マラウイ:はしか予防接種の現場から
2010年06月21日掲載
アフリカ南部マラウイで、はしかが大流行している。この流行に対応するため国境なき医師団(MSF)の活動に加わったスコットランド、グラスゴー出身の医師、ネイル・ストーンは、活動の様子を次のように語った。
死に至る病、はしかの流行

ネイル・ストーン医師。
「はしかに感染している人は前に進んでください」
マラウイ南部、ブランタイヤの町に近い農村部にあるリラングウェ診療所で医療助手が叫ぶと、赤ん坊を背負った25人の母親が、人ごみの前へ押し出されるように殺到しました。赤ん坊たちはみな熱っぽく、鼻水が出ており、眼は赤く、体にはまぎれもない発疹が見られます。これは過去10数年間にマラウイを襲ったはしか流行の中で、最も大規模であるという目に見える証拠です。この診療所だけでも毎週100人以上のはしか患者が訪れます。マラウイ全体では、これまでに9000人以上が感染しました。
はしかはウイルスによって発症し、非常に感染力が強く、せきやくしゃみで簡単に広がる病気です。先進国では子どもがかかる命に別状のない病気として軽視されていますが、ここでは命とりの病気です。ほとんどの患者は無事回復しますが、肺炎や下痢といった命を脅かす合併症を引き起こす場合もあります。ビタミンA欠乏症の子どもの場合、視力を失うこともあります。また、まれに不治の髄膜炎に発展することもあります。栄養状態の悪さ、極度の貧困、HIVの高い罹患率を考えると、アフリカのこの地域でのはしかの流行は、多くの命を奪う悲劇となり得るのです。
はしかの流行に対するMSFの取り組み
MSFはマラウイで20年以上活動しており、いまでははしかの流行にも迅速に対応できる体制があります。私の役割はマラウイの医療スタッフを支援し、流行の正確な規模を測る手助けをすることでした。マラウイでは、医療スタッフが慢性的に不足しています。医師は人口10万人に対したったの2人しかおらず、世界で最も少ない国の1つです。診療所にはたいてい、2年間の研修を受けただけの医療助手しかおらず、彼らが日に200人以上もの患者を診ているのです。
私はブランタイヤ郡にある診療所をすべて訪問し、スタッフがはしかの診断や、合併症への対応、病院に搬送すべき患者の判断ができるよう手助けをしました。はしかの治療に不可欠な薬は不足しているか、全く手に入らないことが多いので、MSFは何であれ必要なものを定期的に寄贈していました。ビタミンA補給剤や二次感染予防の抗生物質、脱水症状の際の経口補水液、発熱の際のパラセタモール(解熱剤)などです。単純な医薬品ですが、これらが命を救うのです。
また、ブランタイヤの中核病院であるクイーン・エリザベス中央病院には、追加の看護スタッフや医薬品、医療機器を提供しました。この病院には最も症状の重いはしか患者が運ばれてきます。はしか患者専用の病棟も2棟設けられました。1つは成人病棟、もう1つは小児病棟です。流行の間はどちらもあふれんばかりに満員でした。
250万人の子どもに実施-過去最大の集団予防接種

ブランタイヤ郡で行われた予防接種の準備の様子。
治療も重要ですが、はしかの流行を止めるのに効果的な唯一の手段は予防接種です。MSFは保健省と協力をしながら、マラウイでは過去最大規模の集団予防接種を実施しました。200人のマラウイ人スタッフが、接種技術や「コールドチェーン」(低温輸送体系:ワクチンなどの低温物流に使用)についての研修を受けました。なぜならば、はしかのワクチンの温度は常に2~8度に保たなければならず、熱帯性気候の土地では、物流上大きな困難となるからです。
数百ヵ所に接種会場を建設しました。焼けつくような太陽からスタッフを守る屋根を作り、患者が順序良く並べるようにするためです。これほど大規模な医療援助の手配は大事業です。はしかの流行の影響を最も受けやすい生後6ヵ月から15歳までの子ども全員が、無料で接種を受けられるのです。
集団予防接種の困難
時には人が集まりすぎてしまうこともありました。アフリカの強烈な太陽の下で、行列が接種会場を何重にも囲んでいました。事前に町の伝令役がメガフォンを使って予防接種の実施と、なぜそれが必要かを人びとに伝えて回りました。確実に情報が行き渡るよう、ラジオや新聞でも告知されました。
親たちはわが子に接種を受けさせることを切望しました。ほとんどすべての家庭が、何らかの形ではしかの影響を受けていたのです。行列のルールは時に乱れ、人びとは先頭をめざして押しのけあいました。みな、子どものためになんとかしてやりたかったのです。この集団予防接種の期間中、1日で8万人以上の子どもが接種を受けました。
私の役割は、すべてがスムーズに運ぶよう調整すること、そして注射針が刺さる事故が起きた際に対応することでした。これはマラウイのHIV罹患率が驚くほど高いという点で、考慮すべき重要な事柄なのです。
数百人の命を救う
集団予防接種の翌週に診療所を訪問すると、スタッフたちは晴れやかな顔ではしかの患者数が日に日に減っていることを報告してくれました。1人当たり1ユーロのコストで、確かに数百人の命を救うことができたのです。
しかしまだ終わったわけではありません。MSFは現在も首都リロングウェで子どもを対象に予防接種を続けており、さらに別の地方でも準備をしています。今回の集団予防接種では、マラウイの子ども250万人以上に接種することを目標にしています。
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