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インド:「赤い森」に医療を届ける―レベッカ・カスバート医師の手記(その1)

2012年01月23日掲載

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インド中部の森の中で、「ナクサライト」と呼ばれる毛沢東主義反政府勢力が、南北に長く伸びる広大な奥地の支配をめぐり政府軍と戦闘を続けている。この地域の数十の村落に住む人びとは紛争に囚われ、チャッティースガル州の保健省の診療所にはたどりつくことができない。国境なき医師団(MSF)はいかにして彼らのもとに医療を届けているのか――森深くに分け入って活動する移動診療チームの1日を生き生きと描くレベッカ・カスバート医師の手記を、2回にわたって紹介する。

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暑い1日の始まり

「赤い森」の奥に医療を届ける活動に携わったカスバート医師。
「赤い森」の奥に医療を届ける活動に携わったカスバート医師。

砂でざらつく裏道を5分歩くと私たちのオフィスが見えてきます。朝、私は看守が持つような大きな鍵束を取り出して扉の南京錠を開け、昨晩ホワイトボードに書いておいた今日1日の業務を確認します。

私たちは、毎週5つのチームで移動診療を行っています。今日は14人のチームなので、大量の水を運ぶことになるでしょう。気温が最も高くなる夏には、1人あたり3リットルの水を持っていきます。検査用具類、医薬品、カルテと受付簿、ビニールシートと目隠し用垂れ幕、コールドチェーン(低温輸送システム)用クーラーボックス2個など、必要な物資もすべて持っていきます。

チームメンバーが到着しはじめ、それぞれが割り当てられた仕事にかかります。ただし、調理担当は私たちの昼食を作るために朝5時から働いています。保冷剤がクーラーボックスの中に入れられました。バックパックが積み上げられ、車に積む準備が整います。

朝の会議で、チームは安全面での最新情報を聞きます。ナクサライトが「バンド」と呼ばれる通行止めをするかもしれないと言われました。丸太や新たに掘られた深い溝で道がふさがれる可能性があるということです。次に、会議終了間際の質問を駆け足で聞いていきます。運転手はどこにいるの? 軽食はどこ? 私の携帯電話はどこ? それからみなで2台の車に乗り込み、出かけます。

最後は徒歩で、現場に到着

ビジャプールの幹線道路沿いを、自転車や車、学校に向かって歩く子どもたちをかきわけるように、水牛が物憂げにゆったりと歩いています。私たちは車で検問所を通過して町の外に出ます。ニワトリ、子ブタ、犬や牛をよけ、興奮して畑から私たちめがけて走ってくる子どもたちに手を振りながら。

1時間後、車を止め、バックパックをかつぎ、MSFの旗を持つチームメンバーに続いて一列に並んで出発します。既に焼けつくような熱さになっている日差しから頭部を守るため、みなタオルや帽子、スカーフをかぶります。細い道は森を抜け、稲田をめぐり、雨季には腰の高さに水位が上がって流れが速くなる、でもいまは水たまりにすぎない数本の川を越えてのびています。ときどき村の人に出会うほか、いくつもの稲束や薪をどっさり頭に乗せ、腰の上に子どもを乗せて運ぶ女性たちや、弓矢を持った猟師たちとすれ違います。

1時間ほど歩いた後、目的地の村に着いて診療所を設営します。時計仕掛けのように、チームはポールの間に緑色の生地を張り、産前・産後検診の受診用、待合室、検査室や予防接種用に、目隠しで区切られたエリアを作っていきます。配薬担当は古い簡易ベッドの上に、何箱にもなる医薬品を整頓して置きます。子どもの体重測定用の計りがつるされ、看護師たちはポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、はしか、B型肝炎の予防接種の準備を終えました。医師が支度をする間に、健康教育担当が診察の順番を待つ人びとに下痢や疥癬(かいせん)、マラリアの治療と予防法について話しはじめます。

移動診療の基本とは

最初の患者が受付を終えました。コミュニケーションは時間と忍耐が必要です。内容は看護師が分かるヒンディー語に訳さなければならないことが多いほか、外国人スタッフには(必要に応じて)英語、そして地域の方言が必要になるからです。MSFは通訳を1人置いています。この人が受付カードを取り、診察を受ける患者を呼ぶのです。患者と付き添いの人は、病歴と、最後に医療機関にかかったときのことについて、細かな問診を受けます。医師の診察を終えた後、ある人は追加の検査や薬の受け取りに行き、またある人は予防接種やけがの処置を受けに行きます(5歳未満の子どもはすべて、予防接種を受けに看護師のところに行きます)。妊婦と栄養失調の治療を希望している人は、直接看護師のところに行きます。熱がある人にはすぐにマラリアの検査を行います(夏にはその後の期間に比べてマラリアの患者は少なくなりますが、簡易検査を使えば熱帯熱マラリアやほかのマラリアの混合感染を検知できるのです)。結核の患者は全員が健康教育担当に会って、サポートとカウンセリングを受けるようになっています。

時間の経過に伴い、検査室を熱気の中から涼しい場所に移し、体温計をコールドチェーン用のクーラーボックスで冷やします。とても暑くほこりっぽい環境ですが、チームは元気一杯、仕事に集中しています。配薬担当は、患者に薬の服用のしかたを根気よく説明します。毎日決められた時間にのむ錠剤の数を描いた小さな袋を使って、読み書きを習う機会がなかった人びとに内容を伝えます。マラリアの治療を始めるため、薬を砕いて砂糖と混ぜ、水と一緒にのませてもらう子どももいます。

ここに来る子どもたちの大半はやせ細っています。特に1歳から2歳の子どもは病気で体重が落ちやすく、栄養補助食の投与や集中栄養治療に受け入れる水準に達している子が多くいます。MSFは母親にも栄養価の高い栄養治療食を処方し、地域保健員とアウトリーチ活動*担当が、定期的な摂食スケジュールを守る大切さを説明し、その後も子どもの治療の進み具合を見守ります。

*アウトリーチ活動:こちらから出向いて、援助を必要としている人びとを積極的に見つけ出し、サービスを提供すること。

(「その2」に続く……)

「赤い森」に医療を届ける―レベッカ・カスバート医師の手記(その2)

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