パキスタン:「奇跡を起こそうとしています」
2010年08月17日掲載
国境なき医師団(MSF)のパキスタンにおける副活動責任者アリーム・シャーは、パキスタン南部の洪水被災者に対する初期段階の援助について次のように語った。
洪水を予想だにしていなかった被災者
現地に入った直後は、被災地について数々の情報が錯綜していました。ウスタ・ムハンマドを拠点とするMSFのチームは、バルチスタン州の中でも遠く離れた地域に向かい、緊急用の救援キットを手渡すことと並行して医療活動を開始するなど、多忙をきわめています。
チームは、バクティラバードから救援活動を始めました。この街は完全に水没し、大半の家屋が破壊されていました。飲料水は街へ鉄道によって供給されていましたが、駅と15kmにわたる線路が洪水によって破壊されていたため非常に難しい状況でした。MSFは、現地で援助活動を開始した最初の団体です。プログラム責任者と数人の医師は、750個の衛生用品キット、調理器具セット、避難用のビニールシートとともに、清潔な飲料水を供給するために多数の貯水容器の配布を手配しました。また、被災者のほとんどが、洪水になるとは予想だにしていなかったのです。夕方に水位が急に上がり始め、彼らには食料、飲料水などを確保する時間もありませんでした。多くの人びとは川に飛び込んで水没を免れた建物の一部に避難するなどし、いまもそこに留まっています。
突然変化する予測できない水の流れ

パキスタンにおける副活動責任者アリーム・シャー
(2008年撮影)
最も深刻な被害を受けたのがどこなのか、それを知ることはとても困難でした。援助をどこに集中させるべきかを把握する唯一の方法は、迅速に調査をして何が起きているのかを見極め、人びとが何を必要としているかを知ることでした。そんな中、数日前にシンド州にあるインダス渓谷のサッカル周辺地域で、洪水被害がさらに深刻化しているという情報が入りました。
どんな援助が必要とされているかを調査するため、私はコ・メディカル(医者・看護師以外の医療従事者)とともに現地に赴きました。そして、洪水に取り囲まれるということがどういうものかを実感したのです。平地の草原を車で移動していたとき、洪水が南の方角からゆっくりと押し寄せてきました。道路上の水位は約15cmで、4輪駆動車の走行には問題はありませんでした。ところが突然水の流れが変わり、今度は北の方角から水が迫ってきました。この2つは全く異なる水の流れで、変化も非常に急でした。また、水位も急上昇して始めました。車は動かなくなり、私たちはどうにかガソリンスタンドのある小さな丘の上まで車を押して退避しました。唯一避難のできた場所が、そのガソリンスタンドの屋根の上で、私は30時間身動きが取れませんでした。
ガソリンスタンドの周りは、約200件の泥壁の家がある集落で、家々は周囲の草原よりわずかに高い場所に建てられていました。私は、この一帯の家屋が洪水によって破壊されたのだとわかりました。人びとは泳いだり、タイヤのチューブを浮き輪代わりに使い私たちが避難していた屋根に近づいてきました。彼らは私に救助が必要であるかどうかを尋ね、安全は確保するので心配する必要はないと語りました。彼らはまた、私が医師であるのか、私の団体が助けに来てくれるのかどうかを尋ねてきました。彼らは食べ物を数日分し持っていなかったので、どこからか救助の手が差し伸べられるという奇跡を待っていたのです。夜になり、ほとんどの人は残っているかもしれない家財を探すため、廃墟と化した自宅へと戻って行きました。
身動きがとれずに2日間が経過
水位が突然変化するという状態は続いていたため、これはさらに危険なことになると直感しました。MSFは、私に被災地からできる限り迅速に避難するよう言いましたが、その時点でMSFにできることは何もありませんでした。私もあらゆる努力を払いましたが、少なくとも周囲10kmが水に囲まれている上、しかも私は泳ぎが得意ではないのです。夜が近づくにつれ、水中にたくさんの蛇がいることが私はとても心配でした。実際にこの目で無数の蛇を目撃したのです。蛇も居場所を失い、避難先を求めていたのかもしれません。このように孤立した状態で蛇に噛まれると大変危険なので、恐怖感がつのってきました。
2日目が終わり近づき、ヘリコプターがやってきて食料を投下するとともに、私をサッカルまで連れ戻してくれました。私はいま、洪水被害のない場所でチームの活動の調整を続けています。私たちは、被災者が切実に必要としている奇跡が起こるよう作業を続けています。
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