ソマリア:2009年後半の活動概要
2010年06月04日掲載
ソマリアでは20年近く中央政府の存在しない状況が続き、無差別の暴力と長引く干ばつに人びとは苦しめられてきた。ソマリア全土での保健医療のニーズはきわめて高く、干ばつ、戦闘、高騰する食糧価格によって、多くの地域で状況はますます悪化している。高まるニーズに比べて、実際に提供されている医療はあまりにも不十分で、ソマリア全土で多くの人びとが医療を受けられない結果、必要以上の苦しみに悩んでいる。
ソマリアでの活動の背景と開始時期

ソマリアでMSFが運営している栄養治療センターの様子。
世界保健機関(WHO)の2009年の報告によると、ソマリアの母子保健に関する健康指標は世界の中でも最低レベルにある。乳児死亡率は生児出生1000人に対して88人、5歳児未満児の死亡率は1000人に対して142人、また妊産婦死亡率は生児出生10万人に対しておよそ1400人ときわめて高くなっている。女性が妊娠中または出産時に命を落とすリスクは10人に1人である。また5歳未満児の5人に1人は急性栄養失調に陥っている。
崩壊しつつあるインフラ、技能の未熟な医療従事者、そして深刻な医療スタッフと施設の不足が医療サービスの妨げとなっている。必要な予防接種をすべて受けている子どもはわずか5%、下痢に対する適切な治療を受けている人はわずか7%、そして産前検診を受けている女性は26%にすぎない。多くの地域には民間の診療所があるが、ソマリアの人びとの大半は、診察や医薬品などの医療費をまかなう余裕がなく、そのため基礎的な医療をNGOに頼っている。
国境なき医師団(MSF)は1979年に初めてソマリアで緊急プログラムを開始した。1991年からは国内に常駐し、現在も長期的な医療プログラムを運営している。2010年初めの時点で、MSFは8つの地域、バナディル地方、ベイ地方、ガルグドゥード地方、ヒーラーン地方、ジュバ川下流地方、シェベリ川中流地方、シェベリ川下流地方、ムドゥグ地方で10のプログラムを運営している。
長年にわたり、MSFはソマリア国内に外国人派遣スタッフを常駐させている数少ない援助団体の一つだった。しかし近年、治安の著しい悪化によって、MSFは紛争地域での人道援助活動に伴う危険を最小限に抑えるため、活動方法を変えざるをえなかった。現在ソマリアにおけるすべてのMSFのプログラムは、献身的なソマリア人スタッフが、ケニアのナイロビに拠点を置く運営チームの協力を受けながら運営している。ナイロビの運営チームのスタッフは、治安状況が許す限り現地を訪れ、その活動をサポートしている。
現在行われているプログラム
MSFは現在も、ソマリアの人びとに無償で質の高い医療を提供する主要な団体である。2009年には、1316人のソマリア人スタッフが、ナイロビに拠点を置く運営スタッフ103人の協力のもと、医療活動を行った。65万3573人に外来診察を行い、うち23万7918人は5歳未満の子どもだった。4万9000人以上の女性が産前検診を受け、2万5961人がMSFの支援する病院や診療所に入院した。手術数は2987件、うち906件は暴力による負傷者だった。また医療チームは、死に至る顧みられない病気であるカラアザール(内臓リーシュマニア症)に苦しむ211人の患者のほか、2657人のマラリア患者、1376人の結核患者を治療した。栄養失調に苦しむ3万4635人に食糧と医療を提供し、22万4179人の子どもに予防接種を実施した。このうち、はしかの予防接種を受けたのは9万2304人だった。
2009年6月末にバコール地方でのプログラムを中止するまで、MSFはこの地方の中心都市フドゥールで、ベッド数293床の診療所を運営し、この地方の住民およそ25万人に医療を提供してきた。MSFはまた、バコール地方で3ヵ所、隣のベイ地方で1ヵ所、計4ヵ所で診療所を運営していた。2009年前半の6ヵ月間に、医療スタッフは2万人以上に外来診察を行い、682人がこれらの診療所に入院した。207人の分娩介助を行い、2866人の子どもに予防可能な病気の予防接種を行った。
2009年を通じてソマリアのその他の地域で、MSFは緊急医療サービスを提供し続けた。MSFが医療プログラムを運営しているのは、バナディル地方、ベイ地方、ヒーラーン地方、ガルグドゥード地方、ジュバ川下流地方、シェベリ川中流地方、シェベリ川下流地方、ムドゥグ地方の8地域。
【バナディル地方】
モガディシオ北部地域
1994年からモガディシオ北部ヤクシド地区で、数少ない公的な医療施設の一つを運営している。2007年にMSFは、カラーン地区、アブドゥル・アジズ地区(リド)、バルカドの3ヵ所に、小児外来診療所を開設。また、アブドゥル・アジズ地区には、ベッド数50床の小児入院病棟を開設した。2009年には4ヵ所の外来診療所で8万5156人を診察し、無償で医薬品を提供した。5613人の女性が産前検診を受け、557人の子どもたちが栄養失調の治療を受けた。また2000人以上を入院病棟へ受け入れた。しかし、2009年7月、戦闘激化のため、同病院と外来診療所での活動を中止せざるをえない事態となった。
2010年初頭には、モガディシオ南部のメディナ地域で調査活動を実施。この地域では多数の人びとが家を追われて避難民となっており、MSFはできる限り早急にこうした人びとへの援助を開始したいと考えている。
デイニール地域
モガディシオから9キロ北に位置するデイニール病院で、MSFは緊急救命手術やモガディシオで続く戦闘で負傷した人びとへの治療を行っている。大規模な修復工事のおかげで、現在この病院にはベッド59床のほか、手術室2室、救急処置室、トリアージ・エリア*、集中治療室が備わっている。2009年には2391人が同病院で診察を受け、MSFから無償の医薬品を受け取った。2036人が入院し、うち1137人は爆破による負傷者だった。さらにこのうち537人は女性と14歳未満の子どもだった。また、MSFは財政面や医療品の供給を通じて、病院全体が機能するよう支援している。
*トリアージ・エリア:重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決め、患者のふるいわけをする場所。
【ベイ地方】
ディンソールで入院治療および外来治療を行うベッド数65床の診療所を運営している。地域全体で人口約11万人に対応している当施設の入院病棟では、成人と小児に医療を提供するとともに結核とカラアザール(内臓リーシュマニア症)の治療、合併症を伴う重度栄養失調児への栄養治療を行っている。外来病棟では、合併症を伴わない重度栄養失調児のための通院栄養治療センターの運営を含む、治療と予防的治療を行っている。2009年には5万9920人を診察し、無償で医薬品を提供した。3399人の女性が外来病棟で産前検診を受け、801人が同病院の産科で分娩介助を受けた。1600人以上の栄養失調に苦しむ子どもが、同病院の栄養治療プログラムで治療を受けた。またMSFは、2009年12月にディンソールで発生したはしかにも対応し、464人を治療した。さらに集団予防接種にも着手し、生後6ヵ月から15歳までの子ども1万1560人が接種を受けた。
【ガルグドゥード地方】
グリ・エル市にあるベッド数80床のイスタルリン病院で、外来治療と入院治療を提供しており、同病院には小児病棟、婦人科病棟、産科病棟、分娩室、手術室、外科病棟、検査室、放射線施設が備わっている。また産前ケアや予防接種などの予防医療も提供し、多数の死傷者にも対応ができる。さらにガルグドゥード地方では、地域の中心都市ドゥーサマレブに1ヵ所、ヒンデルに1ヵ所の診療所を運営している。これら2ヵ所の診療所は2008年1月に開設された。2009年には病院または診療所の各病棟で6万4329人を診察し、無償で医薬品を提供した。およそ4000人が入院し、うち799人は分娩介助を必要とする女性だった。重度、軽度合わせて802人が外科手術を受け、217人の子どもが栄養失調の治療を受けた。2009年初頭、グリ・エル市とドゥーサマレブ市で武力衝突が再発し、何千人もの人びとが住んでいる場所から避難した。MSFは家を追われた人びとのために清潔な水を数百万リットル供給し、医療活動に従事した。またグリ・エル市のイスタルリン病院で、戦闘による負傷者230人以上の治療にあたった。2009年4月から7月までの間、同地域ではしかが発生し、700人以上のはしかに関連した合併症の患者を治療した。
【ジュバ川下流地方】
MSFはジュバ川下流地方の町マレレとジャマーメで、一次医療、二次医療、救急医療を提供している。
マレレ
MSFは、外来病棟、小児向け入院病棟、産科病棟を運営しており、医療スタッフが緊急産科治療を含む分娩サービス、栄養治療、栄養補給、外科手術、外来患者に対する治療と予防医療、そして結核の治療を行っている。2009年には3万5644人を診察し、無償で医薬品を提供した。このうち1万2756人は5歳未満の子どもだった。1308人が治療のため入院し、2882人の子どもが栄養治療を受けた。2009年8月、若い女性のソマリア人医師が着任したことで、MSFはマレレでの緊急外科手術を再開することができた。同医師は2008年末にモガディシオの大学の医学部を卒業している。2009年の8月から12月までの5ヵ月間に、同医師は帝王切開4件と小手術67件を担当した。近隣のジリブで行っていた栄養治療プログラムは、治安悪化のため2009年8月に中断せざるをえなかった。これにより何百人もの重度栄養失調児が必要不可欠な医療を受けられずにいる。2009年末時点で、MSFは依然としてジリブでの活動を再開できないままでいる。
ジャマーメ

ソマリア南部ジャマーメで運営している病院の様子。
MSFは外来病棟と入院病棟を運営しており、ここでは成人・小児向け医療、産科ケア、重度の栄養失調の治療、栄養スクリーニング(治療の必要な患者の選定、選別)、通院治療を行っている。また、栄養面での緊急事態や流行性疾患の発生に対応するため計画的に監視をしている。2009年11月には、新たに産前ケア病棟が開設された。2009年の1年間で1572人の患者が治療のため入院した。4万3828人を外来部門で診察し、無償で医薬品を提供した。受診者数は前年に比べて2倍以上増加したが、これは無償で質の高い医療を求めて他の地方からも人びとが続々と訪れているからである。2009年には、合計で1938人の子どもが栄養失調の治療を受けた。
【ヒーラーン地方】
MSFはベレトウェイン市のベッド数99床の病院で、この地方の住民28万人を対象に、二次医療を無償で提供している。ここでは緊急手術、外傷治療、成人・小児向け治療、重度栄養失調の治療を行っている。また同地方では、医療上の緊急事態に対応できる体制が整えられており、救急治療室、経過観察室も用意されている。2009年には2593人が同病院に入院した。緊急手術は971件行われ、うち178件は暴力の被害者だった。1411人の子どもが栄養失調の治療を受けた。また、はしかの発生件数の増加を受けて、2009年3月には集団予防接種キャンペーンを開始し、生後6ヵ月から15歳までの子ども2万6463人が予防接種を受けた。
【シェベリ川下流地方】
MSFはハワ・アブディで、外来部門、小児入院病棟、コレラ・下痢治療センター、栄養治療プログラムを運営するほか、トラックによる給水、毛布や食糧以外の救援物資の配布も行っている。アフグーエでは、外来病棟、通院治療センターでの栄養治療プログラムを運営するほか、医薬品を始めとする医療物資の提供や、病院職員への奨励金支給によって病院の活動を支援している。2009年にはこれらの施設で16万2782人を診察し、無償で医薬品を提供した。このうち半数以上は5歳未満の子どもだった。またアフグーエの診療所を訪れるはしか患者の増加を受けて、2009年8月末には集団予防接種キャンペーンを「アフグーエ回廊*」で開始した。8月末から10月までの間に、3万1785人の子どもに予防接種を実施し、296人の患者を治療した。
*アフグーエ回廊:モガディシオの北西部約25kmのアフグーエまで伸びる道路。
【シェベリ川中流地方】
ジョハール、マハディ、バルカドといった農村部にある4ヵ所の診療所のネットワークを使って、基礎的な医療を提供している。診療所では外来患者に予防医療や治療、母子医療を、移動診療および常設の診療所を通じて、広範な予防接種プログラムを実施している。産科病棟では、自然分娩、帝王切開、家族計画、性暴力の被害者向けのケアを行っている。また、栄養治療センターと通院治療センターを通じての栄養プログラムも提供している。2009年にはこれらの施設で11万8968人を診察し、無償で医薬品を提供した。また外来部門で2万6542人の女性が産前・産後ケアを受けた。5336人の子どもを集中栄養治療センター(TFC)に受け入れ、栄養失調の治療と栄養失調に関連した合併症の病状管理を行った。産科病棟での分娩数は合計で1666件。MSFは7月にジョハールで発生したはしかに対応し、ジョハールの避難民キャンプだけで1000人以上、その他にバルカド、ウォルシーク、エル・マハンで3756人を治療した。はしかの予防接種を受けた子どもは6万2132人。2010年前半現在、MSFはマハディとゴロレイの農村部を対象にした結核治療プログラムの開設を予定している。
【ムドゥグ地方】

MSFが実施している栄養治療プログラムの様子、
南ガルカイヨ病院にて。
南ガルカイヨと北ガルカイヨの両方で活動を行っている。南ガルカイヨ病院では、外来治療、産科ケアと予防接種を含む予防医療、さらに入院治療が受けられる。医療スタッフは小児医療、緊急産科治療を含む産科医療、栄養治療、結核治療、外科治療を行っている。同病院はこの地域の人びとにとって、無償で外科治療の受けられる唯一の施設であり、遠くはエチオピアからも治療を求めて多くの患者がやってくる。2009年には南ガルカイヨ病院で4万1765人に外来診察を行い、無償で医薬品を提供した。分娩介助は990件、手術数は360件だった。
北ガルカイヨの診療所では、結核治療と栄養治療を行っている。南ガルカイヨ病院と北ガルカイヨの診療所の両施設で、栄養面での緊急事態や流行性疾患の発生に対応するため計画的に監視をしている。
2009年には両施設で763人の結核患者が治療を開始し、1万967人が予防接種を受けた。南ガルカイヨ病院と北ガルカイヨの栄養治療センターでは、2009年10月から12月までの間に2281人の重度栄養失調児が治療を受け、2009年末にMSFの栄養治療プログラムのもとで治療を受ける重度栄養失調児の数は過去最高に達した。
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