パキスタン:清潔な水が戻った町
2010年08月20日掲載
スワート渓谷は、かつて「パキスタンのスイス」として知られ、家族が山で週末の散策と美しい河岸でピクニックを楽しんでいた場所である。2008年に民兵とパキスタン軍の間で起こった紛争以来、この地域では依然として緊迫した状態が続き、暴力に満ちたものとなっている。大洪水と、その壊滅的な被害は、スワート郡の人びとにとって全く予想もつかない事態であった。
コレラを防ぐには清潔な水を供給することが重要
およそ3週間前、激しい雨と洪水がパキスタン北西部を直撃した際、スワート渓谷も例外ではなかった。巨大なコンクリート製の橋、道路、建物が、大量に押し寄せる水に押し流された。現在は、このような破壊や死者といった直接的な被害に代わり、水が媒介する疾患などが新たな懸念として浮上してきた。
洪水は送電網を破壊した。それは、水処理施設が通常どおりに機能しなくなるということを意味する。スワート郡の中心都市ミンゴラでは、40万人の住民の大半が、清潔な水の供給を受けられなくなった。毎年コレラ患者が出る地域としては、住民に清潔な水を供給することは大変重要である。
スワート郡における国境なき医師団(MSF)の水・衛生活動の担当者アッズーラ・ディンカは語る。
「私たちは湧水を見つけ、地域の人びとからの承諾を得て水を汲み上げ、ろ過し、塩素消毒し配布しています。浄化された20万リットルの水が、毎日MSFとさまざまな国家および国際機関によって配布されています」
地域社会とともに給水活動を実施

市内の複数の場所に配置されたタンクに水が供給される。
スワート郡ミンゴラにて。
地域の人びと全員が安全な飲み水を利用できるように、水は市内の複数の場所に設けられたタンクに供給されている。被害の大きな地域では、このように比較的以前から行われているような方法に加えて、MSFは地域社会を通じて人びとへ水を供給している。
スワート郡におけるMSFのプログラム責任者ホセプ・プリオル・ティオは語る。
「ミンゴラに住む人の中には、まだ個人の水源を利用できる人もいるので、私たちは彼らに、発電機を数時間利用しませんかと申し出ることで、代わりに水を近隣の住民と共有してくれるように頼みました。地域の人びとからの反応は上々でした。特に給水トラックが到達できない地域の人びとは喜びました。現在では、モスク(イスラム教の礼拝堂)、学校、また個人が、清潔な水を地元地域の人びとに提供してくれるようになったのです」
この団結は、洪水後に一般のパキスタンの人びとが、どのような反応を示したのかをよく表している。多くの人が泊まれる場所を開放し、食糧を与え、ときにはすべてを失った親戚や隣人に金銭的支援も行った。水は、パキスタンの人びとが地域の健康を考慮し、快く共有してくれたものの1つに過ぎない。
水を媒介とする疾患の予防が最優先課題

水はトラックで市内の各地へ運ばれる。コレラの予防には
清潔な水の供給が重要である。スワート郡ミンゴラにて。
洪水後、水を媒介とする疾患の予防が、MSFにとって最優先課題である。すでに下痢の患者が急増している上、コレラはこの地域における風土病で、毎年患者が出ている。清潔な水がなければ、コレラのような疾患は山火事のように急速に広がる可能性がある。急性の下痢の患者がMSFの活動する病院に入院するときは、医療従事者と水・衛生活動の専門家が、どこから来た患者なのかを共有するために地図に記入している。
水・衛生活動担当のディンカは語る。
「いくつかの症例が同じ地域から来ているとわかり、すぐにその地域一帯に力を入れて取り組みました。たとえば、今日はミンゴラ市内でも貧困世帯が多く被害も大きかったタヒール・アバドに、蛇口付きのピロータンク*を設置します。この地域の数人が、急性の下痢にかかって来院したので、何かよくないことが発生しているとわかったのです」
*緊急援助活動ほか、へき地での学術調査基地などでも使用されている固定式水タンク。
実際、洪水の被害を受けた地域の井戸水は汚れて飲むことができず、人びとは清潔な水を得るために、遠くまで歩かなければならなくなった。
2008年の苦い経験を繰り返さないために
2008年にも、この地域で同じようなことが起こった。民兵とパキスタン軍の間で行われた激しい戦闘の間、100万人が住むスワート渓谷への電気の供給が止まった。この年はコレラも流行し、4000人が罹患、そのうち入院を必要とする重症例は2500件あった。
プログラム責任者のティオは語る。
「現在私たちは、最も被害の大きかった地域の人びとに、最低限安全で清潔な水が供給されることで、2008年の苦い経験を繰り返さないようにしています。私たちは最悪の事態に備えて病院の隣に複数のテントを張っています。下痢かコレラの患者が増える可能性もあるからですが、使わなくてもすむことを願っています。皮肉なことに、2008年の紛争時、この同じ場所で同じテントを、異なる医療上の緊急事態、つまり、負傷者の治療のために使ったのです」
現地活動データ(2010年8月19日現在)
- 救援物資配布数および配布対象者数:8938世帯(約62566人)に8938セット
- 配布テント数:4700張
- 給水量:1日あたり48万リットル
- 給水地点:52ヵ所
- 診療件数(病院、移動診療合計):14302件
- 移動診療(定期稼動):9チーム
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