私はエボラに関わる活動経験があるので、来てくれないかと。二つ返事で引き受けました。

私たちのチームが、ベニ市に着いたのが8月4日。その日の午後に、まっすぐマンギナの地域診療所に向かいました。この診療所は、流行の中心地に建っています。すぐにでも治療に取り掛からなければいけない、と覚悟していました。

村のエントリーポイントで、義務付けられている手洗いや体温測定のためにバイクを下りる人びと村のエントリーポイントで、義務付けられている手洗いや体温測定のためにバイクを下りる人びと

着いてみると診療所は大わらわ。スタッフは懸命に患者の治療にあたっていましたが、患者は同じ病棟に集められ、適切に隔離されていませんでした。病院には、スタッフや訪問者らの出入りも多く、病棟では床にゴミ箱や医療器具が散乱。相当数の医療スタッフが体調を崩しており、患者の数も日に日に増えていました。

こうした状況は、通常であれば「劣悪な診療所」で片付けられるかもしれませんが、エボラの流行時には「危険」な状況と言わざるを得ません。不衛生な環境下では、医療スタッフもエボラに感染しやすくなってしまいます。また、エボラ以外の治療で訪れる患者にまで感染を広げかねません。

エボラ患者の治療に特化するエボラ治療センター(ETC)の完成をただ待っているわけにはいかないのは明らかでした。診療所では、治療の手が行き届かず、人びとが亡くなっていきます。そこで、一度ベニに引き返し、いくつかの物資を用立ててから、マンギナの診療所に戻りました。

診療所に入るのは、いくぶんか慎重になっていました。診療所内は安全だとは言えず、人びとが亡くなっていく様子も目にしていました。しかし、ここで助けを必要としている人たちがいることはわかっていました。 

エボラ治療に備えて装備するスタッフ(8月上旬ごろ撮影)エボラ治療に備えて装備するスタッフ(8月上旬ごろ撮影)

当時、地元のスタッフは、簡単な防護装備しか着ていませんでした。私たちはまず、エボラに対応できる防護装備を手渡し、着用の仕方などを伝えました。

それからすぐに、診療所でのスタッフと患者の移動経路を決めました。エボラ感染予防のための適切な手順を確立し、また患者の導線を確保することは、エボラ対策の要です。二次感染のリスクが低減され、診療所内の安全性も高まります。

対策の一環として、日課も決めました。定時に病棟回診をすることにし、1日中、診療所のスタッフが不在にならないようにしました。また、診療所の軒下で、エボラ患者の症状に応じて治療の優先度を判断するトリアージも実施しました。トリアージでは、スタッフ3人を配置し、エボラ感染の恐れのある患者を見分けます。感染が疑われる患者を隔離するためです。

エボラらしき症状があり、トリアージを通過した患者に向けての調査も立ち上げました。調査用紙には、患者が過去に接触したことのある人びとについて詳しく記載します。それにより、診療所外で活動するチームが、人びとの接触をモニタリングし、ウイルスの拡大経路を把握できるようにしました。

幸い、何日かしてMSFの応援部隊が到着。おかげで私たちのチームは患者のケアに集中できるようになりました。

その一方でロジスティシャンのスタッフらが、安全な環境で患者を治療できるETCの完成に向け、昼夜問わずに働いてくれました。次の日には、診療所から300メートルほどの場所に、これまでの病院とは違う新たな病院が出現。完成したその日のうちに、患者はETCに移りました。当初37人だった患者は、ものの数日で一気に増えました。ただ9月頭の週には8人、おとといは5人、今日は2人と、患者数は減ってきています。 

患者が退院を喜ぶスタッフ患者が退院を喜ぶスタッフ

私たちには、患者さんがエボラから回復して退院する時、必ずすることがあります。それは、踊りを踊って患者さんを見送ることです。患者さんの退院は、とても嬉しいです。

現在は、マンギナでの任務を終えましたが、今も私たちが成し遂げたことを本当に誇りに思っています。大変ですが、成果は上がっています。我がコンゴには、偉業を成し遂げられる人がたくさんいるのだと思っています。 

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