アフリカ睡眠病:収束の目処は立ったのか?
2010年07月08日掲載
2010年6月、世界保健機関(WHO)は、アフリカ睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)の新症例数が50年来初めて1万件を切ったと発表した。報告によると、2004年の症例数は1万7600件だったのに対し、昨年の症例数は9877件だったという。WHOはこの結果に当然ながら満足しており、アフリカ睡眠病の根絶という希望を再び抱き始めたと伝えている。ただし、この発表には1つ注意書きを付け足す必要がある。それは、アフリカ睡眠病はまだ感染規模が正確に把握されておらず、いまも数知れないアフリカのへき地や放置された地域でまん延しているという現実である。
いまもなお人びとを脅かすアフリカ睡眠病

アフリカ睡眠病の診断を受ける子ども。
コンゴ、オー・ウエレ地方にて。
(2008年11月撮影)
アフリカ睡眠病はツェツェバエに刺されることによって感染する寄生虫疾患である。治療をしなければ100%死に至る。アフリカ睡眠病は過去1世紀にわたってアフリカで猛威をふるい、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ナイジェリア、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の社会経済に深刻な影響をもたらし、多くの家族や地域の人びとが命を落とした。1960年代までにはいったん沈静化し、保健分野における過去の課題とみられていた。しかし、その後、監視体制が減速したことで、1970年代中頃には再び流行していた。
アフリカ睡眠病がいまなお何百人もの人びとに影響を与えていることは、国境なき医師団(MSF)の経験から証明されている。MSFは2009年初期までコンゴのオリエンタル州オー・ウエレ地方でアフリカ睡眠病の調査と治療のプログラムを提供していた。当時、医療チームが発見した感染者数の多い地域では、4万6601人のうち3.4%(1570人)が陽性と診断され治療を受けた。しかし懸念すべきことに、2009年3月に紛争のために活動を中止せざるをえなくなり、以来、多くの人びとが必要な治療を受けておらず、消息もわかっていない。
また、紛争はアフリカ睡眠病の流行を増幅させている。人びとが戦闘を逃れて移動することで、患者が寄生虫を別の地域に運び込んだり、以前根絶された地域に再び流行をもたらすリスクがある。未感染の蚊が感染患者を刺した後で、他の人を刺して感染させるといったような感染サイクルが始まる危険性もある。
診断法と治療法の調査と開発にさらなる努力を
感染規模がわかっていないだけでなく、対処法も深刻なまでに不足している。診断方法は古く、アフリカ睡眠病の感染が疑われる患者にとって、病気の進行が初期か後期かを識別する手段は腰椎穿刺(ようついせんし)*しかない。昨年まで後期(第2段階)患者の治療法はメラルソプロールしかなかった。メラルソプロールは20年前に発見されたヒ素系の治療薬で、毒性が強く患者の3~10%は落とす。2009年末に新しい併用療法(NECT:ニフルチモックスとエフロルニチンの併用療法)が国家プログラムによる認可を受けて事態は大きく前進した。しかし、この治療法は10日間の入院を必要とし、受けられる場所も限られている。新しい診断法と治療法の調査と開発を持続することが、いまも緊急の優先課題となっている。
*髄液を採取したり薬液を注入するために、腰椎部で脊髄膜下腔に専用の針を刺し込むこと。
MSFは25年の間に5万件近くの治療を行い、いまも大流行に対応する主要な団体の1つである。現在コンゴ、中央アフリカ共和国、チャドでプログラムを提供しているほか、過去に深刻な流行を経験したウガンダでも活動を再開する予定である。アフリカ睡眠病の根絶へ向かっていると主張する前に、さらなる努力を続けることが不可欠である。
>>WHOはアフリカ睡眠病の新症例数が50年来初めて1万件を切ったと発表(英語)
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